マーケティング新時代 造り物の終焉

第19回

日本語を活用したマーケティング

イノベーションズアイ編集局  マーケティングコンサルタント N

 

近年、外国人観光客の急激な増加を実感している方も多いかと思うが、実際に2025年1月の訪日外国人の人数は、前年同月比で40%以上増加し、単月として過去最高であった2024年12月の348万人を超え370万人を突破したそうだ。訪日目的としては、「日本食を食べる」という目的が一番多いが、神社などの歴史的建造物訪問や伝統文化の体験、温泉や歌舞伎、アニメの聖地や景勝地観光の他、日本の日常生活を体感したいなど、様々な日本文化に触れることを目的としている。

日本が人気となった背景として、アニメの世界的ヒットの他、Youtubeなどで日本の文化や日本人の日常が注目されたことや、海外の著名人が日本を好意的に紹介したり、実際に訪日した人による好意的な口コミが拡散されていることなどがある。

日本語の人気

このような日本人気の中で、話題となっていることのひとつに「日本語」がある。日本語は難しい言語として有名で敬遠されがちだったのだが、現在は世界でも学習者が非常に多い人気言語となっている。アニメでは日本の声優が非常に評価されており、日本語音声で字幕視聴する人も多い。また、近年ヒットしているJPOPなども日本語歌詞のままでヒットしている。その結果、特にアメリカなどでは日本語がそのまま通じる単語が増加しており、「KAWAII」や「SENPAI」などといった単語も有名になっている。

日本語の特徴

アニメで日本語を覚えた外国人の中には、「拙者はジョージと申す。」などと話す人もいるのだとか。というのも一人称は英語では「I」のみだが、日本語では、わたし、わたくし、わし、ボク、俺、それがし、、、などいくつもの一人称を表す単語が存在する。日本人は自然に使い分けているが、学ぶ側からしたらたまったものではない。そして一生懸命覚えたにも関わらず、実際の日本語の会話では主語を省くことがかなり多いという仕打ちを受けてしまう。他にも数の数え方では、1本(PON)2本(HON)3本(BON)と数によって読み方が変わることや、一人、一名、一匹、一羽、一頭、一台、一個、、ど数える対象で単位が変わるなど言われてみれば複雑な法則が多々ある。

単語意外でも、敬語、丁寧語、謙譲語、タメ口など、相手による言葉の変化、ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベットの使い分けによる表現の違い、擬音語、擬態語などのオノマトペを常用した表現、小雨、時雨、夕立、春雨など、雨が降ってるだけでも情景も含めた様々な単語があるなど、日本語にはこういった他の言語には該当するものがない豊かな表現力を持つ言葉が多く学習者には大きな壁となるのだが、反面、これらの日本語特有の表現力は非常に魅力的にも映る。

日本語にしかない言葉

日本語にしかない言葉で有名なものとして、「わびさび」「もったいない」「切ない」「初心」「いただきます」「ごちそうさま」「おもてなし」などがある。「もったいない」は、「Mottainai」として、英語でもそのまま使われていたりする。「初心」についてはアップル社の創業者スティーブ・ジョブス氏が素晴らしい言葉だと称賛したことでも有名だ。「おもてなし」は東京オリンピック誘致のプレゼンで有名になったのは記憶に新しい。「切ない」は意外にも該当する単語がほとんど無いようで、ポルトガル語の「サウダージ」が比較的近い意味の言葉となる。台詞や歌詞などでもよく使われる「恋の予感」は、英国メディアのBBCが英語に訳せない日本語として記事にしたことで話題となったこともある。

他にも、「お疲れ様」や「よろしくお願いします」などは、使うシーンによって意味合いやニュアンスが異なるため、「Thank you for your hard work」や「Good job!」「See you tomorrow 」など、翻訳する際は状況に応じて異なる言い回しになる。このような日本文化に馴染んでいないと理解が難しい言葉もたくさんある。

日本語の見た目

日本語が人気な理由として、文字の見た目のよさというものもある。漢字のカッコよさにひらがなのやわらかさなどが人気で、カタカナは角ばっているため人気は少し落ちるそうだ。また、絵文字が日本発祥であることをご存じの方も多いと思うが、日本人自身に文字の見た目を大切にする文化がある。

アルファベットにもカリグラフィーがあり、美しいフォントも多数存在する。海外でも文字をアートとして学ぶことはあるが、日本のように小学校で正しい文字をなぞり綺麗に文字を書くことを学んだりすることはない。

日本語では、同じ言葉でも文字を変えることでニュアンスを伝えることも多い。例えば、「かわいい」「可愛い」「カワイイ」「Kawaii」など、どれを使うかで受け取り方も変わってくる。同様に「ばか」は愛情を感じるが「バカ」は悪意を感じ、「馬鹿」は突き放された感じを受けたりする。

最近ではLINEなどのコミュニケーションにおいて、句読点を付けると冷たい言い方と捉えられるなどと話題にもなったが、単語だけでなく、文書においても句読点や記号の使用、改行による余白など、日本語の文書では見た目で表現していることが意外と多い。ちなみに英語などでは、明確な句読点のルールがあり、日本語のように人によって句読点の使い方が変わることはない。

日本語を活用したマーケティング

このように日本語は、他の言語とは異なる特徴をいくつも持っており、人気のある言語となってきている。外国人観光客相手のお店などでは、あえて日本語で表記し、英語で説明書きをしているようなPOPも見受けられる。海外に出店している日本料理店など日本語名表記の看板を出しているところも多い。こういった日本語をブランドとして利用しているところは既に多数存在する。だが、今の情勢であれば、もう一歩踏み出せそうな勢いがあるように思える。つまり、日本語での会話や文字を使うこと自体を売りにするようなサービスでも受け入れられるのではないかということだ。

外国人と会話する場合、反射的に英語で会話しないといけないと思う人が多いかと思う。しかし、今の情勢では、やさしい日本語を用いて会話をする方が喜ばれる可能性があるのだ。ある程度の単語を知っている外国人はかなり多くなっており、会話も問題ない外国人も増加している。そして、潜在的に日本語に触れる機会を望んでいる外国人は多いと考えられる。外国人にもわかりやすい簡易な日本語や、ジェスチャーやイラストなども用いたコミュニケーションなど、あえて日本語でコミュニケーションをとることを前提としたサービスを行うことで、増加したインバウンドの需要を取り込める可能性もあるように思える。

インバウンド対応で英語を話せるスタッフがいなくて困っているなどで悩んでいるのであれば、I can't speak English. But I can communicate with foreigners!(英語は話せないけど、外国人とのコミュニケーションは大丈夫です!)と書いて、写真やイラストを使って日本語を説明しながら応対できる手段を用意してみるのも手かも知れない。

 

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