第21回
メモリ高騰とPC買い替え促進から見える今後
イノベーションズアイ編集局 マーケティングコンサルタント N

生成AIの需要増加に伴いデータセンターの拡張が増加し、それに伴いメモリの需要が急激に高くなったことで価格の高騰が続いている。この高騰状態は長期化することが予測されており、予測もまちまちだが、少なくとも三年は続くという見方が多い。メモリの製造は、需要が増加したからといって容易に増産できるものでもないため、増産した製品が市場に出回り市場が安定するのには期間がかかるという計算だ。
この状況にいち早く危機感を抱いたのが、PCパーツを扱う店舗やPCメーカーだ。原価高騰が反映される前に購入予定のある方は今の内に購入してほしいと呼びかけたはいいが、在庫がなくなり販売を休止する事態に追い込まれているところも多々ある。このような状況は、現状ではPCを自作するユーザーなど一部の人が体感しているだけだが、メモリの高騰は、今後、多くの人に影響を与える可能性が高いと思われる。
メモリ高騰による影響
現在製造されているPCなどに使用されるメモリはDDR5という規格のメモリで、このDDR5は発売当初の数倍から十数倍の価格で現在取引されており、既に異常な状態だ。この状況に伴い脚光を浴びたのが、DDR4という一つ前の規格だ。DDR5とは速度に大きな差があるのだが、DDR4でも十分に速いため、最新のPCゲームなどでシビアな速度を求める場合など以外では体感するほどの差を感じる機会が少ないこともあり、こちらの需要も大きく増加している。DDR4については、既に製造を終えているメーカーも多く、需要増に伴い1年前に比べ2倍以上の価格となってきている。中古価格も含め、DDR5ほどではないもののかなり高騰しているのが実情だ。
この状況に連鎖して、旧規格のPCパーツの需要も高くなっている。どういうことかと言うと、最新規格のPCはDDR5メモリが必須だが、一世代前の規格のPCであれば、高くなったとは言え、DDR5よりかなり安価なDDR4メモリが使用できるということから、数年前のPCパーツもメモリほどではないが高くなってきているのだ。こちらもDDR5の高騰が長期化すれば、更に価格が上昇する可能性もありえる。PCを自作するユーザーは、既にこのような状況を体感しているが、スマホなどにおいても最新機種はもちろんのこと、廉価版などで少し古い規格を採用することでコストダウンを行うような機種においても価格が抑えにくい状況となり、一般消費者も体感することとなる可能性があるということだ。
更に、関連するのがストレージだ。高速なSSDが普及しているが、SSDに搭載されているメモリチップはPC用メモリのチップとは異なるので、影響はないように思われるかも知れないが、データセンターの規模拡大では、メモリに加えSSDやHDDの需要増加も同様に発生している。また、SSDとメモリを製造するメーカーは同じであることが多い。つまり、メモリの製造ラインを増加すれば、SSDの製造ラインが減少することとなるのだ。こういった背景からSSDも既に昨年の2倍以上に高騰しており、今後、更に高騰する可能性もある。
メモリの需要増加と高騰の影響は、様々な市場に影響が出てくるのも時間の問題となっている。PCに限らず、現在の電子機器やクルマなどにはメモリやSSDなどが搭載されているものが多数あり、これらの原価コストの上昇は、もう間もなく様々な製品に反映されることになることが予想される。
Windows10サポート終了の影響
この状況に追い打ちをかけているのがWindow10のサポート修了だ。これに伴いWindows11対応PCに買い替えたという人も多いだろう。また、延長サポートでまだWindows10を使い続けている人も、1年以内には新しいPCを買おうと考えている人が多数いると思われる。Windows11は、これまでのWindowsアップグレードに比べ、ハード要件が厳しいこともあり、買い替えざるを得ないという人も多く、PCの買い替えタイミングの時期にメモリ需要増加と重なったことも高騰を後押ししてしまっていると思われる。
この状況は、Windows11への移行を促進しているMicrosoftにとっては誤算だったのかもしれない。高騰により買い替えを控える状況となれば、厳しいハード要件が足枷となるため、Windows11への移行が鈍化してしまう可能性がある。そんな中、公開されている最新のWindows11のインストールメディアでは、新規インストールにおいてのハード要件がこっそりと緩和されている。これまで、インストールできなかった古いPCでもインストール可能となっているのだが、公式のアナウンスがないため、現状ではPCに詳しい人だけが知っている状況で、正式な対応なのかどうかも不明だ。だが、こういった様子から、今後の状況次第では、Windows11を少し古いPCでも利用できることをMicrosoftが正式に表明して、移行を促すことを優先する可能性もあるように思われる。
メーカーの対応
現在の状況が長期化すれば、メーカーは対応を迫られることとなる。価格に反映すれば販売数が減少する可能性があり、かといってメーカーが原価負担できる範囲も限られているだろう。世界的な規模での影響があるので、輸出入でカバーというのも難しそうだ。だからと言ってそのまま価格転嫁すると、消費者は買い替えを控え、現在のものを使い続ける事態となりかねない。AIブームによるデータセンターの増設の影響で、AIを活用する最新スマホや最新のAI家電が売れなくなってしまっては本末転倒だが、お米のような必需品とは異なり、こういった製品は、買い控えによる落ち込みの可能性があるため、メーカーとしては利益率を多少落としてでも販売を維持することを優先せざるを得ないのではないかと思われる。
今後の備え
AIによる今後の社会の急速な発展が予想され、AIの恩恵により様々な分野で利便性が向上し、労力が激減し、速度が向上することが想定されている。しかし、利用する消費者側が足踏み状態となった場合、普及が減速する可能性や、持つものと持たざる者の格差が生まれるのでは?と危惧する声もある。
だが、恐らくそういった心配は不要なのだろう。Webでの検索やネットショッピングなど、既にインフラとしてAIが活用されているものは多く、利用者は意識することなく、認識することもなくAIを活用している。こういったAIを活用したインフラの拡大こそがデータセンターの増設につながっており、各人が使用する機器の性能やAIの知識に関係なく、AIの普及自体は進み、知らない内にAIを利用していることが当たり前のようになっていくのではないかと思われる。
メモリの高騰という現在の現象は、次世代の社会インフラへの移行が加速している証とも思える。私たちが備えるべきは、PCを早めに買うことではなく、AI社会が間近に迫っていることに対しての備えではないだろうか。
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