第4回
【決まり手】得意に持ち込み勝機を得る ベンチャーに必要なブルーオーシャン戦略
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫

「結婚を申し込む」。待ったなしの大一番を迎え、勇んで待ち合わせ場所に行った。憧れの女性だったので、策を弄することなく正面からぶつかった。しかし、うまくいなされ肩透かしを食らった。彼女のほうが一枚上手で、とんでもない勇み足、独り相撲だった。金星狙いも番狂わせを起こせなかった。脇が甘かった。まさに腰砕けだ。
相撲用語を並べるために無理やり作った文章だが、こんなシーンはなくもない。大一番、肩透かし、勇み足、番狂わせ‥。こうした相撲由来の言葉は仕事や生活でよく使われており、それだけ相撲が日常に根付いているといえる。
肩透かし、勇み足、腰砕け
ここでの決まり手は肩透かしだ。彼女の軽快な身のこなしが勝ちにつながった。相手は猪突猛進だったのでまんまとはまったわけだ。このように仕掛けた力士によって勝ちが決まったときの技を「決まり手」と呼ぶ。日本相撲協会が定めた技は82。このほかに5つの非技(勝負結果、自滅)と反則負け(禁じ手)がある。勇み足、腰砕けは非技に入る。
禁じ手や珍しい決まり手を面白おかしく紹介するのが「初切(しょっきり)」だ。相撲のルールや決まり手を初心者や子供、外国人にもわかりやすく教える見世物、余興といえる。今年4月に行われた靖国神社奉納大相撲で初めて生観戦したが、土俵に上がった2人の力士と行司によるやり取りは面白い。わざと相手を蹴ったり、こぶしで殴ったり、髷をつかんだりと禁じ手をユーモラスに演じる。いつもの緊張感漂う土俵とは全く異なるユーモアあふれるパフォーマンスは人気で、息の合った掛け合いは大いに観客の笑いを取る。
最近の決まり手といえば寄り切りと並んで押し出しが多くなった。はたき込みも少なくない。力士の大型化が原因だろう。幕内の平均体重は約160キロ。50年前と比べ約30キロも増えたという。
大型力士によるぶつかり合いは迫力十分だ。前に出るのは相撲の基本でもあり、強烈な突き押しで相手の状態を起こし、のけぞった瞬間に素早く引いて土俵に這わせる。立派な技能相撲だ。その一方で、力任せの勝負が多くなり、立ち合いから一気に押し込んで勝つ、それをかわしてははたき込むという単調な取組が増えた。勝負が早くなり、攻防のある相撲を少なくしたといえる。
がっぷり四つが減る
つまらない決まり手が多くなったと言い換えてもいい。互いにしっかりとまわしを引いて胸を合わせるというがっぷり四つに組んで投げを打つ、寄る、それをこらえる、しのぐといった白熱した取組はなかなか見られなくなった。吊り出しもめっきり減った。
小兵力士の活躍は頼もしい。体重差をものともせず、めったに見られない技を繰り出し大型力士に土をつける。見ているほうは爽快だ。何を仕掛けてくるか分からない小兵力士が土俵に上がると、館内が一気に盛り上がるのは想定外を期待しているからだ。こうした力士は、「孫子の兵法」の孫子が説いた「正攻法と奇策のバランス(使い分け)が重要」であることをよく知っている。だから相手をかく乱させ、つけ入る隙を得るのだろう。
自分の得意な取り口に持ち込むほうが勝ちにつながりやすいのは明白だ。突き押し相撲なら強力な出足で一気に土俵の外に押し出す。いわゆる電車道だ。速攻相撲なら素早く前まわしを狙う。四つ相撲ならさっと上手を引く。先手を取って攻め続けるので、得意の技で勝利できる。
ひるまず胸を借りる
一方で産業界。業界に立ちはだかる壁を壊すべきベンチャー企業は育っているのだろうか。業界上位の顔触れはそれほど変わっておらず、売り上げや時価総額などの大型化が進む。新陳代謝が進んでいないということは下からの突き上げが弱いからだ。
とはいえベンチャー企業が大きな商談をものにするのは難しい。同じ商談に参加するのが知名度も実績も上回る上位企業なら、プレゼンテーションが始まる前からプレッシャーを感じることだろう。しかし、恐れをなしてひるんでいても仕方ない。胸を借りるつもりで真っ向勝負を挑めばいい。
対戦相手がコスパに優れる提案と安心・安全、信頼という実績により優位に立ち土俵際に追い込まれるかもしれない。相手の土俵(得意分野)で戦っても勝ち目はないのだから、こちらが得意とする取り口に持ち込むブルーオーシャン(未開拓市場)戦略で挑めば勝機が訪れる可能性は高まる。
将来性をアピール
ベンチャーらしく得意の独創性、革新性をアピールすることだ。やんちゃでもいい。粘り腰を見せれば豪快にうっちゃれるかもしれない。そうはうまくいかないだろうが、将来性を感じてもらえれば提携に発展するかもしれない。スケールの大きさを見せつけることができれば次の機会を得られるはずだ。孫子は「彼を知り己を知れば百戦して危うからず」と説いた。勝負の決め手となる主導権を握ること、すなわち得意分野で勝負することに尽きる。決まり手も見えてくるはずだ。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。
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