第1回
【番付】待遇も給与も稽古次第 ~能力引き出す育成が欠かせない~
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫

靖国神社奉納大相撲(主催・日本相撲協会)が4月13日、境内相撲場で開催された。午前10時過ぎに現地を訪れると「只今、満員の為、相撲場への入場はできません」との立て看板(写真)が。
昨今の相撲人気(しかも入場無料)を考えると、早朝から並んで自由席を確保するのが当たり前なのだろう。本場所では見られない初切(しょっきり)、相撲甚句(すもうじんく)、櫓太鼓打分(やぐらだいこうちわけ)も披露され、土俵を取り囲んだ老若男女プラス外国人を大いに沸かせていた。
その後の関取土俵入りで「大関霧島」との懐かしい場内アナウンスが耳に入った。3月の春場所で14場所ぶり3回目の優勝を遂げ、場所後に大関復帰を決めていたのだった。

現行のかど番制度が始まった1969年名古屋場所以降、平幕以下に陥落して大関に返り咲いたのは3人目だ。快挙と言っていい。優勝インタビューで「一番の支えは稽古」と言い切ったのは頼もしかった。角界一といわれる稽古が実ったわけだ。
大相撲は番付がすべて
豊昇龍、大の里の両横綱も雲竜型での土俵入りを披露したが、こちらは奮起しかない。本場所では序盤戦から星を落とすことが少なくなく、平幕力士に負ける金星献上も珍しくなくなった。下位力士が上位を破る「番狂わせ」は相撲の醍醐味でもあり、館内は大いに沸く。しかし、大相撲は番付がすべてだ。これでは番付が泣く。
それほどまでに番付最高位に上り詰めるまでの道のりは長い。春場所で番付に載った力士は592人。序の口に始まり、序二段、三段目、幕下と番付を上げ、念願の関取(十両、幕内)を目指す。
ここまでたどり着くのは70人(定員)と全体の1割ほどに過ぎない。ようやく一人前と認められ、給与が支給される。個室も与えられ、身の回りの世話をする付け人もあてがわれる。化粧まわしが用意され、本場所では毎日土俵入りが行われる。
待遇が全く違うので幕下に落ちるわけにはいかず、さらに番付を上げるための稽古に精進する。まずは平幕(前頭)定着を目指す。これ以降は三役と呼ばれる小結、関脇、大関を経て、横綱の地位を得る。月給(基本給)は十両になると110万円を支給されるが、横綱になると300万円に増える。
「土俵には金が埋まっている」

番付は力士の序列を示す唯一無二のランキングであり、勝ち越せば上がり、負け越せば下がるシビアな世界だ。待遇も給与もすべて番付で決まる。だからこそ番付を上げるため量と質の高い稽古が求められる。「土俵の鬼」といわれた第45代横綱若乃花(初代)は「土俵には金が埋まっている」と弟子に教えた。厳しい稽古に耐えることでお金と栄誉をつかみ取れるというわけだ。
そのために師匠や兄弟子は部屋の若手力士を徹底的に「かわいがる」。後輩の潜在能力を引き出すために鍛えることをいうのだが、第58代横綱千代の富士は、目をかけた弟弟子の北勝海(今の八角理事長)に胸を貸して横綱に育て上げた。北勝海は稽古で世話になった千代の富士に成長した姿を見せることができた。これを「恩返し」といって互いに喜ぶ。強さが引き継がれるので部屋の持続的成長にもつながる。愛情に満ちた猛稽古なのだ。
日本人は番付が大好きだ。売上高、時価総額、就職人気などあらゆるものがランキング付けされる。1位は「東の横綱」、2位は「西の横綱」と称される。
企業人にとって気になる番付といえば役職序列を表す肩書だろう。今年も4月に入り、多くの企業が新入社員を迎えた。大相撲でいうと序の口の番付にやっと載ったわけだ。これから苛烈な出世争いが始まる。まずは課長、部長といった管理職を目指す。管理職比率は1割強といわれており、こちらも狭き門だ。さらに絞り込まれて役員に昇格すると、トップの椅子に座るまであと一歩だ。
年功序列・終身雇用が当たり前だった時代では、年齢や社歴などを勘案して「副社長から社長」といった順送り人事が多かった。これでは前例踏襲になりがちで、若手の尖がった意見は通りにくい。しかし、それで腐っても仕方がない。どの部署でも、どんな仕事でも、自分で目標を決め、そこに向かって知見を積み上げていくことだ。無駄なことは一つもない。若いうちは能力を磨き、可能性を広げるための実力を蓄えておくことに尽きる。
厳しい指導で人材育成
そのうえで、企業は優秀人材を育てるために「かわいがり稽古」を導入したらどうだろうか。過酷な指導がいじめ、パワハラをもたらすようでは元も子もないが、部下の成長を信じて厳しく接するのは間違いではない。イマドキの若手も「自分の成長につながる」と実感すれば、先輩にかわいがられるのも良しとするはずだ。
大相撲の世界では少子化に加え、スポーツの多様化で新弟子志願者が減少している。就職戦線では学生優位の売り手市場が続く。こうした中、いかに若い世代が自由な発想で動けるかが選ばれる基準になる。
将来予測が難しい今、誰にも何が正しいのか分からない。だからこそ、自分はこう思うと言える社員が多い企業が勝ち残るはずだ。若手が何事にも前向きに挑戦できる企業風土なくして成長はないといえる。求められるのは若手を本気になって育てる覚悟だ。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。
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