好角泡を飛ばす。

第2回

【横綱】心技体そろってこそ権威と品位を守れる 型を身に着け受けて立つ

イノベーションズアイ編集局  編集局長 松岡健夫

 

大相撲の興行が行われる東京・両国国技館に近い、墨田区亀沢にある野見宿禰(のみのすくね)神社を訪ねた(写真)。日本書紀に登場する相撲の神様(始祖)を祀っている。境内には歴代横綱の名前を刻んだ記念碑があり、第74代豊昇龍、第75代大の里の名前もあった。

「5月場所では両横綱が全勝で千秋楽を迎え、優勝をかけた大一番を争う。こんな取組を見たい」とお願いした。ともに20代半ばの若き横綱が大相撲を引っ張ると期待していたが、3場所連続で優勝を逃したからだ。

確かに、横綱に挑む上位陣には威勢のいい若手がそろう。誰もが臆することなく「何が何でも勝ってやろう」と闘志むき出しで向かっていく。土俵上での仕切りを見ていると、こんな勢いを感じてしまう。

綱のすごみで若手を圧倒

昔は横綱に挑戦する力士は綱のすごみに怖れをなして「勝てそうにない」と委縮したものだ。第58代横綱千代の富士は小柄ながら、猛稽古で鋼のような肉体と「こうなったら勝てる」という絶対的な型(基本)を身に着けた。これを武器に本場所で対戦する若手との稽古で実力の違いを見せつけた。強さを思い知らせることで怖気つかせ、戦意を喪失させるためだ。土俵に上がった時点で勝っていたのだ。

第69代の白鵬も型にこだわった。「型をもって、型にこだわらない」を信条とし、対戦相手の立ち合いからの出方を見ながら臨機応変に攻める「受けて立つ」スタイルを磨いた。型を持てばこそできる戦法といえ、型に固執せずに状況に応じて攻めることができるのだろう。これにより歴代1位の優勝45回(しかも全勝優勝16回)、横綱在位84場所というとてつもない記録を樹立した。

いまだ木鶏たりえず

前人未到の69連勝を遂げた第35代の双葉山も「後の先」の立ち合いを猛稽古で習得した。相手より一瞬遅く立って受け止めながら、その直後に先手(優位)を取る技術だ。相手の動きを察知し、その力を利用する戦略的な相撲だが、気力・気迫で相手を圧倒する精神力、冷静な判断力も磨いた。

それでも70連勝を阻まれたとき、「いまだ木鶏たりえず」と明言を残した。木鶏とは木彫りの鶏のように何事にも動じない最強の闘鶏をいう。その境地に達していないと自らを戒めた。泰然自若の精神を求めてさらに稽古に励んだという。心技体の鍛錬なくして後の先は生まれないし、木鶏にもなれない。

力強さと美しさに矜持を覚える

心技体の高度なバランスなくして横綱の地位を保つのは難しい。とはいえ、そこまで揃えるのは並大抵のことではないのは想像に難くない。たゆまない鍛錬によってこそ綱のすごみ、重みは増し、横綱としての強い覚悟が生まれる。

それは横綱土俵入りでの威風堂々とした所作に現れてくる。柏手を打ち、せりあがり、四股を踏む。力強さと美しさを併せ持つ一連の動きに綱の権威と品位を感じるし、横綱の矜持を覚える。

「横綱はチャンピオンではない」といわれるゆえんだ。ボクシングなどのチャンピオンはリング(土俵)上での勝敗で決まるが、横綱には強さに加え、人格や品位も求められる。

「体力の限界」。引退会見でこう話す横綱は多い。体力がきつくなると無理がきかなくなる。すると技が切れなくなり、心も萎える。綱の重みを知っているからこそ引き際を自ら決める。綱を張るものの美学であり、親方も指図できない横綱の特権だ。

外車、ゴルフ、銀座ざんまい

心技体は企業トップにも欠かせない素養だ。1980年代後半から90年代初めまでのバブルに浮かれていた時代には、事業で成功すると「外車、ゴルフ、銀座」の三拍子を揃えたがるベンチャー経営者を多く見かけた。

お金を手に入れると高級外車を乗り回し、ゴルフ会員権を買い、銀座で酒を飲むという連中だが、バブル崩壊後に姿を消したのはいうまでもない。トップとしての鍛錬が足りなかったのだ。

昨今もIPO長者は上場に満足して生活が派手になるそうだ。集まると自慢話ばかりでうんざりすると聞く。創業時の理念を忘れてしまったのではないかと思わずにいられない。

上場はゴールではなく通過点のはずだ。力士でいうなら一人前と認められる関取になったにすぎない。ここで満足したら横綱は単なる憧れで終わってしまう。ここからの精進が大事だ。

ぶれない経営理念と志本主義を貫く

何が足りないのか。上場できたのだから、ぶれない経営理念のもと、独自に創り上げた革新的なビジネスモデル(技に相当する)、それを社会(市場)にアピールするのに必要な組織(体)はつくったはずだ。

頼りないのはトップの志(心)か。逆境にめげない精神的強さ(折れない心)、さらに倫理観が何より求められる。将来を見据える先見性、迅速に決断する判断力、組織を動かすリーダーシップと言ってもいい。そのうえで目指すべきは「志本主義」だ。つまり「何を成し遂げたいか」を明確に示し、社員や顧客、社会に訴えることだ。

熱意が伝われば支持を得られ、企業の持続的成長につながる。そのためにも、事業環境がどう変わっても対応できる型を身に着け、盤石な経営基盤を築くことだ。諦めることなく不断の努力で心技体を鍛え上げておけば、いずれ訪れる飛躍のチャンスを生かせるはずだ。

こんな時に「待った」をするのはもったいない。受けて立つ横綱に「待った」はないという。横綱候補と期待を抱かせるようなスケールの大きい企業の誕生が待たれる。京セラ創業者の稲盛和夫氏は「リーダーの器以上に企業は大きくならない」と言った。

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫

大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。

同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。

著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。

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