企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
第47回
経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
株式会社aubeBiz 酒井晶子 氏
「結局、自分がやったほうが早いし、確実なんだよね」
経営者やチームリーダーの方とお話ししていると、ふとした瞬間にこうした言葉がこぼれることがあります。
抱えている仕事の中身を一つずつ紐解いてみると、必ずしも「あなたにしかできない仕事」ばかりではないはずです。
それなのになぜか手放せない、あるいは任せても期待通りに戻ってこない。
それは、相手の能力が足りないからなのでしょうか。
もしかすると、相手の能力の問題ではなく、任せられる体制がまだ設計できていないだけかもしれません。
aubeBizで10年以上、フルリモートでチームの仕組みを作り続けてきた経験から、この問いを少し丁寧に掘り下げてみたいと思います。
「AIの方が社員より優秀」と感じたとき、立ち止まってほしい
最近、AIを使いこなし始めた経営者から、こんな率直な言葉を聞く機会が増えました。
「AIは文句も言わないし、気を使わなくていい。しかも指示したことに対して、的確な答えを返してくれる。正直、社員よりも使いやすいかもしれない」
私自身も、そう感じる感覚はよく分かります。
初めてAIに複雑なタスクを依頼した際、思った以上にきちんとしたアウトプットが返ってきて、驚いた経験があるからです。
でも、そこで一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
なぜAIは、あなたにとって「優秀」で「使いやすい」右腕になり得たのでしょうか。
AIに指示を出すとき、私たちは求めるゴール、その背景、必要な前提データ、そして望む形式を、驚くほど丁寧に、かつ具体的に言語化しています。
いわゆる「プロンプト(指示)」を、相手に伝わるように真剣に練り上げているはずです。
さらに膨大な資料を読み込ませ、条件を細かく設定し、期待するアウトプットのイメージまで言葉にする。
つまり、AIが優秀な結果を出しているのは、使い手であるあなたが、AIに対して「正しく動けるだけの完璧な設計図」を渡しているからに他なりません。AIは、正しく使われたから、正しく機能しているだけなのです。
経営者や上司が陥りやすい「それぐらい分かってよ」
ここで一つ、問いを立ててみたいと思います。
あなたがAIに注いでいるその情報の丁寧さを、一緒に働く生身の人間、部下や社員に対しても同じように注いでいますか?
AIに期待するのと同じくらいの丁寧さで、「なぜこの仕事が必要なのか」「いつまでに、どんな状態になっていれば合格なのか」を伝えているでしょうか。
私たちは仲間や部下、時には家族など、近しい存在であるほど「それぐらい分かってよ」「言わなくてもわかるだろう」「背中を見て覚えてほしい」という、どこか甘えに近い期待を相手に押し付ける傾向があるのではないでしょうか。
aubeBizが創業したばかりの頃、まだリモートワークという言葉すら一般的ではなかった時代に、私もこの壁にぶつかりました。
顔が見えない相手に仕事を依頼する際、文字だけのやり取りの中で意図がうまく伝わらず、上がってきた成果物を見て「どうしてこうなるの?」と頭を抱えたことも一度や二度ではありません。
しかし、その時に気づいたのです。
悪いのは動いてくれたメンバーではなく、動けるだけの情報を渡していなかった私の「設計不足」だったのだと。
AIを右腕にしようと試行錯誤する過程は、実は経営者にとって、自身の「人への伝え方」を根底から問い直す、鏡のような時間になるのではないかと感じています。
任せられる体制は、伝える設計から始まる
任せられない理由を「相手の能力」に帰着させてしまうのは、少し早い判断かもしれません。
私たちの現場で起きた変化を振り返ると、「任せたのに動かない」と感じていたチームが、伝え方を変えた途端に自走し始める瞬間を何度も目にしてきました。
それは相手が変わったのではなく、情報の渡し方が変わったのです。
任せられる体制を作るために必要なのは、AIに対するプロンプトを練るのと同じような「情報のパッケージ化」です。
具体的には、以下の3つの要素をセットにして手渡すことから始まります。
ゴールと背景の共有:何のためにその仕事が存在し、完了したときに誰がどんな笑顔になるのかという「景色」を見せること。
判断材料の提供:過去の経緯や参照すべき資料など、相手が迷ったときに立ち戻れる「土台」を整えておくこと。
期待値の言語化:スピード重視なのか、質を極めるのか。アウトプットの「手触り」まで言葉にしておくこと。
前回のコラム(第46回)で、「安心を設計する」という話をしました。
経営者が伝える設計を整えることは、働く側にとっての「安心のインフラ」になります。設計がしっかりしているからこそ、メンバーは安心して力を発揮でき、経営者は安心して現場を委ねられるようになるのです。
「場所の制約を外す」と、組めるチームが変わる
「伝える設計」ができるようになると、経営の視界は一気に開けます。
なぜなら、「対面で、目が届く範囲にいる人」に限定してパートナーを探す必要がなくなるからです。
設計図さえあれば、チームの拠点はどこであっても構いません。
「近くにいる人の中から選ぶ」のではなく、「必要なスキルと価値観を持つ人と組む」という発想の転換が可能になります。
例えば、かつて大手企業でバリバリ働いていたものの、パートナーの転勤でキャリアを中断せざるを得なかった女性。
あるいは、豊かな経験を持ちながらも、地方で自分らしい暮らしを大切にしたい専門家。
こうした方々が、設計された仕組みの上で、驚くようなパフォーマンスを発揮し、経営の右腕へと成長していく。
これが、私たちaubeBizが目指す「共創型の経営戦略」です。
高価で高度な仕組みを一から作る話ではありません。
伝える設計を整え、信頼できる人と手をつなぐ。
その積み重ねが、組織の形を少しずつ変えていくのだと考えています。
まず、AIへの伝え方と、チームへの伝え方を並べてみてほしい
「結局は自分がやらなきゃ」という重荷を感じているなら、まず今日からひとつだけ試してみてほしいことがあります。
AIへの伝え方と、チームへの伝え方を並べてみてください。
AIに対して行っている丁寧な言語化を、ほんの少し、隣のメンバーや画面の向こう側のチームに対しても注いでみる。
そこに差があるとしたら、その差が「任せられない」理由の一部になっているかもしれません。
「任せる」ことは、相手が最大限の力を発揮できる体制を設計すること。
それこそが、経営者としての本来の、そして最も創造的な仕事のひとつではないでしょうか。
次回は人的資本経営の第一歩は「働く場所の解放」から始まる
次回からは【人的資本とウェルビーイング編】へ。「人を資本として捉える」という視点が広がる中、その第一歩は制度や数字より先に、働く場所の選択肢を解放することから始まるのではないかと考えています。テレワークを単なる「福利厚生」で終わらせない、経営戦略としての人的資本の話をお届けします。
プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)
兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。
2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。
2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。
著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。
Webサイト:株式会社aubeBiz
企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~
- 第47回 経営者の右腕としてのAIとリモートチーム──「任せられる体制」は設計から始まる
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