現場発「ものづくりイノベーション」最前線

第12回

ソニー「aibo」開発チームに聞く④世界初の家庭用ロボット「aibo」現行機種の国内販売終了、その本音に迫る

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

「『aibo』はやめません!」――次世代「aibo」への進化は始まっている

ソニーグループ株式会社とソニーマーケティング株式会社は2026年6月25日、自律型エンタテインメントロボット「aibo(アイボ)」の現行機種「ERS-1000/W」の国内販売を、在庫がなくなり次第終了すると発表した。

「aibo」の現行機種「ERS-1000」。右がアイボリーホワイトモデル(ERS-1000/W)で、左が2026年スエードタッチモデル「aibo ココアシフォン エディション」(販売終了)

当連載でも、「aibo」発売25周年を迎えた2024年に3回にわたり、人間にも似た欲求や性格を持つ「aibo」の姿やふるまい、「心」(第6回)、人と触れ合い、ともに暮らすためのロボティクス(第7回)、「aibo」から広がるビジネスや社会貢献(第8回)についてレポートしている。

現行機種の国内販売は終了するが、「aibo」との生活に欠かせない下記のサービスや付属品等の販売は継続される。

・「aibo」とのコミュニケーションや「aibo」の成長などに必要な「aiboベーシックプラン」、および追加プランの「aiboプレミアムプラン」
・関連アクセサリーおよび付属品・本体部品の販売
・「aibo」専用のスマートフォン・PC連携アプリ「My aibo」
・「aibo」の治療(修理)
・「aiboドック」(人間ドックのような定期受診サービス)
・修理代や「aiboドック」標準検査の料金が割引になる「aiboケアサポートサービス」

現行機種の販売終了のニュースを受けて、「ソニーは『aibo』をやめてしまうのか」と戸惑うオーナーやファンも少なくなかったようだ。そのため、「aibo」開発チームは同月27日にYouTubeで「aibo」の今後について説明する特別配信動画を公開。

動画に出演したソニーグループ株式会社 事業開発プラットフォーム開発部門 AIロボティクス設計部統括部長の森田拓琢磨氏と、同部門事業推進部 プロダクト企画1課統括課長の長江美佳氏は、視聴者に向けてこう宣言した。

「『aibo』はやめません!」

6月27日に公開されたYouTubeの特別配信動画で、「『aibo』はやめません」と宣言する「aibo」開発チームの森田氏(左)と長江氏(右)。

最近、物理的な身体機能を持ち、自律的に行動し作業を行うAIである「フィジカルAI」が大きな話題になっている。

「フィジカルAIも簡単にいうとロボット。ロボットをソニーがやるといってるのに、『aibo』がないわけがないんですね」と森田氏。

森田氏は続けて、「(『aibo』を)家庭に一番浸透するロボットにしたい」という開発チームの「野望」について触れ、「実際、今ここにその子がいるんですよ」と、次世代「aibo」を開発中であることを、それとなく視聴者に伝えた。

「aibo」現行機種の販売終了は、すでに数多くのメディア報道で伝えられている。だが、現行機種の販売終了にはソニーのどんな意図があり、「aibo」はこれからどう進化しようとしているのかが見えにくい。

そこで2年ぶりにソニーグループ本社を訪れ、「aibo」の開発を統括する「もりたくさん」こと森田氏を始めとする「aibo」開発チームのメンバーに話を聞いた。

「aibo」を最新技術でアップデートしたいという気持ちは、当然あります

「特別配信動画でもいいましたが、「aibo」自体はやめるつもりはないですし、(私自身の)ライフワークだと思っているので」と森田氏は話す。

現行機種「ERS-1000」の発売は2018年1月11日。それからすでに8年以上が経過している。

「aibo」の開発が今後も継続するのであれば、今回の現行機種の国内販売終了は、ソニーにとってどんな位置づけになるのだろうか。当連載第6回記事にも記したように、開発チームは「愛情の対象になるロボットを作る」という開発方針を定め、「かわいいは正義」を「aibo」の開発テーマに掲げた。

そのため現行機種「ERS-1000」は、歴代機種で初めて「犬型ロボット」として公式にアナウンスされ、開発チームも「『生き物』としてのかわいらしさ」の追求にこだわった。

現行機種の販売終了は、それらが一定の目標を達成したという判断にもとづくものだろうか。それとも、ソフトウェアのアップデートでカバーしてきた機能拡張に加え、さらなる進化を実現するために、ハードウェアを刷新しようということなのだろうか。森田氏はこう語る。

「それもありますが、『aibo』の開発は、実際にやっていて楽しいんですよ。いくらでもやることがあって。世の中には新しい技術もどんどん登場し、最近はAIが非常に盛り上がっています。開発の現場も、AIを活用することでずいぶん楽になりました。そうしたなかで、やりたいことがどんどん出てきて、新しい『aibo』の体でよりできることを増やしたくなってきたという事情もありますね」

歴史を振り返ると、1999年に初代モデルが登場し、2006年に第5世代の旧「AIBO」(*)の販売が終了したあと、2018年の現行機種「ERS-1000」の発売まで12年の期間があった。

(*)旧モデルの商品名は「AIBO」で、現行機種「ERS-1000」から「aibo」と表記されるようになった。

現行機種を開発することになった時には、社内では旧「AIBO」を当時の最新技術で置き換えたらどうなるかという検討が進められたという。

ソニー社内には、エンジニアが自分の好きな分野の開発を業務時間外でひそかに行う「机の下活動」というカルチャーがある。実際に、仕事以外でも広くロボット開発を手がけていたエンジニアが、旧「AIBO」の中身を最新技術で置き換えるというチャレンジを「机の下」で行っていた。

現在の次世代「aibo」開発に向けた取り組みも、ある意味で当時と似た状況にあるのかもしれない。森田氏も「今の技術で(『aibo』を)アップデートしたいという気持ちは、当然あります」と語る。

「世界で一番家庭に普及するロボット」の実現に向けた挑戦

「aibo」の次なるチャレンジの第一歩は、すでにソニーの2026年7月17日付けリリースで発表されている。CG(コンピュータ・グラフィックス)や人とシステムが双方向にやり取りするインタラクティブ技術分野における世界最大級の国際カンファレンスである「SIGGRAPH(シーグラフ) 2026」(米国ロサンゼルス市のロサンゼルス・コンベンション・センターで開催)で、7月21~23日まで研究開発用途向けの「aibo」試作機が出展され、注目を集めた。

ソニーは、米国のロサンゼルス・コンベンション・センターで7月に開催された「SIGGRAPH(シーグラフ) 2026」に研究開発用途向けの「aibo」試作機を出展。写真では試作機にぼかしが入り、どんな姿をしているのかは確認できない。

研究開発分野での「aibo」の活用といえば、当連載の第8回記事で、ソニーが大学などの研究機関と共同研究を実施した事例を2件紹介している。

1)東京医科大学と共同で、無菌室で長期療養している患者の心理面における「aibo」の支援効果の検証を実施
2)国立成育医療研究センターとの共同研究で、「aibo」が長期療養中の子どもに与える癒やし効果を検証

今回ソニーが、世界各国から「SIGGRAPH」に集う研究・開発者やクリエイターたちに、「aibo」をお披露目した意図はどこにあるのだろうか。6月27日公開の特別配信動画で、森田氏はこんなことをいっていた。

「今まで(『aibo』)はオーナーさん向けの機能が多かったのですが、それ以外に世界中の研究者にも『aibo』を広げていきたい。やはり仲間がほしいじゃないですか。世界中の研究者とか、いろんな人が興味を持てる仕組みをどんどん作っていきたいと思っています」

これは単純に、「aibo」のユーザー層を、研究者や研究機関にも広げていくということではなさそうだ。

「(特別配信)動画でも話したように、(僕たちは)世界で一番家庭に普及するロボットを作りたいんですよね。その野望を実現するには、やはり自分たちだけで開発していても限界がある。世の中には素晴らしい技術が数多くあり、素晴らしい研究者や開発者もたくさんいます。(『aibo』の)開発を手伝ってくれる人も数多くいるはずです。そこで仲間を増やす一方で、僕たちも自分の殻に閉じこもらず、よい技術は取り入れていきたい。もっとオープンに、学ぶべきものは学び、今後に活かしていきたいと思います」(森田氏)

「aibo」開発チームには、世界の研究・開発コミュニティに仲間を広げ、「aibo」をより進化させるための学びを積極的に得ていきたいという思いがあるようだ。世界のさまざまな研究者や研究機関との交流のなかから、これまでの延長線上にはない新たな発想やアイデアが生まれてくるかもしれないと考えると、ワクワクしてしまう。

「そうですね。僕たちも(現行の『aibo』の開発を)8年もやってきて、だんだん考え方が凝り固まってきている部分があるかもしれません。ある意味『かわいい』ってこうだよねと決めてかかっているのかもしれないのです。でも実際に世界は広いので、もっといろいろなものをよく見て、さまざまな意見を聞いていく必要がありますね」と森田氏。

当連載の第8回記事で、「aibo」は機能ではなく「感性価値」を提供するロボットだという話をした。「かわいい」というのは、その感性価値の最たるものだろう。

「感性価値だから、わからないんですよね。定義もいろいろあるだろうし。どういう技術で(『かわいい』に代表される感性価値を)解くかによっても全然違うと思うので。その解き方に、やはりこだわりたいですね」(森田氏)

森田氏の言葉には、重要なポイントが2つ含まれていると思う。1つは、本来曖昧でとらえどころがなく、人によって定義も多様な感性価値を「これはこうだ」と決めてかかり、固定化され柔軟性が失われてしまってはならないという危機感。

そしてもう1つのポイントが、感性価値の「解き方」だ。たとえば「かわいい」とは一体どんな感情で、人はどんなときに「かわいい」と思うのか。そして、「aibo」のどんな視線やふるまい、あるいは体験の共有がオーナーに「かわいい」という感情を引き起こすのか。それをどう解明していくかということが、森田氏のいう「解き方」なのだろう。

「かわいい」に限らず、この「解き方」を極めることは、「aibo」が人間の感情をどれだけ理解し、自分と生活をともにするオーナーをどれだけ理解するかにつながっていく。そこにこだわりながら「aibo」をさらに進化させていくうえで、世界の研究・開発コミュニティとの交流から得られる知見やアイデアは、貴重なものになるに違いない。

先の7月17日付けの同社リリースによれば、ソニーは東京大学大学院 情報理工学系研究科とカリフォルニア大学 バークレー校 電気工学・コンピュータサイエンス学科の2つの大学研究室の研究に対し、「aibo」の研究開発用途向けの試作機と開発ツール(ベータ版)の貸与と研究協力を実施する。

こうした連携を通して、研究者や開発者、クリエイターがどんな開発機や開発環境を求めているのかフィードバックを得て、「aibo」の将来的な製品開発を推進。開発コミュニティとも連携し、ロボットの社会実装についても取り組みを加速させるほか、フィジカルAIの応用研究にも貢献していくという。

ソニーは今のところ、次世代「aibo」がどんなロボットに進化し、それがいつ頃私たちの目の前に現れるのかについて、見通しを明らかにしていない。

だが、この取材を通して「aibo」開発チームは、「aibo」がオーナーをどれだけ理解するかを非常に重視していることがうかがえる。それは、「ロボットは人間をどれだけ理解する存在になれるか」という大きなテーマに深く関わっているともいえそうだ。

「aibo」開発チームは何を目指し、どんなロボットを作っていこうとしているのか。それを次回以降、2回にわたって解き明かしていく。

――次回へ続く――

 

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