現場発「ものづくりイノベーション」最前線

第11回

競合はしない、世界でオンリー・ワンでなければやらない――三井メディカルジャパン 三井桂子社長③

イノベーションズアイ編集局  ジャーナリスト 加賀谷 貢樹

 

前立腺がん手術後の男性の尿漏れも、「誰にも相談できない悩み」の1つ

前回記事に記したように、患者の悩みや困り事に向き合うなかで、三井メディカルジャパン(本社・東京都中央区/https://urogyne.jp/)の製品バリエーションは広がり続けている。

たとえば2013年4月に発売された「Xホールド」は、前立腺がん手術後に尿漏れで悩む男性のために作られた製品(一般医療機器)だ。

前立腺がんの手術では、前立腺の全摘出が行われる。前立腺は膀胱や尿道括約筋に隣接しているため、手術の際に神経が傷つき、尿道括約筋の収縮不全などが起こって排尿コントロールが難しくなることがある。これが尿漏れの原因だ。

同社が60代以上の前立腺全摘除術経験者43名を対象に行った調査(調査期間:2026年3月4~10日)では、術後に尿漏れを経験した人は76.8%、現在も尿漏れがある人は41.9%に上る。

「前立腺がん手術を受け、社会復帰したあとに尿漏れで悩んでいる男性は少なくありません。『電車に乗っているとき、突然尿漏れが起きて恥ずかしい』、『ゴルフのプレー中にも尿が漏れる』などの理由で『Xホールド』を使っていただいている方が数多くいます」(三井社長)

前立腺の全摘出後の合併症である尿もれを防ぎ、排尿をコントロールできる医療機器「Xホールド」(https://urogyne.jp/other/)。下着を履いた上から装着する。独自開発のシリコンゴム製クッションをX状の「股下ベルト」にセットし、クッションが会陰部の下に当たるように装着して使用する。製品が届いてからすぐに利用可能で、手術をせずに尿漏れを軽減させることができる

「Xホールド」は、独自開発のクッションを会陰部に当てて尿道括約筋の収縮不全を補い、会陰部の尿道を圧迫して尿漏れを防ぐ製品だ。デリケートゾーンにクッションを当て、下から優しく支えるという発想は、「フェミクッション」や「フェミクッションハピネス」と共通している。

「『フェミクッション』は、前立腺がん手術後の患者さんの尿漏れ予防にも有効ではないか」という、泌尿器科を専門とする大学教授のアドバイスが、「Xホールド」開発のきっかけとなった。

子宮がん・乳がん治療後に発症する「リンパ浮腫」の悩みを解消したい

その一方で三井社長は、がん治療の後遺症などとして発症することが多い「リンパ浮腫」の治療・予防を目的とする、医療用弾性ストッキングの開発にも着手した。

リンパ浮腫とは、子宮がんや乳がん等の手術や放射線治療によってリンパ管が損傷し、リンパ液の流れが悪くなることで起こる手足の慢性的なむくみのことだ。命に関わる症状ではないが、根治が難しく、痛みやだるさで日常生活に大きな支障をもたらす。国内では7〜25万人、世界では最大2.5億人がリンパ浮腫を発症していると推定されている。

弾性ストッキングなどの弾性着衣を着用し、リンパ浮腫が起きている部位を加圧する圧迫療法が、リンパ浮腫の基本的な治療法だ。ところが、既存の弾性ストッキングに対して、

・目立ちやすく、他人の目線が気になる
・海外製品が多く日本人のサイズに合わないこともある
・ストッキングの素材が厚すぎて、夏は暑くて履けない
・皮膚への食い込みがひどくて、むくみが悪化してしまう

などの不満を抱く患者が少なくなかった。

三井社長は、自身の家族がリンパ浮腫に悩まされたことをきっかけに、治療に十分な圧迫効果と履きやすさ、快適さを徹底的に追求し、「家族に履いてもらえるストッキングを作りたい」と思い立った。

そして2025年8月に発売されたのが、弾性ストッキング「リンパスリム」(一般医療機器)だ。

がん治療後の後遺症として発症することの多い「リンパ浮腫」治療用の弾性ストッキング「リンパスリム」(https://urogyne.jp/lymph-slim/)。既存の弾性ストッキングは「痛くて穿けない」、「暑くて圧迫療法が続けられない」などの悩みに応える。国内製造にこだわり、自社の国内工場で一貫生産。患者1人ひとりの脚の形や症状に合わせてカスタマイズも可能で、医師の指示書(*)があれば健康保険の適用も受けられる。 ーー(*)がん治療でリンパ節郭清を行い、かつ検査でリンパ浮腫の所見があり、診断を受けて初めて指示書が発行される

「弾性ストッキングだけでもメーカーが何十社もあって競争が激しいので、当社は絶対に他社とは競合しない、世界でオンリー・ワンでなければやらない、というポリシーで開発に取り組みました」と三井社長は語る。

世界に前例のないオンリー・ワンの弾性ストッキングを作ること。それは既存製品では解消することが難しい患者の悩みや不満を、1つひとつ解消していくことだった。

とりわけ、リンパ浮腫の治療に必要な「クラス2」以上の着圧を確保しながらも皮膚に食い込まず、履きやすいという、相矛盾する条件を同時にクリアすることが難しい。

三井社長は長年にわたる試行錯誤の末、開口部に指がかかりやすくし、生地が柔らかく伸びるように工夫された編み方である「立体編み」を採用することで、弾性ストッキングを履くときのストレスを解消。フリーサイズ設計で、身長や脚の長さの個人差にも対応した。

既製品ではサイズが合わない、自分にもっと合った着圧が得られるストッキングがほしいという患者には、オーダーメイドストッキングも提供している(下記の提携医療機関・銀座リプロ外科で必要な測定等を行い、指示書を発行)。

また、縫い目のないシームレス構造を実現し、既製品で課題とされた皮膚への刺激や食い込みによる痛みが起きにくくなるような工夫をしている。くるぶし周りやひざ裏などの生地が浮きやすい部分も、立体構造でしっかりフィットし十分に圧迫することが可能に。通気性の良いメッシュ素材で編んでいるため、夏場でも快適に圧迫療法を行える。

加えて特筆されるのが、弾性ストッキングの販売だけでなく、提携医療機関によるトータルサポートを提供する体制を整えたことだ。

スーパーマイクロサージャリー(超微小外科医)の第一人者である永尾光一医師が院長を務める医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科(東京都中央区)は、もともと男性不妊治療を専門としていた。同院は三井メディカルジャパンと提携し、「リンパ浮腫外来」を新設。リンパ浮腫の専門診療、「リンパスリム」のオーダーメイドに必要な測定・指示書の発行、圧迫療法から手術による治療までをトータルで手がけている。

「リンパ浮腫でも安心して履ける靴」で特許も取得

「リンパスリム」の開発などを通じてリンパ浮腫の患者と向き合うなかで、三井社長は、リンパ浮腫患者でも安心して履ける靴の開発を思い立つ。

三井社長は、「むくみで履ける靴がない」、「左右の足のサイズが違って困っている」といった患者の悩みを数多く耳にした。リンパ浮腫で、たとえば片足がむくんだ場合、異なるサイズの靴を2足購入して片方ずつ履く必要があり、患者たちは不便な生活を強いられていた。

むくんだ足でも無理なくスッと履ける靴――。

そのコンセプトを実現するために、独自の「前開き式構造」を取り入れ、できあがったのがリンパ浮腫専用シューズ「シンデレラスリム」だ。

「前開き構造」で、靴全体が横方向や上方向にも柔軟に広がるので、圧迫による痛みやしびれが少ない。日によって変わるむくみの状態や、左右で異なる足のサイズの差にも1足で対応できる。オフィスや外出時にも使えるファッション性にもこだわり、周囲の目を気にせずおしゃれを楽しめるという点にも配慮した。

「シンデレラスリム」は2025年9月に販売を開始し、2025年1月に特許を取得している。

むくんだ足でも無理なくスッと履ける、リンパ浮腫専用シューズ「シンデレラスリム」。独自の「前開き構造」を採用し、靴全体が横方向や上方向にも柔軟に広がるようにした。

「これまで履ける靴がなく、指先が紫色になるほど困っていたが、すんなり履けた。とても軽い」などのユーザーの声が、同社に多数寄せられている。

リンパ浮腫や「女性特有のカラダの悩み」に関する情報発信を強化

三井メディカルジャパンの提携医療機関である医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科では、2025年10月18~28日にかけて、全国の女性がん患者130名を対象に「リンパ浮腫」の認知調査を行っている。

調査の結果、「足や腕の「むくみ」を感じたとき、それを病気だと思いましたか?」という質問に対し、「疲れや体質だと思った」と答えた人が33%、「何も考えなかった」が18%に上った。単純計算で約半数が、自分の手足のむくみが病気だという自覚を持っていなかったということになる。

さらに、「実際に「むくみ」を放置して悪化した経験はありますか?」という質問に対しては、約4割が「あります」と答えた。リンパ浮腫についての正しい知識が広まれば、「むくみ」がその症状であることに気づかないまま、病気を悪化させてしまうトラブルも減るはずだ。

「リンパ浮腫は、一般にはまだよく知られていません。患者さん自身が(病気について知ることができる)適切な情報にたどり着きにくい状況にあるのです。がん治療を行う医師もリンパ浮腫は専門外であることがほとんど。そこで、リンパ浮腫について手軽に、簡単に知ってもらう方法はないかと考え、マンガ本を出版することにしました」(三井社長)

三井社長は前出の銀座リプロ外科・永尾光一院長の監修のもとで、2025年9月に『マンガでわかる リンパ浮腫』(医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科)を出版した(「イノベーションズアイ」の会員・読者を対象に、著書を希望者に無料プレゼント 〈 申し込み先:医療法人社団マイクロ会 広報:冨永宛、tominaga@ginzarepro.jp 〉)。

三井桂子著 医学博士・永尾光一監修『マンガでわかる リンパ浮腫』(医療法人社団マイクロ会 銀座リプロ外科)。リンパ浮腫についての知識や理解を広げることを目的に、リンパ浮腫はどんな病気か、治療やセルフケアにはどんな方法があるかなどをマンガでわかりやすく解説している(読者プレゼントあり)

一方、三井社長は動画による情報発信にも力を入れている。2025年4月には、リンパ浮腫についての正しい知識と実践的なケア方法をわかりやすく解説するYouTubeチャンネル「リンパ浮腫アドバイザー三井桂子 / 銀座リプロ外科【医師監修】」(https://www.youtube.com/@ginzarepro_woman)を開始した。

さらに、2026年1月にはYouTubeチャンネル「けいこの本音カラダケアLab【女性の病気ケア・予防】【医師監修】(https://www.youtube.com/@karada-care)をスタート。医療業界に20年以上携わってきたからこそわかる、周りに相談しにくい「女性特有のカラダの悩み」の予防・ケア方法を、医師の監修を得たうえで、三井社長自らが解説している。

製品・サービスの開発をさらに強化。販売・販路拡大パートナーと連携したい

ここまでみてきたように、三井社長はこれまで20年にわたり、骨盤臓器脱の患者やがんサバイバーといった深刻な医療課題を抱える人々の悩みに寄り添い、症状緩和や病気の予防につながる医療機器の企画・開発・製造を手がけてきた。

企業理念に記されている「悩める女性の代弁者」という姿勢はこれまでも、そして今後も変わることはない。

「これから実現させたいことや夢がたくさんあって、まだ志半ばだというのが正直なところです。やりたいことがたくさんありすぎて、時間が足りません」と三井社長は話す。

商品開発やものづくりはもちろん、患者の利便性をより向上させるサービスや仕組みを考え、作ることが好き。「患者さんの悩みにどう応えたらいいのか」と試行錯誤するなかで、「こうしたらいいのではないか」というアイデアが、どんどん湧いてくるという。

製品の販売や日本国内および海外での販路拡大に協力してくれるパートナーの力を借りながら、医療機器開発やものづくり、サービス構築をより強化していきたいという思いが、三井社長にはある。

「製品がより大勢の方の手に渡ってこそ、私たちがお役に立てたということになるのです。当社だけで細々と、自分たちの手が届く範囲で製品を提供しているだけでは、目標を達成したことにはなりません。信頼できるパートナーの皆さんに販売や販路開拓をお任せし、私たちはものづくりやサービス作りに徹したい。患者さんの声を集めることは得意なので、協力は惜しみません」(三井社長)

2006年12月に会社を設立してから、今年で20年目を迎える。三井社長は今、既存製品の販売拡大、新製品の開発などに奔走する一方、自社で作り上げた医療機器を今後も安定・持続的に患者の元に届けるため、社内体制や経営基盤の強化にも取り組んでいる。

「私は新しいことを考えるのが好きですが、今後を見据えて、いわゆるエグジットをどうしたらいいのかも考えています。自分が経営の第一線を離れて会社を去ったあとでも、私たちが生み出した数々の製品――『この子』たちが、しっかりお役に立てる仕組みを構築しなければなりません。この先100年、200年、300年にわたり、永続できる体制を作り上げたいと考え、今動いているところです」(三井社長)

 

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