つるちゃんの雑魚釣り紀行

第16回

“ハゼ釣り天国”近くに悪夢のような廃墟が・・・ ~岡山の秋、トビハゼやシマイサキも登場~

イノベーションズアイ編集局  編集アドバイザー 鶴田 東洋彦

 

穴場は児島湾大橋の橋げた

涼しさも増して、本格的な秋の到来。そう秋の釣りの定番と言えばハゼ釣りである。簡単に釣れて、天ぷらでも唐揚げでも最高に美味しいハゼ。東京の江戸川や荒川の河口あたりでも気軽に釣れるが、今回は思い切って岡山まで遠征してのハゼ釣りということで。タイトルが気になった人、不気味な廃墟の話は、コラムの後半までお待ちください。

まずは、地元で釣り場の情報集め。小豆島行のフェリー乗り場がある新岡山港近くの釣具屋で餌のゴカイを仕入れがてら尋ねると「このあたりの漁港や砂浜ならどこでも、そこそこの数は揃いますよ」とつれない返事。そこで、もう手元にはあるものの、少し天秤仕掛けやナス型のオモリを買い増しながら、踏み込んで聞くと「児島湖の手前の旭川の河口か、児島湾を横切る児島湾大橋の橋げたあたりがいいかな」。

ちなみに、この児島湖というのは岡山港と対岸の児島湾を堰堤で結んで、湾の奥を農地用水確保のために淡水化した湖で、ダム湖を除いた人造湖としては、オランダのアイセル湖に次ぐ世界で2番目の広さらしい。確かに湖岸を車で走ってみると延々と湖面が続く。

こんな場所でと思ったら、いきなりブルブル

お薦めの旭川河口には結構釣り人もいて、車を止める場所もない。そこでやむなく引き返して児島湾大橋の橋げた近くに車を止めて、浜辺に降りる。あたりには一面、雑草が生い茂っていて旭川の河口とは逆に、人の気配が全くない。

しかも砂浜は、よく言えばまるでプライベートビーチのような狭さで、目の前には橋げた。小豆島行のフェリーが橋をくぐって通り抜けるたびに、航跡の後の波が結構な強さで押し寄せる。「こんな場所で釣れるのかな」と思いながらも、短めの竿を2本取り出して天秤仕掛けに8号のナス型オモリを付け、2本針で6号針を結んでチョイ投げ。ちょっと底を手前に引いて誘いを入れてみる。深さは2メートルくらいだろうか。

児島湾大橋の橋げた。思わぬ“ハゼ釣り天国”だった

すると、いきなりブルブル。ハゼ特有の小気味よい引きが手元に伝わってくる。「お、いたいた」。口元を綻ばせながら竿を上げると、10センチほどの唐揚げサイズが2匹付いている。針を外して獲物をクーラーボックスに入れながら、横の置き竿に目をやると竿先が揺れている。急いで上げてみると、こちらにはもう一回り大きなハゼが1匹。「これはいけるな」。この場所を教えてくれた釣具屋に感謝、感謝。こんな場所で、と思ったが、まさに1人で釣り場独占の“ハゼ釣り天国”である。

愛嬌あるトビハゼを観察

それからは、もう順調に1匹、2匹と針に掛かってくる。釣れ過ぎても食べきれないなと思いながら、一服して砂浜が途切れたところにある岩場を散策。するとぴょんぴょんと弾けるように逃げていく子魚がいる。よく見ると防波堤や切り立った岩場にも張り付いている。なんとトビハゼだ。このあたりにはたくさんいるらしいが、こちらは水族館以外で見たのは初めて。ランチ替わりの菓子パンを頬張りながら、しばし観察。キョロキョロとあたりを伺う顔に愛嬌があって可愛い。

岩場に張り付いたトビハゼ。飛び出た目に愛嬌がある

トビハゼと戯れていると、だいぶ潮も引いてきたので、竿を長めのものにして少し沖目を探ることに。橋げたの横、30メートルほどのところに仕掛けを飛ばす。今度はブルブルが強い。天ぷらサイズの14、5センチほどのハゼが上がってくる。何匹か釣っていると、仕掛けがいきなり横走り。ハゼとは全く違う引きなので、ハリスの細さも考えて慎重にリールを巻く。20センチほどのシマイサキだ。

別名はコトヒキ。銀色に黒色の横帯が入った綺麗な魚で、河口近くでも釣れる防波堤ではお馴染みの雑魚である。30センチ以上のものは刺身でもいけるが、このサイズだと煮付けか塩焼きが美味しい。群れで入ってきたのか、このシマイサキが4匹、たて続けに釣れる。小物ながらも引き味が強く楽しい。

シマイサキやセイゴも竿を揺らす

そして次に登場したのが、これもハゼ釣りや防波堤釣りではよく掛かってくるセイゴだ。出世魚としてお馴染みのスズキの幼魚で、だいたい25センチくらいがセイゴ、60センチくらいまでがフッコ、それ以上がスズキだが、セイゴサイズでも揚げ物や塩焼きで美味しく食べられる。これもサイズ以上の引き味だ。ちなみに、スズキクラスは釣り雑誌など「シーバス」の名前で紹介され、ルアーフィッシングの対象として大人気である。

まあ、ハゼも酒の肴には十分、しかもシマイサキ、セイゴと登場したので、そろそろ上がろうとしていた時に、ズンとした重い当たり。動きもないので、海藻の塊でもひっかけたと思って引いてくると、少し横に動いて抵抗する。「これは間違いなくアカエイだな」と思って、慎重に巻き上げたが如何せんハリスが細すぎて途中でプッツン。毒棘のある尾を切って料理すれば味噌汁や唐揚げで最高の魚だが、さすがにハゼの仕掛けでは上がらなかった。無念!

クーラーボックスいっぱいのハゼ。上側の横じまがシマイサキ、下側左がセイゴ。新鮮なハゼの唐揚げは最高の味だった

ハゼは秋の味覚の代表格

持ち帰った獲物は、面倒なのでみな小麦粉をまぶして唐揚げに。シマイサキもセイゴも白身がホクホクで美味しかったが、やはりビールの肴に最高なのはハゼ。11月末くらいになると深場に潜ってしまう“季節限定”の魚だけに、余計に美味が身に染みる。ハゼ釣りは江戸時代には、すでに庶民の遊びとして親しまれ、天ぷらや甘露煮で食されていた歴史もある。

ハゼ釣りと言うと、誰にでも簡単に釣れる気軽な釣りの代表格だが、手軽に釣れてこれほど美味しい魚も少ないと思う。ビールを片手にハゼの天ぷらや唐揚げを摘まむ。個人的には、秋の味覚の代表格だと実感している。

ところで、このハゼ釣り場からそう遠くない場所。以前、この連載でも紹介した牛窓町のはずれ、鹿忍(かしの)という地区に釣りとは全く関係はないが、驚くような場所がある。風光明媚で“東洋のエーゲ海”とも称される牛窓のはずれに、よもやこんな場所がと思われるような異景、水没したペンション村である。

不気味なコテージ、異様な虚無感が

水没したペンション村。崩れかけたコテージや廃屋が並ぶ異様な風景だ

そこで日暮れ近くにはなったが、ちょっと足を延ばしてみる。曇天の中、山道の小さな峠を越すと見えてきた。立ち枯れして朽ちた木が何本も突き出た濁った池。その中に崩れかけたコテージや廃屋が何棟も並んでいる。そして朽ちた木や廃屋の上には黒い鳥(海鵜)が。正直、シュールというか、何か悪い夢でも見ているような異様な風景である。

夕暮れ時、うす暗い曇天のせいだろうか。周囲の静けさも重なって、廃墟感、虚無感がかなり強い。聞くと、ここは「鹿忍グリーンファーム跡」と呼ばれる水没したペンション村で、全国の廃墟マニアには有名な場所らしい。

もともと塩田の跡に建てられた施設が閉鎖後の排水管理の不備と雨で2010年ごろに水没したらしいが、正直言ってオリーブの畑と青い海、美しい海岸線が続く牛窓にこんな廃墟があるのには驚かされた。地元の観光案内には一切、触れられていないので、世紀末感を味わいたい人は是非、探し当てて欲しい・・・・・。あまりお薦めはしたくないが。

ということで、ハゼ釣りを楽しみながら、シュールな異世界の雰囲気も味わえる岡山の児島湾から牛窓にかけての釣り。東京からは少し離れているが、近くには映画「二十四の瞳」の舞台であり、オリーブ公園や醤油蔵などが有名な小豆島や、瀬戸内国際芸術祭の舞台である直島、豊島、犬嶋といった島々も並ぶ。フェリーで簡単に渡れる島々で、釣り好きな人にもアート好きな人にも、まさに最適な観光地である。もちろん廃墟マニアにも、だが。

新岡山港から小豆島に向かうフェリー

 

プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦

山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。

産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。

著書は「天然ガス新時代~機関エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。

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