第15回
ハリセンボンは“超”美味だった ~手でもすくえる可愛い魚。食べるのはちょっと可哀そう~
イノベーションズアイ編集局 編集アドバイザー 鶴田 東洋彦
泳ぎは下手くそ。大波で浜辺に打ち上げられることも
いきなり乱暴な表現でご容赦願いたいが「鈍くさい魚」と言うと、まず思い浮かぶのがハリセンボンである。この魚、誰もが水族館などで見たことがあると思うが、フグの仲間で、敵に襲われそうになると海水をたくさん飲んでトゲを立て、針が無数に突き出した「真ん丸な風船」のような形になる。目が大きく表情も豊かで、水族館でも子供たちの人気者だ。
なぜ、鈍くさいという言い方をしたかと言うと、とにかく泳ぎが下手くそ。胸びれをバタバタ動かして、漂うように泳ぐだけ。なので、台風の後や冬の海岸では、荒波に打ち上げられたまま死んでしまうことも多いという。和歌山県由良町の白崎海岸に出かけた時に、風が吹き荒れたあとでこの魚が大量に打ち上げられているのを見て、妙に納得した記憶がある。
そんな魚だが、実は簡単に釣れるらしいし、何といっても「食べても美味しい」と魚類図鑑をめくると書いてある。「え、あんなトゲだらけの魚をどうやって食べるのか」と驚きながら読み進めると、白身に独特の旨味あるとか。「これは釣り上げて食べないといかん」。とは思いながらも、実は博多赴任中で、珍しく仕事も忙しかった時。図鑑のこともすっかり忘れていた。
雑誌のグラビア見て奮起
だが、不思議なことに、そんなときに限って“出会い”はあるものだ。仕事の途中で、ふと立ち寄った書店で手にした釣り雑誌のグラビアに、巨大なハリセンボンの写真が掲載されている。写真の下には「沖縄では頻繁に見かけるハリセンボン。だた、この巨大なサイズは珍しい」とある。サイズは約50センチ、場所は浜比嘉島。釣り人が自慢げにコメントしている。
「これは行かねば」ということで、国頭郡の本部町に自宅がある知人を誘って、浜比嘉島に行くことに。この島は、沖縄本島中部のうるま市にある離島だが、離島とはいっても本島から海中道路、浜比嘉大橋と車で渡っていける島なので、便利な場所である。
訪れたのは、まだ太陽の光が強烈な9月。島の北部の防波堤に沿って真っ青に澄んだ海の中を探してみるが、頻繁に見かけるはずのハリセンボンの気配は一向にない。ちなみに、地元沖縄でのハリセンボンの名称は「アバサー」。地元のお婆ちゃんに聞いてみると「アバサーなら、いっぺー魚ゆ釣ゆんどう(どこでも釣れるよ)」というが、いないものは仕方がない。

ということで、知人の自宅近くの浜崎漁港まで、1時間近くかけて戻って、いったん一休み。この港は、以前、肝に強烈な毒を持つソウシハギを釣り上げて食べ、危うい目にあった釣り場だが、とにかく熱帯の小魚の宝庫のような港である。
必殺のサイトフィッシングで釣り上げる
一服した後で波止から、真下の澄んだ海をのぞいてみると、たくさんのスズメダイに交じって、海面近くを3匹のハリセンボンが、寄り添うように泳いでいる。「いたいた!」。慌てて車に戻って竿を取り出す。
中から一番短めの竿に軽いオモリと2号のチヌ針を付けて、オキアミを餌に泳いでいるハリセンボンの前にそっと落とす。餌に興味を持って寄ってきたら、くわえたタイミングで合わせる典型的な“サイトフィッシング”という釣り方だ。要は見える魚を狙い撃ちするような方法である。他の魚には通じないが、実は好奇心の強いハリセンボンには必殺の釣り方だ。

案の定、前の方にいた一匹があっという間にオキアミの方に近づいてきた。あとはくわえた瞬間に合わせるだけ。あっけないほど簡単に釣れてしまった。もっとも海面近くで見つければ、ほぼ釣れてしまう魚なので、胸を張って「釣れた!」と言うほどのこともないが。ただ、口先が鋭いので、針を外す時にだけは注意が必要だ。
そして続けざまにもう一匹。大きさは二匹とも20センチほどの小ぶりだが、精いっぱいトゲを立てて膨らんだ姿が妙に愛くるしい。さすがにもう一匹いたはずのハリセンボンはどこかに逃げてしまったらしく、水面下を泳いでいるのはスズメダイと鮮やかな色のベラだけ。とにかく日差しが強すぎて、とても釣りを続けるどころではなくなったので、二匹ほどの雑魚を追加して竿を収めた。
汁も唐揚げもフグそっくりの美味
さて、問題はこの2匹のハリセンボンをどう捌くかである。ちなみに、沖縄ではこの「アバサー」を昔から食用にしてきたこともあって、皮ごとトゲを剥いだハリセンボンが市場では普通に売られている。だが、トゲだらけのハリセンボンの皮は分厚く、正直、素人の手におえるものではない。しかも20センチと、食べるには心もとないサイズである。
そこで、那覇市内に戻って、旧知の居酒屋の主人にダメもととは思いながらも、調理を頼み込む。すると、笑いながらも「いいですよ」と返してきた。嬉しくなって、ビールを飲みながら、出来上がるのを待つ。もう好奇心丸出しである。
としばらく待って出てきたのが、汁の上に「フーチバー(よもぎ)」が乗った「アバサー汁」と唐揚げ。アバサー汁の方は塩味で、アラから出る出汁の旨味が凄い。唐揚げの方も、しっかりした白身でまるでフグのようである。まあ、同じフグの仲間なので、美味しいのは当たり前かもしれないが。ビールや泡盛も進むこと、この上ない。

手でもすくえる可愛い魚

と言うことで、念願のハリセンボンの釣りと料理に大満足。ちなみにこのハリセンボン、冒頭に書いたように泳ぎが下手くそな魚なので、なんと手でもすくうことが出来る。別の日のことだが、名護市に近い今帰仁(なきじん)村近くのサンゴ礁の潮だまりに泳いでいたのをすくって、バケツに入れたこともある。
しばらく、近くにいた子供たちと観察、海に戻したが可愛い魚なので、今さらながらだが、食べるのにはちょっと抵抗感があるかも。ちなみにハリセンボンのトゲの数は、一本一本丁寧に数えた専門家がいるらしく、全部で357本だったとか。さすがに1000本と言うわけにはいかなかったようだ。
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集アドバイザー
鶴田 東洋彦
山梨県甲府市出身。1979年3月立教大学卒業。
産経新聞社編集局経済本部長、編集長、取締役西部代表、常務取締役を歴任。サンケイ総合印刷社長、日本工業新聞(フジサンケイビジネスアイ)社長、産経新聞社コンプライアンス・アドバイザーを経て2024年7月よりイノベーションズアイ編集局編集アドバイザー。立教大学、國學院大學などで「メディア論」「企業の危機管理論」などを講義、講演。現在は主に企業を対象に講演活動を行う。ウイーン国際音楽文化協会理事、山梨県観光大使などを務める。趣味はフライ・フィッシング、音楽鑑賞など。
著書は「天然ガス新時代~機関エネルギーへ浮上~」(にっかん書房)「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)「記者会見の方法」(FCG総合研究所)など多数。
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