企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第64回

AI活用が進む会社と、止まっている会社 ──現場で見えてきた違い

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「AIをもっと活用したいけれど、正直どこから手を付けていいか分からない」
「一度導入してみたものの、一部の社員しか使っておらず広がっていかない」
「安全に使えているのか、自社のルール構築が課題」

私たちがBPOやAI活用の現場でお手伝いをする中で、経営者の方々からこのようなご意見を伺う機会が増えてきました。
「任せて本当に大丈夫なのか」「特定の人しか分からない業務を、どう仕組みに移せばいいのか」──そんな迷いは、事業と、そこで働く人を大切に思っている経営者だからこそ生まれるものだと捉えています。
導入が進んでいる会社と、途中で立ち止まってしまっている会社。
多くの現場に関わってきた経験から感じているのは、その差はAIの性能や社員のスキルだけで決まるものではない、ということです。
分かれ目はもっと手前の、「どう始めるか」という進め方の設計にあるのではないかと考えています。

止まる理由は、意欲でも、ツールの性能でもない

立ち止まっている会社に、意欲がないわけではありません。
「AIを使って業務を変えたい」「現場の負担を減らしたい」という強い期待をお持ちの経営者は、少なくありません。
それでも手が止まってしまう場面を振り返ると、いくつかの共通点が見えてきます。

やりたいことが言葉になっていない。
推進する人が決まっていない。
いきなり大きく始めてしまう。

いずれもAIの性能の問題ではなく、始める前の準備と進め方の問題でした。
第61回でお伝えした「使える人がいる会社」と「組織で活かせている会社」の差も、突き詰めれば、この「始め方」に行き着くのではないかと感じています。
もし今、「自社の活用が止まっているかもしれない」と感じられたとしても、焦る必要はないと思います。
それに気づけたこと自体が、次のステップへ進むためのとても大切な一歩だと捉えています。

分かれ目①
「なんとなく」から「解決したい課題」へ

立ち止まってしまう場面でよく見られるのは、経営者や上層部が「なんとなく、こんなことできるでしょ」と希望を口にするものの、やりたいことや解決したい課題が言葉になっていないケースです。
期待が大きいほど、現場は「何から始めればよいのか」が分からず、動けなくなってしまいます。
課題が曖昧なままだと、成果の測り方も、現場への説明も難しくなり、結果として一部の人だけが使う状態になりやすいように感じています。
全体の設計が描かれていないことも、足踏みの一因です。
「なんとなく」は、期待の表れでもあります。
その期待を、現場が動ける言葉に翻訳していく作業が、最初の一歩になるのかもしれません。

一方で、活用がスムーズに進む会社は、「何の課題を解決したいのか」が言葉になっています。
その課題が解けたとき、現場の何がどう楽になるのか。
そこまで描いたうえで、全体の設計の中にAIの持ち場を置いています。
課題が言葉になっていれば、現場への説明も、成果の確認もしやすくなり、取り組みが一部の人の工夫で終わらずに広がっていきます。

第63回でお伝えした「Why(なぜそれをするのか)」の軸が、ここでも出発点になります。
AIを使うこと自体が目的になってしまうと、導入した時点で一区切りとなり、その先へ進みにくくなります。
課題が言葉になっているからこそ、AIは目的を果たすための頼もしい手段になるのではないでしょうか。

分かれ目②
推進担当者に時間と権限を。ただし、経営陣は任せきりにしない

次の違いは、推進体制のあり方です。
止まってしまうケースでは、推進担当者が明確でなかったり、担当者がいても適切な権限が与えられていなかったりします。
権限がなければ、決めるべきことを決められず、担当者が一人で抱え込むことになりかねません。
新しい取り組みは、通常業務の延長では時間を確保しにくく、判断のたびに確認待ちが生じると、どうしても動きが遅くなりがちです。
また、費用を抑えることを優先して、外部の専門家の知見を取り入れないまま進めようとする場面も見られます。
費用を抑える判断そのものは自然なことですが、つまずいてから立て直す時間も、コストの一部ではないでしょうか。

進んでいる会社では、推進担当者を明確にし、専念できる時間と必要な権限をしっかりと渡しています。
自社に知見が足りない部分は、必要に応じて外部の知見も取り入れます。
ただ、決まったことを担当者任せにはしません。
経営陣が、安全面や運用フローを担当者と一緒に確認しています。

第47回の「任せられる体制は設計から」、第63回の「判断するのは人」でお話ししたとおり、任せることと、任せきりにしないことは両立します。
担当者に任せる「委任」と、経営陣が確認する「伴走」の両輪があってこそ、現場は安心して前に進めるのだと信じています。
最終的な判断と安全性の確認は、人が担う領域だと考えています。

分かれ目③
小さく試す。ただし、ルールと権限は最初に決める

最後の分かれ目は、始め方の規模と、ルールの決め方です。
いきなり大きく始めてしまうと、現場の混乱や反発を生みやすくなります。
現場からすれば「急に言われても」という戸惑いが先に立ち、AIが助けになる前に、負担が増えると受け取られてしまうこともあるでしょう。
また、アクセス権限や情報取り扱いのルールがあいまいなまま進めると、セキュリティの面でつまずき、途中でストップがかかってしまうこともあります。
セキュリティの確認は、動き出してからでは手戻りが大きくなりやすいため、最初に決めておくほうが結果的に早く進めると感じています。

着実に進む会社は、「まず一部署の、この一業務から」と小さく試すところから始めています。
試したことは、うまくいった点もつまずいた点も、全員に共有する。
そして、セキュリティルールとアクセス権限は、試す前に明確にしておく。

第62回でお話ししたとおり、aubeBizでも管理本部が安全性を確認したものだけを業務で使用可能としているのは、同じ考え方によるものです。
小さな範囲で試すからこそ、つまずきも早い段階で見つかり、次の一歩を決める手がかりになります。

「小さく始めること」と「全体のルールを描くこと」は決して矛盾しません。
全体像を描いたうえで、最初の一歩を小さく踏み出すことが、結果として一番の近道になるのではないでしょうか。

「止まっているかも」と気づいたら、振り返ってみたい三つのこと

ここまでお話ししてきた三つの分かれ目は、どれも、ツールの性能だけで決まるものではありません。
始める前の準備と進め方を見直すことで、現場の景色は少しずつ変わり始めると感じています。
課題を言葉にし、推進する人に時間と権限を渡し、小さく試してルールを決める。
並べてみると、どれも特別なことではなく、地道な設計の積み重ねです。
だからこそ、今日からでも見直し始められると考えています。

ここで少しだけ、自社の現在地を振り返るための小さな自己点検をしてみませんか。

・解決したい課題と、その全体像が言葉になっているか
・推進する人に時間と権限があり、経営陣も一緒に確認しているか
・小さく始める計画と、守るべきルールがセットになっているか

この3つを確認しながら、まずは、たった一つの業務からAI活用を始めてみることをお薦めします。


 次回は、「忙しいのに何も前に進まない」の正体──業務の棚卸しをしたら、見えてきたこと
今回お話しした「まず一業務から始める」というステップを踏まえて、ではその「最初の一業務」をどう選べばよいのか。現場での業務の棚卸しのプロセスから、具体的に掘り下げていきます。



 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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