企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第62回

「AIエージェント」とは何か、何ができるのか──中小企業が知っておきたい基礎と安全な使い方

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「AIエージェント」という言葉を、耳にする機会が増えてきました。
「指示しなくても、自分で考えて動くAI」と聞くと、夢のような話に聞こえるかもしれません。
でも、正直にお伝えします。
aubeBizでは現在、社内業務においてメンバーが自走型のAIエージェントを使うことに、かなり厳格なルールと制限を設けています。
「便利なものは積極的に使う」という私たちの姿勢からすると、意外に思われるかもしれません。
今回は、AIエージェントとは何かという基礎知識と合わせて、なぜ私たちがあえて制限をかけているのか、その理由を正直にお話ししたいと思います。

「聞かれたら答えるAI」から「頼んだら動くAI」へ

これまで私たちが親しんできたAI──ChatGPTやGeminiのようなツール──は、基本的に「質問すれば答える」「指示すれば作る」という一問一答型の存在でした。
何かをしてほしいときは、その都度、人間が指示を出し、手綱を握り直す必要があったと感じています。

一方で、最近注目されているAIエージェントは、目的さえ伝えれば、そこに至るまでの複数の作業を自分で組み立てて実行しようとする存在です。
たとえば「来週の会議の資料を準備して」と伝えると、情報収集から資料の下書き作成、関係者への共有まで、いくつものステップを自ら判断しながら進めていくようなイメージです。

「指示するAI」から「任せるAI」へ。
手がかからなくなる分、業務のスピードが上がる可能性を秘めていますが、この「自分で判断して動く」という部分にこそ、経営として慎重に向き合うべきポイントが潜んでいるのではないでしょうか。

なぜ私たちは、あえて制限をかけているのか

AIは、進化のスピードがとても速い技術です。
昨日まで安全とされていたサービスが、今日には仕様変更によってリスクを抱えることも起こり得ます。
安全性が十分に確認できていないものを、自社や大切なクライアントの情報を扱う業務に使ってしまえば、情報漏洩や誤った情報の自動拡散といった、大きなリスクにつながりかねないと私たちは考えています。
特にaubeBizは、メンバー全員がフルリモートのテレワークで働く組織です。
オフィスで隣の席から画面を覗き込めるような環境ではありません。
だからこそ、一人ひとりの判断に委ねて「便利そうだから」と自由に使い始めてしまうことは、組織としてのリスク管理の観点から避けるべきだと判断しました。

現在aubeBizでは、管理本部が事前に安全性を確認したAIエージェントのみを使用可能とし、それ以外を業務で使うことには制限をかけています。
「使わせない」のではなく、「安全だと確認できたものだけを、安心して使ってもらう」という考え方です。
これはAIの可能性を否定しているわけではありません。
大切な情報を守り、AIを長く安心して使い続けるための、テレワーク組織ならではの「土台づくり」だと捉えています。

中小企業の現場で、どこまでなら任せられるのか

「制限している」とお話しすると、すべてを禁止しているように聞こえるかもしれません。
ですが、決してそうではありません。
実務の中で「どこまでは活用できるか」という線引きを明確にすることが大切だと感じています。
私たちが10年以上テレワーク組織を運営する中でたどり着いた実践的な姿勢は、次のような捉え方です。

準備段階(AIエージェントの補助領域)
情報の収集、下書きの作成、データの整理など、万が一途中で間違いがあっても修正がきく作業。

実行段階(人が必ず担う領域)
メールの送信、契約の確定、情報の公開など、一度行うと後戻りができない決定や送信作業。

実際にaubeBizの現場でも、たとえばクライアント向けの定例レポートを作る際、情報の収集や下書きの構成案はAIエージェントに任せています。
ただ、最終的な数値の確認とクライアントへの送信ボタンを押すのは、必ず担当者本人です。
下準備にかかっていた時間は大きく短縮されましたが、「誰に、何を、どう届けるか」という最後の判断は、これまでと変わらず人の手に残しています。

社外に影響が及ぶ業務や信頼に関わる領域ほど、人の判断を挟む工程を厚くする。
「全部禁止」ではなく「線引きを明確にした上での限定活用」とし、「下準備はAIに助けてもらい、最後の判断と実行は人が担う」という境界線を引くことが、現場で安心してテクノロジーを活用するための第一歩ではないでしょうか。

安全に使うための「三つの視点」

自社でAIエージェントの導入を検討される際、判断材料にしていただけそうな「三つの視点」をご提案したいと思います。

1.誤りが連鎖する範囲はどこまでか もしAIが途中の判断を誤った場合、そのミスがどこまで自動的に広がっていく設計になっているかを、事前に確認しておくこと。

2.権限はどこまで与えるか 最初から広いアクセス権限や操作権限を与えず、影響範囲の小さい閉じた業務から少しずつ試していくこと。

3.「何をしたか」を後から追えるか エージェントがどのような手順で判断し、どんな行動をとったのか、行動ログを人間が後から確認できる仕組みになっているかをチェックすること。

第47回で「任せられる体制は設計から始まる」とお伝えし、第61回では「情報の土台をつくること」についてお話ししました。
AIエージェントという新しい存在に向き合う今も、「人が最終責任を持つこと」は変わらない経営の原則だと捉えています。
aubeBizで管理本部が一元的にAIツールを管理しているのも、この考え方に基づいた実践のひとつです。
見えない場所で何が起きているかを把握し設計しておく視点は、これまでの連載で描いてきた「設計する経営」というテーマとも一貫していると感じています。

最後に

AIエージェントという新しい技術は、大きな可能性を持っています。
だからこそ導入を考える際には、「何を任せるか」以上に「何を任せないか」をあらかじめ決めておくことが、私たちにとって重要な出発点となっています。
aubeBizが慎重な姿勢を取っているのは、AIを否定しているからではありません。
大切な顧客情報や、日々の業務に寄せていただいている信頼を預かる立場として、譲れない一線があるのではないかと考えています。

便利さに惹かれて突き進む前に、少し立ち止まって考えてみたいのです。
あなたの会社では、AIに「任せてはいけないこと」を、あらかじめ決めていますか。

次回は、AIに任せることと人が担うこと──
「代替」ではなく「組み合わせ」という視点から、AIと人の役割分担をどう設計していくか、その本質に迫ります。今回お伝えした「あえて制限する」という話から、より広く、AIと人の関係性を問い直していきます。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

あわせて読みたい

御社の情報も、このように発信しませんか? 掲載をご希望の方はこちら

企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。