企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第63回

AIに任せることと、人が担うこと──「代替」より「組み合わせ」で考えると見えてくるもの

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

第62回では、aubeBizが自社であえて制限をかけている理由についてお話ししました。
今回はその話をもう一歩広げて、「AIと人は、そもそもどう役割を分担すればよいのか」という問いに向き合ってみたいと思います。

世間では「AIに仕事が奪われるのではないか」という議論が目立ちます。
けれど、経営者の方とお話ししていると、関心はむしろ別のところにあるように感じます。
「自社で最適に活用するには、どうすればいいのか」
「安全なAIで業務を効率化したい」
「自動化を進めて、属人化を解消したい」
そんな、とても実務的な問いです。
その問いに向き合うとき、「AIか人か」という「代替」の発想よりも、「組み合わせ」で考えるほうが、見える景色がずいぶん変わってくるのではないでしょうか。

「AIか人か」ではなく、「どの工程を、誰が担うか」

「AIに代替される仕事、されない仕事」という二分法は、分かりやすい反面、経営の現場で本当に必要な判断とはズレがあるのではないでしょうか。
私たちaubeBizは、10年以上、テレワークと最新ツールを組み合わせながら事業を回してきました。
その経験から振り返ると、「AIか人か」という択一で語れる仕事は、ほとんどなかったように思います。
一つの業務の中に、AIが得意な部分と、人にしか担えない部分が混ざり合っているからです。

「代替」という言葉には、仕事をまるごと奪うのか、奪わないのかという白黒の響きがあります。
けれど、実際の現場で起きているのは、一つの業務の中での「配分の組み替え」ではないかと感じています。
もちろん、経営者の胸には「本当に安全に任せられるのか」「特定の人しか分からない業務を、どう仕組みに移せばいいのか」といった実務的な迷いがあることも承知しています。
その迷いは、事業と、そこで働く人を大切に思っているからこそ生まれるものだと考えています。
どちらが優れているかという議論から一度離れ、「この業務をどう組み合わせれば、安全に回り続けるか」と問い直してみることが、現場の判断を前に進めるきっかけになるのではないでしょうか。

一つの業務を分解してみると、境界線が見えてくる

「代替か、存続か」ではなく、「一つの仕事の、どの工程を誰が担うか」という解像度まで業務を分解してみる。
この視点を持つだけで、対応策は一気に具体的になります。
第62回でお伝えした「準備段階(AIの補助領域)」と「実行段階(人が担う領域)」という区分を、もう少し具体的な業務フローに当てはめて考えてみます。
たとえば、一つの提案書作成という業務を考えてみます。

・業界動向や類似事例の情報収集
・提案全体の構成案の作成
・文章の一次ドラフト作成
・データの事実確認(ファクトチェック)
・クライアント特有の文脈や悩みに合わせた微調整
・提案内容の最終判断と提出の意思決定

このように工程を細かく分解してみると、AIが圧倒的なスピードで力を発揮する工程と、人の経験やお客さまとの関係性がものを言う工程が、思いのほかくっきりと分かれて見えてきます。
情報収集や下書き作成は、AIの圧倒的な得意分野です。
一方で、相手の会社が今どんな状況にあり、何を気にかけているのかを汲み取った調整や、最後に「これでいく」と決める意思決定は、人が担うべき領域です。
「この仕事はAIにできるか」と大雑把に悩むのではなく、「この仕事の、どの工程をAIに任せるか」。
考える順番をこう整えるだけで、現場の判断はずっと具体的で前向きなものになるのではないでしょうか。

AIが作業を引き受けるほど、人は価値の創造にシフトできる

AIが定型的な作業を引き受けてくれるほど、人が本来力を発揮すべき領域は、はっきりしてくるように感じています。
これまでの連載(第46回「安心提供力」、第56回「シニアの知恵」など)でも触れてきたとおり、「情報を整理する力」と「相手の状況を汲み取って信頼関係を築く力」は明確に別物です。
AIが情報収集や下書きといった準備を担うようになったことで、人は「作業」から解放され、企画や開発、顧客との信頼関係構築など、より「人」にしかできない価値の創造にシフトできるようになると感じています。

「組み合わせ」を判断するのは、結局いつも人である

もう一歩踏み込んで考えてみたいのは、この役割分担そのものを「誰が決めるのか」ということです。
どれほどAIが進化しても、AI自らが「ここからは人に任せよう」と提案することはあっても、判断することはありませんし、させてはいけません。
どの業務をどう分解し、どこにAIを組み込み、どこを人が担うのか。
その判断をするのは、いつも経営者やリーダーの仕事です。
第47回でお伝えした「任せられる体制は設計から始まる」という考え方のとおり、任せるという行為は、設計があって初めて成り立ちます。
第61回でお伝えした「情報の土台を整えること」も、同じ原則とつながっています。
AIが進化すればするほど、この「AIと人をどう組み合わせるかを判断し、設計する力」こそが、経営の核心にあるスキルになっていくのではないかと信じています。

「AIか人か」の先にある、組織の土台づくり

AIか人かを選ぶ必要はありません。「この仕事を、どう組み合わせるか」という問いに立ち戻ってみるだけでいいのだと思います。
業務を分解し、AIと人それぞれの持ち場を見極める作業は、一見すると地味で手間のかかる作業に見えるかもしれません。
私達も、フルリモートで事業を回し始めた創業期から、一つひとつの業務を見直す作業を何度も繰り返してきました。
でも、その小さな積み重ねこそが、これからの時代においても折れない、強い組織をつくっていくのではないかと感じています。

Whyからはじめる──手を動かすのが人でもAIでも、変わらないもの

「組み合わせ」を考えるとき、最後に立ち戻りたい軸があります。
サイモン・シネック氏がTED講演(「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」)で語り、世界中で共感された「ゴールデン・サークル(WHYから始めよ)」の考え方です。

Why=なぜ、その事業をするのか、が同じならば、人が手を動かすか、AIを活用するかは問題ではありません。
私たちのミッションは「自分らしいビジネスと働き方を応援する」ことです。
クライアントのビジネスの発展をより応援するために、AIが優れている部分は大いにAIを活用し、人を作業から解放して、よりクリエイティビティや伴走力を発揮する。
第62回でお伝えした「あえて制限をかける」という姿勢も、大切なクライアントの信頼を守りながら応援を続けるための、同じWhyから生まれたものだと確信しています。

あなたの会社は、何のためにその事業を続けているのでしょうか。
その答えを思い浮かべながらAIと人の持ち場を見直してみると、これまでとは違う景色が見えてくるかもしれません。

次回は「AI活用が進む会社と、止まっている会社──現場で見えてきた違い」をお届けします。
今回描いた「組み合わせを判断し、設計する」という視点が、実際の現場でどのような差となって表れているのか、私たちが支援の現場で見てきた事例とともにお話しします。


 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

『地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎』

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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