企業と地方の「人がいない」を解決する~地方創生テレワーク&BPOという選択肢~

第53回

 「複業」が地域企業を強くする──外部人材をチームに招き入れる極意

株式会社aubeBiz  酒井晶子

 

「外部の人に仕事を頼む」というと、どんなイメージが浮かぶでしょうか。
「うちの仕事を外に出して大丈夫だろうか」
「管理が難しそう」
「一時的な助っ人でしょう」
——どこか距離感のある絵を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
しかし、私たちaubeBizが10年以上フルリモートでBPO事業を運営してきた経験から言えば、外部人材は「一時的な助っ人」ではありません。
適切な設計と関係性があれば、社員以上に深く事業にコミットし、組織に新しい風と専門性をもたらしてくれる存在になり得ると感じています。
新シリーズ【地域・越境・新キャリア編】の第1回として、「複業人材をチームに招き入れる」という発想と、その実践について考えてみたいと思います。

複業人材は、なぜ本気で動くのか

複業人材と聞くと、「本業の合間に、片手間で関わる人」というイメージを持たれるかもしれません。
あるいは「お金を払っているのだから指示通りに動いてほしい」「目を離すとサボるのではないか」という不安もあるでしょうか。
もしそのような「管理しなければ動かない」という前提で向き合ってしまうと、彼らの本質を見誤ってしまうかもしれません。
複業人材の多くは、会社から与えられた仕事をこなすのではなく、自らの実力と判断で対価を得ることを選んでいます。
報酬はもちろん目的の一つですが、それ以上に「自分のスキルをここで使いたい」「この課題に関わりたい」という自律的な動機を持った方が多い。
だからこそ、適切な設計さえあれば、管理されずとも自らの意志で深くコミットしてくれるのです。
さらに彼らは、複数の異なる現場を行き来しているからこそ視野が広く、私たちが思いもよらない異業種の知見や客観的な視点をチームに持ち込んでくれます。

第47回で「任せられる体制は設計から始まる」とお伝えしました。
ゴールと背景、期待値がきちんと言語化されて伝わっていれば、彼らは管理されずとも、自らの意志で驚くほど自走し始めます。
管理するべき対象ではなく、共に走る相手として捉え直すところから、関係性が変わっていくのではないかと考えています。

地域企業こそ、複業人材と相性がいい理由

「うちのような地方の小さな会社に、優秀な人は来てくれない」——経営者の方々から、そんな諦め混じりのため息を伺うことがよくあります。
複業人材の活用は大企業の経営戦略のように見えるかもしれませんが、私たちは地域の中小企業こそ、彼らとの組み合わせで大きく変わる可能性を秘めていると感じています。
人材不足の正体は「地方に人がいない」のではなく、これまで「届く仕組みがなかった」だけではないでしょうか。
都市部の大企業で最先端のマーケティングや経営企画に携わっている専門家が、「週に数時間だけ、思いのある地域企業のために力を使いたい」と願うケースが今、確実に増えています。
フルタイムでの転職や移住はハードルが高くても、テレワークというインフラがあれば、距離を越えて交わることができる。
地域企業にとっては、本来なら採用が難しい一線級の専門性をピンポイントで得られる機会になり、複業人材にとっては、自身の「社会への関わり方」を広げる豊かな場になります。
すべてを自社で抱え込もうとせず、必要な時に、信頼できる遠くの手と結びつく。
この軽やかな役割分担こそが、地域企業を強くするこれからの形だと信じています。

招き入れる前に整えること

とはいえ、複業人材を招き入れれば自動的にうまくいく、というわけではありません。
招き入れる前の「設計」が、その後の関係性を大きく左右します。
ここでも核になるのは、第47回で触れた「ゴール・背景・期待値の言語化」です。
社内では当たり前になっている前提や文脈は、外から来た人には見えていないことが多いものです。
普段社員に自然と伝えていることと同じ情報を、外部の人材にも同じように渡せているでしょうか。
私たちaubeBizが実践の中で特に大切にしている設計が、次の三点です。

関わり方の範囲を明確にする。
「経営企画全般をお願いします」ではなく、役割の境界線を具体化します。
ある地域企業の経営者は、複業人材を迎える初回の打ち合わせで、ホワイトボードに「やっていただきたいこと」と「お任せしないこと」を並べて書き出したそうです。
その一手間があったことで、複業人材の側も「どこまで踏み込んでいいのか」を迷わずに動けたと話していました。

成果物のイメージを具体的に共有する。
「いい感じの提案をお願いします」ではなく、「A4一枚で、現状分析と3つの選択肢が入った資料」というところまで解像度をすり合わせます。
頭の中にある完成形を、言葉にして渡す作業です。

コミュニケーションの頻度と方法を決める。
「毎週〇曜日の15時にオンラインで進捗を共有する」「連絡はチャットで行う」といったルールを作っておきます。
ここを最初に決めておくだけで、「連絡が来ないから不安になる」「急に呼び出されて困る」といったすれ違いをかなり防ぐことができると感じています。

これらは決して冷たい線引きではなく、お互いが安心して動くための「余白の設計」なのだと考えます。
「言わなくても伝わるだろう」という思い込みを手放し、丁寧に言葉にしていく。
その積み重ねが、外部人材との関係を支えてくれます。

「一緒にやりたい」と思ってもらえる組織になる

ここで一つ、発想を転換してみる必要があるかもしれません。
優秀な複業人材ほど、多くの選択肢の中から「この会社と関わりたい」と、関わる企業を自らの意志で選んでいます。
つまり、私たち企業側も「選ばれる存在」になる必要があるのです。
どれだけ高い報酬や条件を提示されても、ギスギスした雰囲気や、意見が言えない環境に人は残りません。
「意見を言っても否定されない」「試行錯誤を歓迎してくれる」という空気は、外から関わる人にとってこそ、はっきりと伝わるものです。
ここで活きてくるのが、第46回でお話しした「安心提供力」であり、第49回で描いた「〜かも」という未完成のアイデアが飛び交う場です。
心理的安全性があり、外からの新しい視点を「それ、おもしろいね」と歓迎してくれる度量のあるチームにこそ、優秀な複業人材は「もっとこの会社に貢献したい」と引き寄せられていくのではないでしょうか。

共創の先に広がる景色

複業人材を招き入れるという営みは、単なる「外注」でも「派遣」でもありません。
お互いの強みを持ち寄り、一つのゴールを目指す「共創」です。
仕事を切り出して渡すのではなく、共に考え、共に手を動かす関係を築いていく。
そのプロセスの中で、社内にはこれまでなかった発想や業界を超えた知見が自然と流れ込んでくる。
「そんな視点があったのか」「うちの業界では当たり前だと思っていたことが、外から見ると強みだったのか」という気づきが、組織の思考の幅そのものを広げてくれると、私たちは実感しています。
そして、仕事を通じて深くつながった社外の仲間が、やがてあなたの会社だけでなく、その地域そのものに対して深い愛着を持つようになっていく——そんな、単なるビジネスの関係を超えた温かい予感が、私たちの実践の先には、いつもあります。

あなたの会社に、今すぐ「一緒にやりたい」と声をかけたい人はいますか。


次回は観光以上、移住未満の「関係人口」が運ぶ、経営のヒント
複業という形で始まった関わりが、その先でどんな広がりを見せるのかを考えてみたいと思います。
仕事を通じてある地域と出会った人が、観光客のように通り過ぎるのでもなく、かといって移住を決めるわけでもない——そんな「関係人口」という立ち位置で、その土地と長く付き合い続けるケースを、私たちはいくつも見てきました。
仕事の依頼が、いつのまにか、その人にとっての「もう一つの居場所」に育っていく。
そのプロセスには、経営者にとってのヒントが詰まっているのではないでしょうか。



 

プロフィール

株式会社aubeBiz(オーブ・ビズ)
代表取締役 酒井晶子(さかい あきこ)

兵庫県出身。繊維メーカー、外資系企業、広告代理店勤務を経て、これまで3000名以上の研修企画、採用・人材育成に携わる。

2011年に全員がフルリモートで働く組織構築に携わり、様々な事情で外勤が難しい人が在宅で起業家をサポートする「在宅秘書サービス」を展開。

2022年 株式会社aubeBiz設立。サービス名称をMy Back Office®に改め、秘書業務に限らず、あらゆるバックオフィス業務や各種サポートをワンストップで提供。

著書に、電子書籍「女性を活かす組織作りの教科書」「リモートワークで人も組織も伸びる」「0から始める地方創生テレワーク」等。

【著書】

地域循環が生まれ、関係人口が育まれる ローカル・テレワーク®︎

「働きたいのに、働けない」という原体験から生まれた本書は、移住・観光に依存しない新しい地域との関わり方を提唱。テレワークを活用して人と仕事をつなぎ直す「ローカル・テレワーク」を、15年以上の実践と下関市でのモデル構築をもとに体系化。自治体・企業・地域リーダーに向けた、再現性ある地域づくりの実務書です。Amazonランキング10部門で1位を獲得。


Webサイト:株式会社aubeBiz

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