第7回
「研修を受けたのに現場で動けない」を防ぐには?新入社員研修で確かめたい5つのこと
アーティエンス株式会社 執筆
「外部の研修に出したのに、配属後の新入社員が期待するように動けていない」
「社内で毎年同じ研修を続けているが、現場で使える力がついているのか分からない」
来年度の新入社員研修を考え始める今の時期、経営者や人事の方から、こうした声をよく伺います。新入社員のために時間をかけて研修を用意しても、それが配属後の動きにつながらなければ、もったいないと感じるのは当然のことです。
実は、現場で動ける力が身につく研修とそうでない研修の差は、研修の時間の使い方や組み立て方、講師の関わり方に表れます。 見るところさえ決めておけば、その差はタイムテーブルと講師の情報からかなり見えてきます。
本コラムでは、学びに関する研究の知見も交えながら、新入社員研修で確かめたい5つの基準をお伝えします。

① 研修時間の半分以上が、ワーク・演習に充てられているか
新入社員研修を比べるときに最初に確かめたいのは、研修時間のうち、少なくとも半分以上がワーク・演習に充てられているかどうかです。
講師の話を聞くだけの研修では、受講者は「分かった」と感じても、それを自分で使える状態にはなりません。
たとえば「結論から話す」「相手の立場で考える」といった内容は、講義で聞けば誰もが納得します。ところが配属後、上司を前にすると結論から話せない新入社員は少なくありません。
「分かっていること」と「できること」のあいだには大きな差があり、その差を埋めるのが、自分で考えて手を動かすワークの時間です。 また、聞くだけの時間が長い研修は受講者を受け身にしやすく、当事者意識も育ちにくくなります。
新入社員研修のワーク・演習の割合は「5割以上」を目安、「7割以上」を理想くらいの基準として考えると良いでしょう。
講義を聞くより、自分で手を動かすほうが身につくことは、研究でも確かめられています。
大学の理系の授業を対象に、講義中心の授業と、学生が問題を解いたり話し合ったりする「能動的な学習」を取り入れた授業を比べた225の研究を分析したところ、能動的な学習では試験の成績が平均で約6%高く、講義中心の授業では単位を落とす学生の割合が約1.5倍になっていました(Freemanら、2014年、米国科学アカデミー紀要)。
大学の授業での結果ではありますが、「聞くだけの時間」を減らし「自分で取り組む時間」を増やすほど学びが身につくという方向は、新入社員研修を見極めるときの目安にもなります。
確かめるときは、次の点を見てください。
● 外部の研修なら、プログラムごとの「講義」と「ワーク・演習」の時間(分数)を出してもらえるか(資料に書かれていなければ問い合わせる)
● 社内の研修なら、今年のタイムテーブルで講義の時間が半分を超えていないか
● 「ワーク」とされている時間の中身が、個人で考える・グループで話し合う・発表する、のどれにあたるか
タイムテーブルを分数で見れば、講義とワークの割合は最初に確かめられます。
② ワークのあとに、振り返りの時間が組まれているか
新入社員研修を見極めるときに2つ目に確かめたいのは、ワーク・演習のあとに、振り返る時間が組まれているかどうかです。
どれほどワークの時間が長くても、やりっぱなしでは、学びは受講者の中に残りません。ワークの価値は、取り組んだ直後に「自分は何ができて、何ができなかったか」「現場ではどう生かすか」を言葉にするところで決まります。
実際に頭と手を動かしたあとだからこそ、「どんな場面でつまずきそうか」といった具体的な行動まで踏み込めます。そうして実感を伴って言葉にしたことは、「分かっている」を超えて、現場で再現できる力として残ります。
振り返りの効果は、研修や訓練を対象にした研究でも確かめられています。医療をはじめとするさまざまな分野の研修や訓練について、31の研究(46のグループ、のべ2,136人)をまとめて分析したところ、取り組みのあとに振り返りを行ったグループは、行わなかったグループより成果が平均で約25%高くなっていました(TannenbaumとCerasoli、2013年、Human Factors)。
同じ分析では、進行役がついて振り返りを進めた場合のほうが、効果が大きい傾向も報告されています。
ワークのあとに振り返りの時間をとり、講師がその振り返りを導くことで、同じワークからでも学びの残り方は大きく変わるのです。
振り返りは、一人ひとり・グループ・全体の3つの単位で行われているかを見てください。
とくに、全体へのまとめだけで終わり、個人には改善点が伝えられない研修では、受講者は自分の課題に気づかないまま現場に出ることになります。
アーティエンスでも、講師が一人ひとりにフィードバックし、「上司ならこう受け取る」「お客様ならこう感じる」といった現場の視点を添えて、明日からの具体的な行動まで示すことを大切にしています。
確かめるときは、次の点を見てください。
● ワークの直後に、振り返りやフィードバックの時間がとられているか
● 全体へのまとめだけでなく、一人ひとりに改善点が伝えられるか(公開講座のように受講者が多い場合は、どう伝えるのか)
● 振り返りで、配属後の具体的な行動まで考える時間があるか
ワークと振り返りはセットで一つと考え、振り返りの時間と方法が具体的に組まれているかを確かめましょう。
③ 正解が一つに決まっていないワークがあるか
新入社員研修を見極めるときに3つ目に確かめたいのは、模範解答を当てるだけのワークではなく、立場や条件によって答えが変わる「正解が一つに決まっていないワーク」があるかどうかです。
実際の仕事には、決まった正解がないことのほうが多いものです。用意された答えをなぞるだけのワークでは、答えのない場面で自分で考えて動く力は育ちません。
受講者が自分で考え、他の人と意見を交わしながら答えをつくる過程を経験してはじめて、現場で通用する考える力が身につきます。
答えが一つに決まっていない、現実に近い問題に取り組んで学ぶ方法は、教育の分野で「問題解決型学習(PBL)」と呼ばれ、その効果が研究されてきました。
大学などの実際の授業を対象にした43の研究をまとめた分析では、こうした問題に取り組んで学んだ学生は、講義を中心に学んだ学生に比べて、知識を使って問題を解決する力がはっきりと高まっていました(Dochyら、2003年、Learning and Instruction)。
一方で、覚えた知識の量は講義で学んだほうがやや多い傾向もありましたが、時間がたってから覚えている量は、問題に取り組んで学んだ学生のほうが多くなっていました。
知識を覚えるだけなら、講義や模範解答のあるワークでも足ります。けれども、仕事で求められるのは、知識を使って答えのない場面で動く力です。 その力を育てるには、数時間かけて1つの課題に取り組み、グループごとに違う答えができあがるようなワークが向いています。
確かめるときは、次の点を見てください。
● 5〜10分で答え合わせをするワークだけでなく、数時間かけて1つの課題をやり遂げるワークがあるか
● ワークに「模範解答」が用意されているか、それともグループごとに答えが変わるか
● 最初から枠組みを渡して埋めさせる形か、まず自分たちで考えさせる工夫があるか
ワークの「時間の長さ」と「答えの決まり方」を見れば、考える力が育つワークかどうかが見えてきます。
④ 「まずやってみる、あとで解説する」の順になっているか
新入社員研修を見極めるときに4つ目に確かめたいのは、最初に正解を教えるのではなく、まず受講者が取り組み、そのあとで解説する順番で研修が組まれているかどうかです。
研修の冒頭で正しい手順や答えを先に教えてしまうと、その後のワークは「習ったとおりにこなす作業」になり、当事者意識が生まれにくくなります。先に自分で考え抜き、壁にぶつかってから解説を聞くと、解説は「答え合わせ」になり、知識が深い納得とともに残ります。
この順番の効果は、「生産的失敗(Productive Failure)」という研究で確かめられています。
スイス連邦工科大学チューリッヒ校の研究者が、数学や理科を学ぶ子どもから大学院生まで(中心は中高生)を対象にした53の研究(166の比較、1万2,000人以上)をまとめて分析したところ、先に問題に取り組んでから解説を受けた学習者は、先に解説を受けてから問題を解いた学習者より、考え方の理解や、学んだことを別の問題に応用する力が高くなっていました(SinhaとKapur、2021年、Review of Educational Research)。
一度うまくいかない経験をしてから解説を聞くと、「何が分かっていなかったのか」に気づいた状態で学べるためです。
ただし、取り組む人にある程度の前提知識があること、課題が難しすぎないことが条件とされており、前提知識の少ない小学校低学年では、先に解説するほうが効果的という結果も出ています。
この順番が組まれているかは、受講者の感想にも表れます。感想が「よく理解できた」で止まっているか、「現場でこう動いてみたい」という言葉が多いかを見てみてください。
確かめるときは、次の点を見てください。
● 各プログラムが「講義→ワーク」と「ワーク→解説」のどちらの順で組まれているか
● 受講者が自分で考える時間が、どのくらい確保されているか
● 受講者の感想が「理解できた」で止まっていないか(外部の研修なら、過去の受講者の感想を見せてもらう)
講義から入る研修か、考えることから入る研修かは、プログラムの順番と受講者の感想で見分けられます。
⑤ 講師に、ワークを指導できる経験があるか
新入社員研修を見極めるときに最後に確かめたいのは、研修を担当する講師に、ワークを適切に指導できる経験があるかどうかです。
①〜④のような研修は、講師がスライドを進めるだけでは成り立ちません。受講者の答えに対して、その場で現場の目線から問い返したり、改善点を伝えたりできる講師でなければ、ワークは「やっただけ」で終わってしまいます。研修テーマに関する実務の経験と、若手を育てた経験やマネジメントの経験がある講師ほど、受講者の考えを一段深めるフィードバックができます。 経験の豊富な講師の話を聞くと、受講者も「こういう方法もあるのではないか」と自分から考えるようになるためです。
フィードバックが学びに与える影響の大きさは、教育研究でもくり返し示されています。
フィードバックに関する12のメタ分析(196の研究)をまとめた論文では、フィードバックは学びの成果を高める要因の中でも効果の大きいものの一つとされています(HattieとTimperley、2007年、Review of Educational Research)。
一方で同じ論文は、ほめるだけのフィードバックでは効果が小さく、「何ができていて、次に何をすればよいか」が伝わるフィードバックほど効果が大きいことも示しています。ワークの価値を決めるのは、講師がその場で返す一言の中身なのです。
これは、社内の先輩や上司が講師を務める場合も同じです。
確かめるときは、次の点を見てください。
● 講師に、研修テーマの実務経験や、若手育成・マネジメントの経験があるか(外部の研修なら、講師の経歴が事前に分かるか)
● ワークの最中に、一人ひとりへ「何ができていて、次に何をすればよいか」まで返しているか
● 外部の研修なら、事前に見学できるか。社内の研修なら、講師役の社員とフィードバックの仕方を事前にすり合わせているか
見学ができる場合は、講師がワーク中の受講者にどのように声をかけ、どのようにフィードバックしているかを見てください。①〜④が資料やタイムテーブルのとおりに行われているかも、その場で確かめられます。
講師の経験と、ワーク中のフィードバックの中身を確かめれば、ワークを「指導できる」講師かどうかが見えてきます。
新入社員研修を見極める5つのチェックリスト
5つの基準を、目指したい形と、見直したいサインに分けてまとめます。外部の研修を比べるときにも、社内の研修を振り返るときにもお使いください。
5つを一度に確かめる必要はありません。まずは、外部の研修なら「講義とワークの時間が分かるタイムテーブル」と「講師の経歴」を、社内の研修なら今年のタイムテーブルを手元に用意するところから始めてみてください。
講義とワークの時間を分数で書き出すだけでも、研修の姿はずいぶん見えてきます。
新入社員研修の組み立てに迷ったら、アーティエンスにご相談ください
「外部の研修を比べたいが、自社だけでは判断がつかない」
「社内で研修を組んでいるが、今のやり方でよいのか分からない」
そんな方は、ぜひ一度アーティエンスにご相談ください。
外部の研修選びだけでなく、社内研修のタイムテーブルの見直しや、講師役を務める社員の準備についても、本コラムの5つの基準に沿って一緒に考えます。
来年度の研修を考え始めた段階からでも、お気軽にお声がけください。
なお、アーティエンスの2027年度の新入社員研修(公開講座)では、5つの基準を次のような形で取り入れています。
① 研修時間のおよそ4分の3(約74.5%)を、ワーク・演習に充てています。
② 受講者はその日の学びや気づき、現場での生かし方を書き出して振り返り、その内容は人事の方にもご覧いただけるようにしています。
③ ワークの課題にはあえて余白を残し、ただ一つの正解を設けていません。上司役の講師とやりとりしながら、目的に合ったアウトプットをつくります。
④ どの研修も、講義からではなく同期との対話から始めています。
⑤ テーマごとに専門の講師が担当し、シミュレーション演習では上司役としてフィードバックを返しています。
新入社員が1名の会社からもお申し込みいただけて、受講日は1日単位で選べます。すべての講座で見学を受け付けていますので、5つの基準をご自身の目で確かめてからお選びください。
開催日程や講師のプロフィール、各研修の内容は、アーティエンスの資料「27年度新入社員研修(公開講座)サービス資料」でご覧いただけます。

参考にした研究
・Freeman, S., Eddy, S. L., McDonough, M., Smith, M. K., Okoroafor, N., Jordt, H., & Wenderoth, M. P.(2014). Active learning increases student performance in science, engineering, and mathematics. Proceedings of the National Academy of Sciences, 111(23), 8410–8415.
・Tannenbaum, S. I., & Cerasoli, C. P.(2013). Do team and individual debriefs enhance performance? A meta-analysis. Human Factors, 55(1), 231–245.
・Dochy, F., Segers, M., Van den Bossche, P., & Gijbels, D.(2003). Effects of problem-based learning: A meta-analysis. Learning and Instruction, 13(5), 533–568.
・Sinha, T., & Kapur, M.(2021). When problem solving followed by instruction works: Evidence for productive failure. Review of Educational Research, 91(5), 761–798.
・Hattie, J., & Timperley, H.(2007). The power of feedback. Review of Educational Research, 77(1), 81–112.
執筆者

近藤 ゆみ(コンドウ ユミ)
アーティエンス(株) 研修事業部門責任者。自身も講師・コンサルタントとして従事。前職の大手人材紹介会社では、転職希望者のキャリアカウンセリングから転職サポートまでを一貫して担当。 専門分野は、新入社員・若手社員、採用・育成
X:@kondo_atc
プロフィール

アーティエンス株式会社は、2010年9月の設立から16年にわたり、新入社員から管理職・経営者まで各階層を対象とした研修・組織開発コンサルティングを提供しています。導入企業数は600社以上にのぼり、大手企業から成長期のベンチャー企業・中小企業までサービスを提供してきた実績があります。同社の特徴は、研修を「実施して終わり」にしない伴走型のスタイルにあります。企画段階からお客様と共に考え抜き、当事者意識・主体性・自律の醸成やリーダーシップ開発といった各社固有の課題に合わせて内容を設計します。さらに研修と現場を繋げるサポートもしており、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポートしている点も特徴です。
⚫︎youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
⚫︎ホワイトペーパー:組織開発・研修に関するお役立ち資料
Webサイト:アーティエンス株式会社
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