第5回
部下の目標が「数字だけ」になるのはなぜ?良い目標の例と下期の目標設定の進め方
アーティエンス株式会社 執筆
「下期の目標面談をしたのに、部下の目標シートには『売上◯◯万円』としか書かれていない」
「目標は決めたはずなのに、期末になるまで誰もシートを見返さない」
下期の目標設定の時期を迎え、こうした状況に心当たりのある経営者・人事の方も多いのではないでしょうか。
管理職の多くは、自らも現場で成果を出すプレイングマネージャーです。忙しいなかで部下一人ひとりと丁寧に目標をつくる時間は取りにくく、会社の数字を人数で割って渡すのが、いちばん早い方法に見えてしまうのも無理はありません。
しかし実は、部下の目標が数字だけになるのは、部下や管理職のやる気の問題ではなく、目標の「つくり方」と「渡し方」に原因があります。「なぜその数字なのか」と「どうやって達成するのか」が抜けたまま渡された目標は、ただのノルマとして受け止められ、行動につながりません。
裏を返せば、目標を「何のために・何を・どうやって」の3点セットで整え、面談の前・面談中・面談の後の3つの場面を少し変えるだけで、部下は自分の目標として動き始めます。
本コラムでは、部下の目標が数字だけになってしまう3つの原因と、悪い目標・良い目標の具体例、そして下期の目標設定ですぐに使える進め方をお伝えします。
部下の目標が「数字だけ」になる3つの原因
部下の目標が数字だけになる原因は、目標が「なぜ」と「どうやって」を欠いたまま、上から順に渡されていることにあります。主な原因を3つに整理してお伝えします。
① 会社の方針が、管理職自身の言葉になっていない
管理職が方針を自分の言葉で説明できないと、部下に伝えられるのは数字だけになります。
たとえば社長や役員から示された方針を、管理職が「要するに、うちの課では何をすればいいのか」まで噛み砕けていないケースです。この状態では、部下に「なぜこの数字なのか」を聞かれても答えられないため、結果として「今期はこの数字でお願いします」と伝えるほかなくなります。
② 数字の「背景」が伝わっていない
数字だけを伝えると、部下はその数字に納得する手がかりを持てません。
たとえば「今期の目標は1,500万円だから、よろしく」と伝えたとします。部下から見ると、その1,500万円が会社やチームの目標とどうつながっているのか、なぜ自分がその金額なのかがわかりません。わからないまま受け取った数字は、「自分で決めた目標」ではなく「割り当てられたノルマ」になってしまいます。
③ 達成までの「行動」が決まっていない
「どうやって達成するか」が決まっていない目標は、日々の行動に落とし込めません。
金額や件数だけが書かれた目標では、部下は「明日から何をすればいいのか」がわかりません。行動の計画がないため、途中で進み具合を確かめることも、やり方を修正することもできず、期末に「届かなかった」とわかるだけになります。冒頭の「期末までシートを誰も見返さない」状態は、この原因から生まれています。
3つの原因を振り返ると、①と②は目標の「渡し方」、③は目標の「つくり方」の問題です。どれも部下や管理職の能力のせいではないため、やり方を変えれば解決できます。
次の章ではまず「つくり方」について、悪い目標と良い目標の例を見ていきます。「渡し方」は、その後の章で、面談の前・面談・面談の後の3つの場面に分けてお伝えします。
なお、会社の方針を現場の行動まで落とし込む進め方は、アーティエンスのコラム<「制度を変えても現場が動かない」を解消。人事主導の組織改革で押さえるべきポイント>でもご紹介しています。
悪い目標と良い目標の例|3つの見直しポイント
良い目標とは、「何を」「いつまでに・どこまで」「どうやって」の3つがそろっている目標です。
ここでは、よく見かける悪い目標の3つのパターンを、良い目標の例と並べてご紹介します。部下の目標シートを手元に置いて、当てはまるものがないか確かめてみてください。
① 達成の手段が書かれていない
金額だけでなく、それを達成するための具体的な行動まで書きましょう。
悪い例では、部下は「何から手をつければいいのか」がわかりません。良い例のように行動まで書かれていれば、何をすればいいかが明確になり、途中で「提案は何件進んだか」を確かめて、やり方を見直すこともできます。
② 目的や効果が書かれていない
「何のためにやるのか」と「やった結果どうなればいいのか」をセットで書きましょう。
悪い例では、システムを入れること自体がゴールになり、入れたあとに本当に仕事が楽になったのかを誰も確かめません。良い例のように効果まで書いておけば、「何をもって成功とするか」がはっきりし、導入の進め方の優先順位も決めやすくなります。数字にしにくい場合は、「実現したい状態」を言葉で書くだけでも構いません。
③ 行動や達成の基準があいまい
「できるようになる」「頑張る」ではなく、どの行動をどこまでできれば達成なのかを書きましょう。
悪い例は、何ができれば合格なのかが本人にも上司にもわからず、期末の評価でも話がかみ合いません。良い例のように行動と基準を具体的にすれば、本人も上司も同じものさしで振り返ることができます。
悪い例に共通するのは、「数字や言葉だけが先にあり、その数字や言葉にたどり着くまでの道筋が書かれていない」ことです。目標シートを見直すときは、「何を」「いつまでに・どこまで」「どうやって」の3つがそろっているかを確かめましょう。
下期の目標設定は「面談の前・面談・面談の後」の3つの場面で整える
数字だけの目標から抜け出すには、面談の場だけでなく、その前後も含めた3つの場面を整えることが大切です。面談だけを工夫しても、準備が足りなければ結局は数字を伝えるだけになり、決めたあとに放っておけば目標は期末まで見返されないためです。ここでは、面談の前・面談・面談の後の順に、管理職がやることをお伝えします。
面談の前に、管理職が準備しておく3つのこと
目標設定の質は、面談の場よりも、その前の準備で決まります。面談の時間だけで方針の説明から目標づくりまで終わらせようとすると、結局は数字を伝えるだけになってしまうためです。
① 管理職が、会社の方針を自分の言葉で説明できるようにしておく
まずは管理職自身が、会社の方針を「自分の課では何をするのか」まで説明できる状態をつくりましょう。
おすすめは、目標設定の1〜2か月前に、方針をすり合わせる時間を取ることです。新しく会議を設けなくても、週次や月次の定例会議の時間を「今回は方針をすり合わせる回にする」と決めれば十分です。
具体的には、次の順番で進めます。
・社長・役員と管理職で:方針を説明して終わりにせず、管理職がわからない点をその場で確かめ、「自分の言葉で部下に説明できるか」を確認する
・管理職と部下で:方針を伝えたうえで、部下からの質問に答え、「この方針を実現するために、現場でどんなことができそうか」を話し合う
中小企業であれば、社長と管理職、管理職と部下の2段階で十分なことが多いでしょう。人数が少なければ、全員で一度に行っても構いません。すり合わせのあとに「何をすればいいか明確になった」「優先順位がはっきりした」という声が出れば、うまくいっている合図です。
② チームの「ありたい姿」を話し合っておく
方針をすり合わせたら、数字を割り振る前に、「自分たちのチームがどんな状態になっていたいか」を話し合いましょう。会社の方針だけを部下に渡すと、目標は「上から降りてきたもの」になり、部下が「何のために」を自分の言葉で書けないためです。
話し合いは、次の2つの問いに答える形で進めると具体的になります。
・今、チームはどんな状態か(例:既存のお客様からの注文で売上の大半を占めている)
・1年後、チームはどんな状態になっていたいか(例:新しい業界のお客様からも、安定して注文をもらえている)
この2つを並べると、その差を埋めるために何をすべきか、つまり目標が見えてきます。上の例であれば、「新しい業界のお客様への提案を始める」ことが、チームの取り組むべきことになります。
問いに答えにくいときは、「お客様の変化」「仕事の進め方の変化」「求められる人材の変化」の3つの面から考えてみてください。
ありたい姿は一度決めて終わりではなく、メンバーや状況が変わったら、半年〜1年に1回は話し合い直しましょう。
③ 部下に、目標を考えるための材料を先に渡しておく
面談の前に、部下が自分で目標を考えるための材料を伝えておきましょう。材料がないまま「目標を考えてきて」と頼んでも、部下は前年と同じ数字を書くしかないためです。
具体的には、次の3点を伝えておきます。
・前提:市場の状況、会社とチームの方針と目標。可能な範囲で、会社の業績の状況も伝える
・考える観点:会社やチームの方向とつながっているか/本人の成長につながるか/少し背伸びが必要な水準か
・書き方:「何を」「いつまでに・どこまで」「どうやって」の3つを書く
伝え方は相手に合わせて変えましょう。経験の長い社員には観点を簡潔に伝えるだけで足りることが多い一方、若手や入社して間もない中途社員には、背景から丁寧に説明しないと認識がずれやすくなります。
また、数字の伝え方も変わります。「今期の目標は1,500万円だから、よろしく」ではなく、「今期、会社全体では◯億円が必要で、うちのチームの目標は3,500万円。そのなかでAさんには、昨年の実績もふまえて1,500万円をお願いしたい。どうやって達成するかは一緒に考えよう」と伝えるだけで、同じ数字でも、部下にとっての意味がまったく違ってきます。
目標設定面談は「聴く→伝える→決める」で進める
面談では、管理職が目標を伝えるのではなく、部下が考えてきた目標を聴くところから始めましょう。部下自身が考え、納得して決めた目標でなければ、自分から動き出すことは難しいためです。
具体的には、次の3つの順番で進めます。
1、聴く:部下が考えてきた目標を、「なぜその目標にしたのか」という背景や思いも含めて、最後まで聴く
2、伝える:足りない観点があれば、どこをどう直せばよいかを具体的に伝え、部下の理解を確かめる
3、決める:最終的な目標を一緒に決め、「困ったらいつでも相談してほしい」と支援する意思を伝える
決めるときには、目標を次の3つのセットで整えると、数字だけの目標から抜け出せます。

成果(数字)だけでは「なぜやるのか」が伝わらず、意義と成果だけでは「どう動くか」が人によってばらばらになります。3つをセットにすることで、部下は迷わず動けるようになります。
あわせて意識したいのが、部下の納得感です。部下の納得感は、目標の中身だけでなく、目標が決まるまでの進め方が公正だと感じられるかどうかに大きく左右されます。
管理職の立場でできることとして、次の3つを押さえましょう。
・目標設定の進め方とスケジュールを、事前に部下と共有する
・方針や数字の背景・理由を、きちんと説明する
・面談で部下の意見を聞き、反映できるところは反映する
面談後、2週間〜1か月に1回、短く確かめる
目標は、決めたあとに任せきりにせず、定期的に短く確かめる場をつくることで、はじめて行動につながります。動き始めると想定外の問題が起きたり、状況が変わったりするため、途中で軌道修正できなければ目標は形だけのものになってしまいます。
確かめる頻度は、2週間〜1か月に1回が目安です。長い面談でなくても構いません。
次のような問いで、短く確かめましょう。
・目標達成の見通しは順調か
・計画どおりに行動できているか
・うまくいっていないこと、やり方を変えたほうがよいことはないか
このとき、管理職が一方的に確認するのではなく、部下のほうから進み具合を報告する形にしていくことがポイントです。上司に確認されるだけの場では、部下は「管理されている」と感じやすくなるためです。
経験の浅い部下には頻度を上げ、慣れてきたら任せる範囲を広げるなど、相手に合わせて調整しましょう。
チームの定例会議で、お互いの目標と進み具合を共有する時間を少し取るのも効果的です。困っていることを共有すれば、役に立つ情報が周りから集まり、チームで協力しやすい雰囲気が生まれます。行動や成果が出たときには、その場できちんと認めることも忘れないようにしましょう。
期末には、目標の結果だけでなく、目標設定の進め方そのものも振り返り、気づいたことをメモに残しておきます。
目標設定は年に1〜2回しかないことが多く、前回の反省を忘れやすいためです。次の目標設定のときにメモを見返すだけで、管理職の目標設定は回を重ねるごとに上達していきます。
今日からできる、最初の一歩
下期の目標設定を変える最初の一歩は、管理職自身の目標を「意義・成果・行動」の3点セットで書き直してみることです。
管理職の目標は、そのまま部下の目標のもとになります。管理職の目標が数字だけであれば、部下の目標も数字だけになります。まずは管理職に、自分の目標に「何のために」「どうやって」が書かれているかを確かめてもらいましょう。
経営者・人事の方は、あわせて次の2点を確かめてみてください。
・会社の目標シートに、「何のために」と「どうやって」を書く欄があるか
・下期の方針を、社長と管理職ですり合わせる時間が取れているか
この2つが整っていれば、管理職が部下と目標をつくるときの土台ができます。
面談の準備から振り返りまでの流れを手元で確かめたい方は、アーティエンスの資料<管理職向け目標設定の5つのステップ>もご活用ください。

部下が自分で動き出す目標づくりは、アーティエンスにご相談ください
「目標設定の見直しが必要なのはわかったが、自社の場合はどこから手をつければいいかわからない」
「管理職によって目標設定のやり方がばらばらで、そろえる方法を一緒に考えてほしい」
そんな方は、ぜひ一度アーティエンスにご相談ください。
私たちアーティエンスは、研修サービスと組織開発コンサルティングを通して、管理職の目標設定やマネジメントの力を高める支援を行っています。各社の方針や組織の状況を伺いながら、方針のすり合わせから目標設定、期中のフォローまで、現場で続けられる進め方を一緒に考えます。
執筆者

菊地 大翼
組織人事コンサルタント。業界歴15年以上。研修会社で法人営業・新規商品の開発に携わったのち、現在は人事制度の構築支援や、成人発達理論に基づく人材・組織開発のコンサルティングを行っている。専門はパフォーマンス・マネジメント、成人発達理論を活用した人材開発・組織開発。
この連載の前後の記事
プロフィール

アーティエンス株式会社は、2010年9月の設立から16年にわたり、新入社員から管理職・経営者まで各階層を対象とした研修・組織開発コンサルティングを提供しています。導入企業数は600社以上にのぼり、大手企業から成長期のベンチャー企業・中小企業までサービスを提供してきた実績があります。同社の特徴は、研修を「実施して終わり」にしない伴走型のスタイルにあります。企画段階からお客様と共に考え抜き、当事者意識・主体性・自律の醸成やリーダーシップ開発といった各社固有の課題に合わせて内容を設計します。さらに研修と現場を繋げるサポートもしており、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポートしている点も特徴です。
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Webサイト:アーティエンス株式会社
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