現場の変化につながる、組織改革・人材育成

第8回

パワハラ対策を管理職任せにしない。中小企業が組織が支援すべき3つのこと

アーティエンス株式会社  執筆

 

管理職のパワハラへの意識が低く、何度伝えても対策をしてくれない…」
「パワハラの問題が起きているようだが、管理職から何の相談もなく対応できない…」

2026年10月からはカスタマーハラスメントへの対策も事業主の義務となり〔改正労働施策総合推進法〕、対策を見直す会社も多いのではないでしょうか。
Job総研の「2023年 ハラスメント実態調査」では、ハラスメント経験者の81.5%がパワハラを経験し、53.6%が「退職した・退職を考えた」と回答しています。

社員がパワハラに直接巻き込まれていなくても、“そういう職場だ”と見限って去っていく人も少なくありません。エンゲージメントや信頼が失われ、組織力がじわじわと低下していくことがパワハラの本当の怖さです。

実は、管理職が動かないのは意識が低いからだけではありません。自分ごとと捉えるきっかけ、判断の基準となる知識、迷ったときに動ける技術、それを支える会社の体制がそろっていないことが多いです。

本コラムでは、管理職がパワハラ対策に本気で動き出すために、組織が支援すべき3つのことをご紹介します。


① 管理職がパワハラ対策の意識を変える場をつくる

管理職に本気で取り組んでもらうためには、「必要性」と「重要性」の2つの観点で意識を変えることが鍵となります。
2つが腑に落ちると、他の業務と比べてもパワハラ対策の優先順位が自然と上がり、主体的な行動につながっていきます。

そのため組織としては、研修や日常の対話のなかで、管理職がパワハラ対策の「必要性」と「重要性」を考える場をつくっていきましょう。

必要性の促し方|パワハラを"マネジメントの問題"として捉える

管理職がパワハラの原因を「加害者の性格」や「被害者の態度」に求めるのではなく、「そのような行動が許される職場環境=マネジメントの設計」と認識する必要があります。

たとえば、中堅社員のAさんは、部下のBさんには大声で怒鳴る一方、上司には低姿勢で接しています。これは「相手を選んで攻撃している」ということで、攻撃しても問題にならない空気が職場にある証拠です。「Aさんの性格がきついから仕方ない」「Bさんにも問題があるのでは?」と捉えては、再発防止につながりません。

パワハラが生まれる背景には、そうした行動を黙認する組織風土や、誰も注意しない職場の空気といった、マネジメントの問題があります。
そのことに管理職自身が気づくために、研修や対話のなかで、次のように問いかけてみてください。

「なぜAさんはBさんには怒鳴って、上司には怒鳴らないのでしょうか?」
「このような行動を"黙認してしまう"空気が、職場にあるとしたら?」
「今の職場環境は、部下を守れる設計になっていると言えますか?」

こうした問いかけにより、"パワハラは構造的な問題であり、管理職として改善に関わる責任がある"という意識が芽生えていきます。

重要性の促し方|放置すれば深刻なダメージになると理解する

管理職がパワハラ対策に本気になるには、「対処を怠れば重大な損失が生まれる」という危機意識を持つことが不可欠です。

たとえば、パワハラには次のような法的責任が伴います。

● 民事上の責任:行為者だけでなく、管理職・会社・役員も損害賠償責任を問われる可能性がある
● 刑事罰:名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、暴行罪、傷害罪など
● 懲戒処分:パワハラを「見て見ぬふり」していた管理職や役員も、処分の対象になりうる

さらに、厚生労働省の実態調査報告書(平成28年度)は、会社への影響に人材の流出・モラールの低下・企業イメージの悪化・訴訟による賠償を、社員への影響に職場の雰囲気の悪化・休職・能力を発揮できなくなることを挙げています。

こうしたリスクを管理職自身が実感するために、事例をもとに管理職同士で対話する場を設けてみてください。
たとえば、次のような事例です。

部下に日常的に強い言葉で叱責していた管理職を、周囲も"あの人はそういう人だから"と放置した結果、部下がメンタル不調で休職。会社は損害賠償を負い、止めなかった直属の上司も懲戒処分を受けた。

この事例について、次のように問いかけます。

「この職場に自分がいたら、どう対応していたか?」
「注意しにくい空気があったとしたら、それをどう乗り越えるか?」
「自分のチームで同じことが起きたら、どう責任を取ることになるか?」

こうした問いかけにより、管理職は"自分の現場にも起こりうること"としてリアルに想像でき、重要性が腑に落ちていきます。
他の管理職の視点に触れることで、気づいていなかったリスクや盲点に気づけるのも大きなメリットです。

② 管理職がパワハラの知識を深める場をつくる

パワハラを防ぐためには、管理職が「明らかなハラスメント」だけでなく、判断が難しい"グレーゾーン"にも対応できる実践的な知識を持っていることが重要です。 判断の基準となる知識がなければ、管理職は対応を誤り、被害の拡大や組織の信頼低下、法的リスクを招いてしまうためです。

組織としては、研修などを通じて、管理職全員が同じ基準を持てる場をつくっていきましょう。

明らかなNGに関する知識|パワハラの定義と6つの典型例

パワハラ対策を効果的に進めるには、まず管理職全員が「パワハラの定義」と「6つの典型的な行為」を正しく理解し、共通認識を持つことが不可欠です。

職場のパワーハラスメントは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されること、の3つをすべて満たすものとされています。(厚生労働省の「パワーハラスメント対策導入マニュアル(令和3年度版)」から抜粋)
事業主には相談体制の整備などの措置が義務付けられており、中小企業も2022年4月から義務の対象です。

特に重要なのは、「業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか」という判断軸です。パワハラに該当するか否かは、この基準を満たしているかどうかで決まります。よく「相手がハラスメントだと感じたら、それはハラスメントだ」という声を聞きますが、これは正確ではありません。

典型的なパワハラとしては、①暴行・傷害、②精神的な攻撃(人格を否定する発言など)、③人間関係からの切り離し(別室への隔離など)、④過大な要求、⑤過小な要求(退職させるために誰でもできる業務を行わせるなど)、⑥個の侵害(継続的な監視など)の6つが示されています。(厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会 報告書」から6分類の定義と具体例を抜粋)

これらに該当する行動は、パワハラと認定される可能性が非常に高いため、すぐに止める必要があります。

ただし、6分類がすべてのパワハラを網羅しているわけではありません。当てはまらない場合は、状況や継続性などの事実関係を丁寧に確認し、厚生労働省「あかるい職場応援団」の裁判例なども参考に、慎重な判断が必要です。

こうした基本的な知識を全管理職の共通認識にするために、研修などの機会を通じて、わかりやすく丁寧に伝える場を設けることが効果的です。

判断が分かれる"グレーゾーン"に関する知識|価値観のズレから生まれる

管理職がパワハラ防止に適切に対応するためには、明らかなパワハラだけでなく、判断が難しい「グレーゾーン」の存在を理解しておくことが重要です。グレーゾーンは見逃され、放置されがちですが、そこで生まれる小さな不満や違和感が、やがて大きなトラブルにつながるためです。

筆者は、3要素のうち「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」と言えるかどうかが微妙なものを、グレーゾーンと理解しています。たとえば、次の2つの事例を比べてみましょう。

⚫︎主任が、報告を怠った若手社員を1時間にわたり大声で怒鳴り、それが繰り返されている → パワハラに該当する可能性が高い
⚫︎主任が、営業成績が下がった若手社員に、指導の強化として1日3回の報告を求めている → 判断が分かれるグレーゾーン

グレーゾーンの多くは、「業務上必要かつ相当な範囲」に対する価値観の違いから生まれます。たとえば、「食事の場で話した方が本音を聞ける」と考える上司と、「業務外の時間に誘われるのは不快」と感じる部下のような違いです。

グレーゾーンは処罰の対象になるとは限りませんが、大切なのは「被害を感じている人」がいるという事実です。 放置すれば本人のモチベーションが下がり、周囲にも不信感が広がります。

そこで、管理職が個人の基準と職場としての基準の違いに気づくために、研修で白黒つけづらい場面を管理職同士で話し合うワークを取り入れてみてください。
たとえば、「1on1の時間に、プライベートな話題にはどこまで踏み込んでよいのか?」「飲み会に誘うとき、どのような言い方なら負担に感じさせないか?」といった場面です。

こうしたワークにより、管理職はグレーゾーンの判断と対応にも自信を持てるようになります。

パワハラの定義や対応をもっと詳しく知りたい方は、アーティエンスのコラム「パワハラを知る。パワハラの定義・防止方法・見かけた時の対策まで解説」もあわせてご覧ください。

③ 管理職がパワハラ対応の技術を高める場をつくる

パワハラ対策を組織として機能させるためには、管理職に「組織を頼る」「公平に両者の言い分を聞く」「自分をコントロールする」の3つのスキルを身につけてもらう必要があります。
 いくら意識や知識があっても、それを現場で"実行"できるスキルがなければ、成果にはつながらないためです。これらはどれも、適切な機会やトレーニングによって誰でも磨くことができるスキルです。

組織としては、管理職が実践的に学べる場をつくるとともに、管理職が頼れる相談の仕組みを整えていきましょう。

組織を頼る技術

管理職は、「問題が起きたら"組織"として対応する」ことを前提に行動する必要があります。パワハラは一部署や個人だけの問題ではなく組織全体の問題であり、会社も責任を問われるためです。
しかし、管理職は相談をためらってしまうことも多いです。その心理としては次のようなものがあります。

⚫︎「できない管理職」だと思われたくない
⚫︎告発者の言い分が大げさに感じられる
⚫︎行為者が処分されると、組織として不都合になるのではと心配になる

こうした迷いが、問題を放置する原因になります。 だからこそ、どのような問題も自分で判断せず、相談することが重要です。

具体的には、管理職が迷わず相談できるように、会社として次の2つに取り組んでみてください。

1. 相談のきっかけをつくる
「小さな兆候でも、迷うケースでも、自分だけで判断せずにまず相談してほしい」というメッセージを、管理職研修で伝えたり、マニュアルに記載したりして、明確に伝えます。たとえば、次のような呼びかけです。
「少しでもパワハラの可能性のある行動を発見した場合、すぐにハラスメント相談室にご連絡ください。必ず一緒に解決に向かえるよう対策を考えていきます。」
専用の相談室が無い会社では、「ハラスメント相談室」の部分を、人事・総務の担当者や外部の相談窓口など、実際の連絡先に置き換えて伝えてください。

2. 相談に丁寧に応える
実際に相談があったときは、相談したことが管理職にとってポジティブな体験として残るように、相談しやすい環境で、たとえば次のような言葉をかけます。
「相談ありがとうございます。どんなに小さく思えることでも、相談してくれることが大事です。ぜひ一緒に考えたいので、具体的な状況を教えてください」
こうした呼びかけと対応により、管理職は「相談してよかった」と実感でき、一人で抱え込まずに組織を頼れるようになります。 

組織を頼ることで、パワハラを会社の問題として扱えるようになり、管理職自身を守ることにもつながります。

公平に両者の言い分を聞く技術

管理職には、行為者と被害者の双方の価値観を尊重しながら、丁寧に話を聞く力が求められます。パワハラの多くは、「行為者と被害者の認識のズレ」から起きるためです。
たとえば、行為者は「指導のつもりだった」と言い、被害者は「精神的に追い込まれた」と訴える、といった食い違いです。

ポイントは、「価値観を否定せず、行動を客観的に評価する」ことです。
具体的には、行為者には「なぜその行動をとったのか」、被害者には「なぜそれをパワハラと感じたのか」を聴きます。

こうした聴き方により、どちらの声も軽視しない姿勢が伝わり、信頼関係の構築と公正な判断につながります。なお、ヒアリングの手順は社内のマニュアルに沿い、無い場合は顧問の社労士・弁護士に相談して整備しましょう。

自分をコントロールする技術(アンコンシャス・バイアス)

管理職自身が、自分の考え方のクセ(アンコンシャス・バイアス)を理解しておくことが重要です。組織を頼ることも、公平に話を聞くことも、頭では理解できていても、実際にその通りに行動するのは簡単ではありません。その原因のひとつが、本人も気づいていない考え方のクセだからです。

バイアスは誰もが持っている自然な反応であり、悪いことではありません。たとえば、次のようなものがあります。

⚫︎正常性バイアス:都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりする
⚫︎集団同調性バイアス:周囲に合わせてしまう
⚫︎確証バイアス:自分の考えを支持する情報ばかりを集める

管理職がこうしたバイアスに気づけるようになるために、日々の判断のなかで「これは事実に基づいて判断しているか?」「自分の価値観や過去の経験に引っ張られていないか?」と問い直す習慣を持ってもらいましょう。異なる価値観や背景を持つ人との対話や、アンコンシャス・バイアスをテーマにした研修で体系的に学ぶことも有効です。

こうした習慣により、管理職は相手の立場や感情に配慮した対応ができるようになり、ハラスメントの芽を早期に摘むことができます。

まとめ|パワハラ対策は"管理職任せ"ではなく"組織全体"で

管理職がパワハラ対策に本気で動き出すには、意識・知識・技術の3つを育てる場をつくり、管理職が頼れる相談の仕組みで支えることが欠かせません。

自社の取り組みがどこまで進んでいるかを確かめるために、次の3つの観点で振り返ってみてください。

⚫︎【意識】管理職が、パワハラを「マネジメントの問題」として捉え、放置するリスクを実感できる場があるか
⚫︎【知識】管理職が、パワハラの定義と典型例を共通認識にし、グレーゾーンを話し合える場があるか
⚫︎【技術】管理職が、組織を頼る・公平に聞く・自分の偏りに気づく、の3つを学べる場があるか。あわせて、迷ったときに相談できるよう会社から呼びかけ、相談には丁寧に応える仕組みがあるか

まずは、管理職が迷わず相談できるように、「少しでも迷ったら、すぐに相談してください。一緒に考えます」と、会社としてはっきり伝えるところから始めてみてください。 パワハラは根気のいる問題ですが、丁寧に対応していけば、解決の道は開けていきます。

管理職向けのハラスメント研修でどのような内容を扱えばよいかは、アーティエンスのコラム「自分も部下も守る!ハラスメント研修で実施すべき8つの内容」で詳しくお伝えしています。

パワハラ対策を「管理職任せ」にしないために、アーティエンスにご相談ください

「管理職に何度伝えても、パワハラ対策が後回しになってしまう」
「自分の会社に合ったパワハラ対策を、具体的に考えたい」

そんな方は、ぜひ一度アーティエンスにご相談ください。

私たちアーティエンスは、管理職の意識・知識・技術を高める研修から、管理職が相談しやすい仕組みづくりまで、各社の状況に応じた対策を一緒に考えています。社員が不要な悩みなく働ける組織を、ご一緒につくっていきましょう。


筆者プロフィール


森川 友晴

チェリッシュグロウ(株)代表。業界歴15年以上。大手外食チェーンにて店舗業務、人事部、教育部などを経験した後、アルー(株)に転職。研修教材やコンテンツ開発のマネジメントを行う。現在は、研修講師、中学高校や企業のカウンセラーとして企業と個人の支援を行っている。
専門分野:インタラクショナルデザインコーチング、キャリア開発、メンタルヘルス/レジリエンス


 

プロフィール

アーティエンス株式会社

アーティエンス株式会社は、2010年9月の設立から16年にわたり、新入社員から管理職・経営者まで各階層を対象とした研修・組織開発コンサルティングを提供しています。導入企業数は600社以上にのぼり、大手企業から成長期のベンチャー企業・中小企業までサービスを提供してきた実績があります。同社の特徴は、研修を「実施して終わり」にしない伴走型のスタイルにあります。企画段階からお客様と共に考え抜き、当事者意識・主体性・自律の醸成やリーダーシップ開発といった各社固有の課題に合わせて内容を設計します。さらに研修と現場を繋げるサポートもしており、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポートしている点も特徴です。

⚫︎youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
⚫︎ホワイトペーパー:組織開発・研修に関するお役立ち資料


Webサイト:アーティエンス株式会社

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