現場の変化につながる、組織改革・人材育成

第9回

新入社員が数名なら「現場で教えれば十分」は本当?少人数採用の中小企業が見落とす5つのリスク

アーティエンス株式会社  執筆:近藤 ゆみ

 

「新入社員は2人だけ。研修までやる必要があるのだろうか」
「人数が少ないのだから、現場で教えれば十分ではないか」

少人数採用の中小企業の経営者・人事の方から、毎年この時期によく伺うお悩みです。予算にも人手にも限りがあるなかで、数名のために研修を用意するのは、たしかに負担が大きく感じられます。

しかし実は、人数が少ない会社ほど、1人の立ち上がりの遅れや早期離職が、現場と組織に与える影響は大きくなります。研修を省いたことによるつまずきは、本人だけでなく、教える側の社員や職場の空気にまで広がっていくためです。

結論からお伝えすると、少人数採用の新入社員研修は、「すべて社内で」「すべて外部に」のどちらかに寄せるのではなく、教える内容ごとに、社内で教えるか外部に任せるかを分けることが現実的です。

本コラムでは、新入社員研修をしないと何が起きるのか、少人数採用の会社がやりがちな3つの失敗、そして内容ごとの分け方を順にお伝えします。
来年度の新入社員を迎える前に、「何を、誰が、どこまで教えるか」を整理する材料にしてください。

1. 研修をしないと何が起きるか ― 5つのリスクは連鎖する

新入社員研修を省いたときのリスクは、1つずつ別々に起きるのではなく、順番に連鎖していきます。
社会人への切り替えが遅れ、成長が鈍り、会社への信頼が下がり、早期離職につながり、最後は現場が「育てても無駄だ」と感じるようになる、という流れです。


① 学生から社会人への切り替えが起きにくくなる

研修の場がないと、新入社員は学生時代の感覚のまま仕事に向き合いがちです。
「仕事とは何か」「組織の一員として何を期待されているのか」を言葉にして伝える場がないためです。

特に少人数採用の会社では、入社前からアルバイトやインターンとして働いているケースも多く、「いつの間にか入社していた」という感覚になりやすい傾向があります。これは本人の姿勢の問題というより、切り替えのきっかけがなかったことが背景にある場合がほとんどです。

人数に関わらず、社会人としてのスタートラインをそろえる場を、意図して設けることが大切です。

② 成長のスピードが鈍る

研修をせずに現場配属だけで進めると、新入社員は仕事の基礎を手探りで覚えることになり、成長に時間がかかります。

たとえば、名刺交換や電話応対を一度も学ばないまま現場に出ると、本人は戸惑い、先輩がその都度一から教えることになります。新入社員も現場も試行錯誤が増え、結果として一人前になるまでの時間が延びてしまいます。

基礎となる考え方や仕事の進め方を先に共有しておくことで、現場での学びはぐっとスムーズになります。

③ 会社への信頼(エンゲージメント)が下がる

初期の教育がないと、新入社員は「この会社は人を育てるつもりがないのではないか」と感じやすくなります。

今は、同級生がどんな研修を受けているかがSNSなどで簡単に分かる時代です。自分だけ何も用意されていない状況に置かれると、会社への不信感は強まりやすくなります。さらに、思うように活躍できない状態が続くと、「うまくいかないのは会社のサポートが足りないからだ」と受け止めてしまうこともあります。

研修の有無は、新入社員との信頼関係づくりの出発点です。

④ 早期離職につながる

成長の鈍化と信頼の低下が重なると、早期離職のリスクが高まります。

入社して間もない時期の新入社員は、「成長できているのか」「この会社で将来を描けるのか」という不安を多く抱えています。それを整理する機会がないまま業務に追われると、やりがいや将来像を見失いやすくなります。

実際に、ある施工会社(従業員約30名)では、簡単なマナー研修のみで現場配属していた結果、1年目の離職率が50〜100%という状況が続いていました。そこで公開講座型の新入社員研修を導入し、基礎的な考え方や役割理解、振り返りの機会を設けたところ、離職率を20%未満に抑えられるようになりました。

⑤ 現場が「育てても無駄だ」と感じるようになる

研修での仕事の基礎が共有されないまま配属されると、フォローの負担が現場に集中するためです。

教える側の社員のあいだに「どうせすぐ辞める」「育てても意味がない」という見方が広がります。それに加えて、成長スピードが遅かったり、離職する新入社員が続くと、必要最低限しか関わらない、新人対応を後回しにする、といった反応が生まれ、育成へのネガティブな空気が強まっていきます。

研修をしないという選択は、「新入社員を育てない文化」を組織に根付かせてしまうおそれがあります。

2. 少人数採用の会社がやりがちな3つの失敗

ただ、研修にはさまざまあります。選び方や進め方を誤ると効果は出ません。ここでは、よく見られる3つの失敗を整理します。

失敗1:外部研修を費用の安さ・高さだけで選ぶ

研修の良し悪しは、費用の高低だけでは判断できません。

「無料だから」「安いから」と動画を見るだけの研修を選ぶと、実際に手を動かす経験がないため、理解が表面的になりがちです。また、受講者の多い研修では、講師が一人ひとりに目を向けられず、「自分の場合はどうすればいいのか」が分からないまま終わることもあります。

一方で、「高いから安心」とも言い切れません。大企業向けに設計された研修は、少人数の会社の実情に合わないことがありますし、強い負荷をかけて一時的な高揚感を生む研修は、効果が長続きしないことが多いと言われています。

選ぶときは、価格ではなく、「新入社員にどんな変化を期待するのか」「自社の採用人数や実情に合っているか」で内容を確かめることが大切です。

失敗2:外部研修に参加させただけで育成を完了した気になる

外部の研修(公開講座)に参加させても、学んだ内容が現場で生かされないケースも少なくありません。「とりあえず外部に出せば大丈夫」と、研修後の生かし方まで考えないまま参加させてしまうためです。

公開講座で扱うのは、どの会社にも通用する考え方やスキルです。それを自社の仕事にどう当てはめるかを整理する場がなければ、学びは抽象的なまま終わります。上司や先輩が研修の内容を知らず、話題にすらならないまま、「研修は研修、仕事は仕事」と切り離されてしまうのです。

特に少人数の職場では、研修後の対話が自然には起きにくく、研修が一度きりの行事として消化されてしまいがちです。外部の研修は、「研修のあと、社内でどう生かすか」をセットで決めておくことが欠かせません。

失敗3:内部研修が、先輩の経験談で終わってしまう

社内で研修を行うと、内容は悪くなくても、先輩の経験談を聞くだけの時間になってしまうことがあります。その背景には、教える社員が「人を育てる」視点を持たないまま講師役を務めている、という状況があります。

社内研修では、現場経験の豊富な社員が講師を務めることが多くなります。しかし、実務に詳しいことと、人を育てることは、必ずしも同じではありません。

たとえば、次のような状態になっていないでしょうか。

・なぜそのやり方が必要なのか、背景が伝えられていない
・経験談が中心で、ほかの場面でも使える考え方に整理されていない
・新入社員がどこでつまずくかを前提にした組み立てになっていない

こうなると、新入社員は「話は聞いたが、どう生かせばよいか分からない」「結局は現場で見て覚えるしかない」と受け止め、研修の効果は限られてしまいます。社内で研修を行うときは、話す内容に加えて、「人を育てる視点で組み立て、伝えられているか」を確かめることが重要です。

3つとも、研修を「用意すること」自体が目的になってしまったときに起こる失敗です。大切なのは、新入社員に何を身につけてほしいかから考え、それに合う形を選ぶことです。
次の章では、その分け方を内容ごとに整理します。

3. 社内で教えること・外部に任せることを、内容ごとに分ける

少人数採用の新入社員研修は、教える内容ごとに、社内で教えるか外部に任せるかを分けると、効果と負担のバランスが取りやすくなります。すべてを同じやり方で行うより、それぞれの内容に向いた形を選ぶほうが、限られた人手でも無理なく進められるためです。

ここでは代表的な4つの内容について、分け方の考え方を整理します。

① 社会人の基礎・ビジネススキル:外部の公開講座で土台をそろえる

学生から社会人への切り替えや、報連相・段取り・論理的に考える力といった基礎は、外部の公開講座を使うと進めやすい領域です。

公開講座は内容が体系立っていて、抜け漏れが起きにくく、人事側の準備も最小限で済みます。また、会社から直接は言いづらいことも「一般論」として届けやすく、社内の人間関係に影響しにくい点もメリットです。

さらに少人数採用の会社にとっては、他社の新入社員と一緒に学ぶことで、社内にはいない「同期」のような仲間と出会い、自分の強みや課題を客観的に捉えるきっかけにもなります。

② 業界の知識・専門スキル:社内で教えて実務に結びつける

業界の知識や職種ごとの専門スキルは、社内で教えるほうが実務に結びつきます。使う道具や仕事の進め方、求める水準が会社ごとに異なり、一般的な研修では現場に合いにくいためです。

たとえば、IT企業なら開発環境や社内ルールに沿った進め方、メーカーなら設備の扱い方や安全・品質の考え方は、自社の実務を前提に伝えたほうが理解が早く、配属後の立ち上がりにもつながります。

社内で教える場合は、教える社員の確保と日程の調整が必要になるため、早めに段取りを決めておくことがポイントです。

③ 経営理念・職場の理解:社内で伝えて納得感をつくる

経営理念や職場の理解など、自社を知ってもらうための内容は、社内の人が伝えるからこそ届きます。中心になるのが、「この会社は何を大切にしているか」という自社ならではの文脈だからです。

たとえば、

・経営者が理念や会社の方向性を自分の言葉で伝える
・配属先の上司・先輩が、仕事の背景や期待している役割を説明する
・報告の仕方や判断の基準、他部署との関わり方といった「職場の暗黙のルール」を共有する

といった内容は、社内の人が話すことで具体性が生まれ、新入社員も自分ごととして受け取りやすくなります。ただし、伝え方によっては厳しさだけが残ることもあるため、伝える順番や言葉選びには配慮が必要です。

④ ストレスへの向き合い方・自己管理:外部の公開講座+社内でのフォロー

ストレスへの向き合い方(レジリエンス)や自己管理は、外部の公開講座で基礎を学び、社内でフォローする組み合わせが進めやすい領域です。専門性が高く、社内で教えるのは難しい一方、研修を受けさせるだけでは定着しにくいためです。

社内のフォローとしては、次のような取り組みが現実的です。

・簡単なアンケート(サーベイ)で、心身の状態を定期的に把握する
・1on1で、不調や違和感を早めに拾い、こまめに声をかける

予算に限りがある場合は、研修そのものより、こうした日々のフォローのほうが効果的なこともあります。

基礎は外部でそろえ、自社ならではのことは社内で伝える。この組み合わせが、少人数採用の会社にとって無理のない進め方です。

4. 今日からできる、最初の一歩

来年度の新入社員を迎える前に、次の3つから始めてみてください。

① 来年度の新入社員に教えたいことを、4つの内容に書き出す
社会人の基礎、業界の知識・専門スキル、経営理念・職場の理解、ストレスへの向き合い方・自己管理の4つに分けて、教えたいことを書き出します。書き出すだけで、「社内で教えること」と「外部に任せること」の線が見えてきます。

② 社内で教える内容ごとに、教える人を決める
誰が、どの内容を、どのくらいの時間で教えるかを決めます。あわせて、「なぜそのやり方なのか」という背景まで伝えてもらうよう、教える人に一言お願いしておくと、経験談だけで終わるのを防げます。

③ 外部の研修に出すなら、研修のあとに話す場を先に決める
研修の翌週に上司と15分話す、といった小さな場で構いません。「研修で何を学んだか」「現場でどう使うか」を言葉にする場を、参加させる前に決めておきます。

あわせて、社内に同期がいない新入社員のフォローについては、アーティエンスの資料「同期がいない新入社員を“孤立”させない!エンゲージメントと成長を支える6つの実践策」も参考にしてください。

少人数採用の新入社員研修の組み立ては、アーティエンスにご相談ください

「何を社内で教え、何を外部に任せればいいのか、自社だけでは決めきれない」
「新入社員が1人だけで、外部の研修に出してよいのか迷っている」

そんな方は、ぜひ一度アーティエンスにご相談ください。

新入社員が1名の会社からも参加できる新入社員研修の公開講座を開催しています。他社の新入社員と学ぶなかで、社会人としての土台が整い、また同期の繋がりができます。
受講後の振り返りは人事の方とも共有するので、研修のあとの社内フォローにもつなげやすくなります。
社内で教える内容との分け方や、配属後のフォローの進め方も、ぜひご相談ください。

開催日程や講師のプロフィールは、「27年度新入社員研修(公開講座)サービス資料」でご覧ください。


執筆者


近藤 ゆみ(コンドウ ユミ)

アーティエンス(株) 研修事業部門責任者。自身も講師・コンサルタントとして従事。前職の大手人材紹介会社では、転職希望者のキャリアカウンセリングから転職サポートまでを一貫して担当。 専門分野は、新入社員・若手社員、採用・育成
X:@kondo_atc


 

プロフィール

アーティエンス株式会社

アーティエンス株式会社は、2010年9月の設立から16年にわたり、新入社員から管理職・経営者まで各階層を対象とした研修・組織開発コンサルティングを提供しています。導入企業数は600社以上にのぼり、大手企業から成長期のベンチャー企業・中小企業までサービスを提供してきた実績があります。同社の特徴は、研修を「実施して終わり」にしない伴走型のスタイルにあります。企画段階からお客様と共に考え抜き、当事者意識・主体性・自律の醸成やリーダーシップ開発といった各社固有の課題に合わせて内容を設計します。さらに研修と現場を繋げるサポートもしており、学びの定着と行動変容が継続する仕組みまで一気通貫でサポートしている点も特徴です。

⚫︎youtube:中小企業の人材育成・組織変革 専門チャンネル
⚫︎ホワイトペーパー:組織開発・研修に関するお役立ち資料


Webサイト:アーティエンス株式会社

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