第11回
SUMO人気㊤ 分かりやすく「タイパが魅力」で外国人が熱視線
イノベーションズアイ編集局 編集局長 松岡健夫

「相撲」は今や「SUMO」になったといっていいだろう。大相撲観戦を楽しむのは年配の男性というかつてのイメージは完全になくなり、ファン層は「スー女」と言われる相撲好きの女性に加え、最近では本場所を熱く観戦する外国人もよく目にする。テレビ中継を見ていると、推し力士の名前入りタオルを広げて応援する姿があちらこちらで見られる。
伝統的な神事・国技である相撲への造詣が深い「好角家」が楽しむ格闘技ではなく、誰もが楽しめるエンターテイメントに進化したのだ。なぜか。キーワードはタイパ(タイムパフォーマンス)だ。
本場所は大盛況で、満員御礼の垂れ幕が連日下がる。連続記録は2026年9月27日の秋場所千秋楽時点で341日に達した。歴代2位を更新中だ。過去最長記録は「若貴ブーム」の1989年11月の九州場所11日目から97年5月の夏場所初日までの666日連続だ。
相撲ファンが増えたことで最近はすっかりチケットが取りにくくなった。前売りは即完売し、当日券もない。24年初場所から26年秋場所まで17場所連続してチケット完売というから恐れ入る。
今や入手困難なプラチナチケットだ。本場所を訪れる観客の25~30%を訪日外国人客(インバウンド)が占めるといわれる。それだけチケットを求めるライバルが増えたことになる。買えなかったら仕方ないと諦めるしかない。自宅でビールジョッキを傾けながらテレビ中継を楽しむだけだ。
分かりやすいルール、見た目のインパクト
大相撲が相撲初心者の外国人の心をとらえたのは、外国人力士の活躍もあるが、分かりやすいルール、一瞬で決まる勝負、スムーズな進行といったタイパの良さだ。
もちろん、相撲通のコアな外国人も増えているが、土俵の外に出るか、足裏以外が土俵についたら負けという単純明快なルールは予備知識を持たなくても理解できる。同じ格闘技でも柔道の一本と技ありの違いは分かりにくいし、ボクシングが判定に持ち込まれるとどっちが優勢か判断するのは難しい。しかもドロー(引き分け)がある。
大相撲には「同体取り直し」といって、際どい勝負でどちらが優勢か分からないと判断されると、もう一度対戦して決着を図る。相撲に引き分けはないのだ。
他の格闘技と違って、多くの勝負が立ち合い一瞬の攻防で決まるというスピードは魅力だ。しかも、一番が終わると土俵下に控える次の力士がすぐに土俵に上がる。取組は次から次へと矢継ぎ早に行われるので退屈することはない。中入りという十両の取組終了から幕内の取組開始前に約20分間の休憩はあるが、野球のように攻守交替はないし、サッカーやラグビーのようにハーフタイムもない。間延びする時間がないのだ。
言葉や文化が違い、相撲も知らないにもかかわらず外国人が熱狂するのは、見た目の強烈なインパクトもある。小兵力士といえども120キロを超える幕内力士を見ると「なぜ相撲取りだけが我々よりデカイのか」と多くの欧米人は驚き、髷姿でまわしのみ身に着けて登場する力士に興味をそそられる。しかも、立ち合いで力士同士の頭と頭がぶつかり合ったときに聞こえる「ゴツン」という音は迫力十分。体重無差別での取組も惹きつけられる。小兵の業師が体の大きな力士を投げ飛ばすと拍手喝采だ。
3年連続で海外公演
外国人ファンの増加を生かさない手はない。日本相撲協会は2027年6月、タイ・バンコクで「日・タイ修好140周年記念 大相撲バンコク公演」を開催する。25年のロンドン、26年のパリに続く3年連続の海外公演で、東南アジアでの開催は初めてとなる。同協会は28年以降も継続的開催を目指しており、開催地獲得に向け海外からのオファーも相次いでいるという。
観光資源としても魅力十分
今や「SUMO」は世界ブランドになった。日本が世界に誇るエンタメであり、押しも押されもしない観光資源だ。大いに活用すべきだ。経済産業省が8月に発表した「エンタメ・クリエイティブ産業戦略2026」によると、ゲームやアニメなどエンタメ・コンテンツ分野の海外売り上げを33年に20兆円に引き上げるという。
このなかには「みるスポーツ」も入っており、インバウンド需要の拡大を好機ととらえ、海外需要の取り込みを目指す。牽引引役になれるのが大相撲だろう。25年のロンドン公演、26年のパリ公演とも満員御礼だった。タイパ重視の若い世代(Z世代)にアピールすれば、コアな相撲ファンが世界規模で増えるのは間違いない。
世界における日本の稼ぐ力は年々、落ちている。国際通貨基金‘IMF)によると、日本の名目国内総生産(GDP)は2027年にインドとイギリスに抜かれて世界6位に転落する見通しという。
外貨を稼ぐスポーツ産業
こうしたなか、日本でしか観られない大相撲は外貨を稼げるスポーツの「横綱」とはいえないまでも「三役」を務めることはできるのではないか。このほかにも、四季を楽しめる日本では冬はスキー・スノボー、夏はダイビングといったように通年で外国人を呼び込めるスポーツは少なくない。プロ野球やサッカー、バスケットボールといったボールゲームの人気も高い。誘客や商品開発に力を注ぐべきだ。自然環境を生かしたスポーツは地方創成につながる。
同じフィールドでスポーツを「する(体験)」「観る(観戦)」「支える(支援)」ことは国際的な人的交流をもたらし、日本の好感度も高まるはずだ。稼げるスポーツへの期待は高まるばかりで、外国人が熱視線を送るSUMOのチケットが買えなくてもしばらくは我慢しよう。
※冒頭の写真は ChatGPT により作成
プロフィール

イノベーションズアイ編集局
編集局長
松岡 健夫
大分県中津市出身。1982年早稲田大学卒。
同年日本工業新聞社(フジサンケイビジネスアイ、現産経新聞社)入社。自動車や電機、機械といった製造業から金融(銀行、保険、証券)、財務省や国土交通省など官公庁まで幅広く担当。デスク、部長などを経て2011年から産経新聞経済部編集委員として主に中小・ベンチャー企業を幅広く取材。次代の日本経済を担える企業の紹介に注力する。
著書は「ソニー新世紀戦略」(日本実業出版社)、「K字型経済攻略法」(共著・プレジデント社)「コロナに勝つ経営」(共著・産経出版社)など多数。
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