第54回
中国人減っても伸びたインバウンド消費 日本観光の構造変化?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA

インバウンド動向がこれまでとは違う推移を辿っている。
2026年上期(1~6月)は、これまで主力とされてきた中国人観光客数が前年同期を大きく下回った一方、訪日外国人数全体は高い水準を維持し、観光消費額は前年を上回ったのだ。「中国人観光客が減れば日本の観光は失速する」という従来の常識は、変わりつつあるようにも見える。
日本政府観光局(JNTO)によると、2026年上期の訪日外国人は約2108万人で、上期としては極めて高い水準を記録した。ただ、4月は約369万人で前年比5.5%減、5月は約356万人で3.6%減、6月は315万人で6.8%減となり、これは訪日中国人の落ち込みに加え、一部の航空路線の減便や台風による影響などが重なったためと見られている。
この4~6月については、中国政府による訪日旅行自粛の呼びかけや日中関係の影響もあり、中国本土からの旅行者は前年同期を大きく下回っている。2月には前年同月比で4割以上減少するなど、コロナ禍後に回復を続けてきた流れが一転した。旅行会社の予約状況でも、中国からの予約は前年の半分程度に落ち込んだとされている。
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しかし上期については、訪日中国人の減少が訪日外国人全体の縮小にはつながらなかった。韓国、台湾、米国、ベトナム、インドなどが過去最高を更新し、訪日中国人の減少分を補ったのだ。JNTOは、6月だけでも台湾、韓国、米国など15カ国からの訪日外国人数が過去最高を記録したとしており、日本のインバウンドが中国依存から多様な市場へと広がったことを示している。
さらに注目すべきは旅行消費額だ。
観光庁によると、2026年第1四半期(1~3月)の訪日外国人の消費額は2兆3378億円で前年同期比2.5%増、第2四半期(4~6月)も2兆5096億円と0.2%増となり、上期を通じて前年を上回る推移となった。
この背景には、1人当たりの消費額が高水準を維持しているという事情がある。第2四半期の旅行者1人当たり支出は24万4000円と前年同期より3.3%増加。宿泊費や飲食費の上昇に加え、円安によって海外旅行者からみた日本の「割安感」が続いたことも追い風となった。
旅行者の顔ぶれが変わったことによる影響は大きい。
以前は中国人観光客による高級ブランド品や家電の「爆買い」が話題となったが、現在は欧米やオーストラリア、台湾、韓国などからの観光客は地方にも滞在し、宿泊や食事、温泉、自然体験、文化体験にお金を使う「コト消費」が主流になりつつある。特に滞在期間の長い欧米やオーストラリアの観光客は1人当たりの消費額も高く、総数が以前ほど多くなくても経済効果は大きいということらしい。
こうした変化に対する反響も興味深い。観光業界では「中国依存から脱却できた」「市場が分散したことでリスクが小さくなった」と歓迎する声が少なくない。これは、一国の政治情勢や経済情勢に左右されにくい観光産業へと変化していることへの評価とみることもできる。実際、台湾や韓国、東南アジア、欧米からの観光需要は着実に伸びており、日本の観光市場の裾野は大きく広がってきた。
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一方で、慎重な見方もある。
中国人観光客は依然として世界最大級の市場であり、旅行者一人当たりの支出も高い。百貨店やドラッグストア、高級ブランド店などでは中国人観光客への依存度が依然高いという事情がある。このため「訪日中国人観光客を失っても問題ない」とまではいえないという指摘もある。実際に、中国人観光客の減少に伴って一部の宿泊施設や小売店では客足が鈍ったケースも多々ある。
政府が掲げる観光政策は、「人数」だけではなく「消費額」や「地方への誘客」を重視する方向にシフトしつつある。そもそも、オーバーツーリズムの問題がある上、多くの観光客を短期間に受け入れるよりも、地方などに長期間滞在して付加価値の高い体験などを消費する旅行者を増やすほうが、地域経済への波及効果も大きいからだ。もちろん、訪日中国人観光客は重要であり続けるものの、そこに依存しない観光立国を目指すという考え方が鮮明になっている。
折しも、上期のインバウンドは、「中国人観光客が減れば日本観光も縮小する」という従来の図式が崩れつつあることを示しているようにも見える。観光需要の多様化、高付加価値化、そして体験型観光への転換が進み、訪日客の「量」から「質」への変化が数字にも表れているようにも見える。
今後、中国市場が回復すればさらなる成長も期待できるのだが、日本の観光産業はこれを機に新たな段階へと歩み始めていくことが肝要に思える。
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