よどみのうたかた

第53回

謎多き「うなぎ」、今夏は値下がりも依然高級

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

今年はうなぎが安いのだという。確かに、スーパーや量販店では昨年よりも2割程度安くなっている。要因は、養殖用の稚魚であるシラスウナギが昨年の漁期に豊漁だったためだという。日本で一般的にうなぎといえば「ニホンウナギ」だが、まだ商業ベースの完全養殖が実現していないため、天然のシラスウナギを採捕して養殖しているのが実情だ。養殖期間は1年程度。このため、その年の漁獲量が翌年の供給量を左右することになる。

とはいえ、国産というか、国内養殖のうなぎは少数だ。市場全体に大きく影響するのは最大の養殖国である中国の動向だとされる。日本国内で消費されるうなぎの約7割は輸入品で、蒲焼などの加工品のほとんどは中国産が占めている。折しも、歴史的な円安が続いている。輸入品が多いのだから、他の食品と同様に価格は上昇しそうなものだが、なぜだろう。

調べてみると、今年の中国産うなぎ蒲焼の輸入価格も前年より約2割下落している。中国でも昨年のシラスウナギは豊漁だった模様だが、養殖費用や輸送費の上昇、円安などの要因を差し引いても2割安というのは驚きだ。

一説によると、中国では養殖技術の向上で大量生産が可能になっているという。前年の稚魚の豊漁は、歩留まりが良い状態で翌年の供給量増大につながっていく。これに伴い、中国では価格が大きく下落しており、円安によるコスト増があっても日本では価格が下がる結果となっている。「円安」という逆風を「供給過剰」が打ち消した格好だ。

ただし、うなぎ店の店頭価格となると、円安や人件費高騰の影響は避けられない。

うなぎ店では、調理に使う炭やガス、電気代、物流費、包装資材、人件費などのコストが一様に上昇している。このため、材料(うなぎ)の価格が下がっても、店頭価格の値下げはできそうにない。5000円だったうな重を4000円にする、といったようなことは難しく、実際には現状維持や数百円程度の値引きやサービス強化にとどまる店舗が多いという。

では、来年以降はどうなるのだろうか。うなぎの市場動向は稚魚であるシラスウナギの漁獲高に大きく左右されるので、今年の漁の状況が気になるところだ。

居住している静岡県中部では、秋から冬にかけて夜中の漁港で緑色のライトをつけてシラスウナギ漁をする光景をよく見かける。漁といってもタモ網で掬う地道な作業なのだが、今年の秋以降にそうした漁を見かけた際は漁師にぜひとも状況を聞き、来年の動向を占いたい。

が、市場動向に大きく影響するのはシラスウナギ漁の動向に限らない。注目されるのは中国の事情だ。

中国の養殖うなぎは、近年はアメリカ市場にも輸出され、量的にも拡大していた。これが、国際情勢や米国の貿易政策によって変化しつつある。要は、米国への輸出が難しくなっているのだ。となれば、その分が日本市場への供給にシフトする可能性がある。今年の中国産うなぎの価格下落もこうした事情が背景にあるのかも知れない。

ただ、今年の11月には米国で中間選挙がある。政策に変化があれば状況も変化する。米国向けの輸出が戻ったり、他国向けの需要が拡大すれば再び価格は上昇する可能性はあるのだろう。

それにしても、うなぎは高い。安くなったとはいえかなりの高級品だ。埼玉県出身の筆者にとっては、近所にうなぎ店が多くあったこともあり、身近な食べ物だった。

歴史的には、うなぎの蒲焼発祥地とされるのは埼玉県の浦和だ。江戸時代、中山道の宿場町として栄えた浦和周辺には沼地が多く、良質な天然うなぎが豊富に獲れたという。旅人に提供した蒲焼が評判となり、名物となっていった。現在も市内には老舗が残り、食文化として受け継がれている。

一方、現在住んでいる静岡県では、最大都市である浜松が全国有数のうなぎの養殖地として発展してきた。明治時代になると、浜名湖周辺で養殖技術が確立され、温暖な気候と豊富な水資源を背景に一大産地となる。現在でも「浜名湖うなぎ」は高いブランド力を有している。

ただ、生産者は稚魚価格の乱高下や燃料費などの高騰、人手不足に直面している。今年のうなぎの価格下落は、消費者にとっては朗報だが生産者にとっては受け止め方も様々だ。需要が増え、供給量も増やしていくことができるなら不安もないのだが…

ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に分類されている。消費が増えることは産業発展の基本だが、天然シラスウナギへの依存が続く限り、資源管理との両立は避けて通れない。

現に、国際取引や漁獲自体を対象にした規制が検討されることもあり、その都度「うなぎが食べられなくなるかも知れない」といった報道もなされてきた。

そもそもうなぎは、どこに産卵し、どのように育つのかといった生態が少し前まで分からなかった謎の多い生物だ。近年は完全養殖技術の実用化に向けた取り組みも進み始めているが、まだまだコスト面に課題が残る。完全養殖が確立されるまでは、産業基盤や価格の安定に向けた関係者の腐心が続くことになりそうだ。

 

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