第55回
SNSはあくまで“きっかけ”に!
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA

「医師が警鐘を鳴らす、食べてはいけない食品5選」「長寿のために食べたい食品5選」…
SNSを眺めていると、こんな健康情報の動画が次々に流れてくる。医師らしき人物が登場し、「知らないと危険」「99%の医師が食べない」などと語る。短時間で要点が分かり、つい見入ってしまう。この手のものは、ほかにもいろいろある。SNSを開いた際に、ついついこうしたものを観たのだろう。
しかし、問題はこの先だ。こうした動画をの背景を調べていくと、発信元や発信の狙いが一様ではないことが分かる。実在する医師が自ら情報発信しているケースもあれば、医師や専門家を前面に出した健康メディアもある。発信者の実態が外部から確認できない中で「○歳の医師」「現役医師」などを登場させ、健康情報を大量に投稿しているチャンネルもある。
しかも、動画の目的は必ずしも「正しい健康情報を伝えること」ではない。再生回数を増やし、チャンネル登録者を獲得し、LINEなどに誘導し、書籍やサプリメント、健康食品などの商品の販売につなげる。いわば健康情報を「入口」にしたビジネスになっていることが多い。もちろん、それ自体が悪いわけではない。医師が知識を分かりやすく伝え、その活動を事業として成り立たせることも必要だろうし。
問題なのは、「医学的な情報」と「販売のための情報」の境目が非常に分かりにくいことだ。というか、分からない。さらによろしくないのは、情報そのものの正確さだ。
◇
海外の研究では、SNSやウェブ上の栄養・健康関連の情報について、質や正確性に問題があると評価されたものがかなりの割合にのぼっている。とあるレビューでは、栄養情報の正確性が低いと判断された研究が約半数に達し、SNSに限ると、情報の質が低いとされた研究は6割を超えるとも。「TikTok」の栄養・健康関連の投稿250件を調べた研究では、「完全に正確」「おおむね正確」と評価されたものは合わせて43%にとどまり、「おおむね不正確」「完全に不正確」は計37%だったとか。
ただ、「TikTokの栄養・健康投稿の37%が間違い」というわけではない。そもそも研究によって対象や判定方法が異なっており、まとめるのは難しい案件だからだ。というか、重要なのは、SNSのこうした情報には正確なものと不正確なものが混在しその区別がつかない、ということだろう。
嘘ばかりではないところが厄介なのだ。「この食品には抗酸化成分が含まれている」という話なら正しいかもしれないが、それが「老化を防ぐ」「毎日食べれば長生きする」となると話は別だ。とある研究で“特定の食品を食べる人には、特定の健康上のメリットがある”との統計があっても、「その食品を食べたから健康になる」わけではない。生活習慣や運動、所得、年齢、喫煙など、そのほかのいろいろな要因が影響しているに違いないからだ。
SNSには、動物実験や細胞実験の結果を人間の食生活にそのまま当てはめている例もある。昔の研究を「最新研究」のように紹介するケースもある。研究の進展で従来の常識が覆されているのに、古い情報がこの期におよんで発信されてケースもある。百歩譲って「医師が言っている」ということも、保証にはならない。医師も専門分野はさまざまであり、ある医師の個人的な意見が、そのまま医学界の共通認識になるわけではない。
◇
だからこそ、というか、そもそも「5選」という形式自体が怪しいのだ。「健康に良い食品」をランキングすること自体、医学的な根拠があるわけでもない。、5位から1位へと見せることで視聴者を最後まで引きつけ、刺激的なタイトル、ランキング、驚きの結論が視聴者を“どこか”に導いていく。そこにはSNS特有の「観てもらうための技術」が組み込まれている。
とはいえ、こうした動画をすべて無視するのもなんなので、「きっかけ」と理解することにしている。「この食品は本当に体にいいのだろうか」「この医師が言っていることは本当なのか」と疑問を持つきっかけだ。
動画は、当然のことながら「答え」としては受け取らない。あくまでも「調べるべきテーマ」だ。
SNSで目についた食品は話題になっているかもしれないので、まずは公的機関や学会、大学などの情報にあたる。レポートや論文などがあれば、理解できるかどうかは別にして一応みる。研究がいつ発表されたものなのか、誰が研究したのか。できれば、違った結果を示す研究はないかも調べる。そして、もう一点考える。この情報を広めることで誰が得をするのか、と。動画などの最後にLINE登録や商品の購入、サプリメントの紹介が出てきたら分かりやすい。
結局、健康について「これさえ食べればいい」「これは絶対に食べるな」という万能の答えはおそらくない。人の体は年齢や体質、持病、生活習慣によって違う。食品一つだけで健康や寿命が決まるはずはない。なので、SNSは情報は自分の目で確認する以前の話。正確なものもあるだろうが、信じてはいけない。
でも、入り口としては優秀だ。短時間で知らなかった情報に出会えるし、自分の食生活を見直すきっかけにもなる。
健康や薬、サプリ、病院、生活、車、飲食店、投資、恋愛…
いろいろあるが、SNSはあくまで“きっかけ”ということで。
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