第41回
これってもしや“ストロー効果”?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
静岡市に住んで3年以上になる。自宅は関東にあるので行き来も多いが、新幹線を使えば移動時間は2時間以内で可能。当初想像していた以上に便利だ。そんな感じなので、その気になれば東京や神奈川、埼玉、千葉あたりには通勤や通学も可能だろう。実際に、新幹線を使って通勤や通学をしている人もたくさんいる。
東京駅や名古屋駅からだと静岡駅まで新幹線で1時間程度。これなら観光旅行もしやすい。料金も6000円程度なので、手軽でもある。静岡市には史跡も多く、お茶やみかん、いちごといった農産物、カツオやマグロなどの海産物なども新鮮で豊富。観光資源はいろいろある。
しかし、観光客は県内でも多いとはいえず、観光関連の消費額も振るわない。市もこうした状況を改善しようと、観光資源の発掘やアピールを続けている。
それでもはかばかしい成果が出ているようには見えない。もしかしたら、その理由は新幹線による高い利便性にあるのかも知れない。
◇
東京から知人や友人が静岡に来ることがある。彼らと市中を観光し、夜は海の幸を楽しんだりもするのだが、多くの場合、彼らはその後新幹線で帰ってゆく。市中で宿泊することは稀だ。
静岡には「のぞみ」は停車しないものの、新幹線はそれなりに便数も多い。しかも東京まで1時間程度。夜まで飲んでいても、難なく帰れてしまうのだ。
温泉とかが有名だったりすればいいのだろうが、静岡の中心市街地にはそれもない。その点、より東京に近いにも関わらず、熱海や伊東などの温泉地は温泉自体も目的化され、宿泊を伴う観光客が多い。
静岡にはビジネス客が多いものの、こちらはよりシビアだ。仕事の後に懇親会や交流会があっても難なく帰ることができてしまう。
◇
消費などの経済活動も流出しているように思う。静岡の中心市街地はなかなかの大都会で、あらゆるモノがある。それこそ東京と変わらない。
しかし、無いものも増えてきた。わずか3年の間でも、支店が撤退して静岡のリアル店舗でも調達が難しくなったものがある。全国に支店を有する某銀行の支店もATMコーナーのみとなった。某筆記具メーカーの店舗は撤退し、修理などは東京まで行かねばならなくなった。
仕方がないので、帰省の際にそうした用事を済ますのだが、地元の人はどうしているのか。
聞いてみると、答えは簡単。そういう場合は東京まで行くという。ついでに東京でいろいろ寄ってくるのだとか。東京に出るのがそれだけ手軽だということだろう。
人手の確保も大変で需要はジリ貧、東京の拠点で対応が可能となれば、わざわざ拠点を構える必要性は薄れる。これはまさに、以前から言われてきた「ストロー効果」というやつではないか。
◇
ストロー効果は、新幹線によって日帰りの観光客が増えたり、人や経済活動が東京のような巨大都市に吸い寄せられていく現象。新幹線網の拡大で、全国の沿線都市が東京に吸い寄せられる可能性を孕んでいる。
地方の活性化を考えるとき、地方ではよく交通利便性の向上策が議論される。新幹線や話題のリニア中央新幹線などは、活性化の起爆剤のようにも言われてきた。
とはいえ、新幹線のメリットが享受できるかどうかはそのエリアの特性による。意外にも、吸い寄せられるエリアは多そうだ。しかも、観光客の増加といったメリットは比較的即座に出てくる反面、都市の機能や人、企業などの流出は長い時間をかけて進行する。
利便性向上をどう地元のメリットにしてゆくのか。巨大都市から1時間で行けるようになると、わざわざ支店を置かなくてもいい、というケースは増えてもおかしくない。人口減少下では、これまで以上にストロー効果を警戒する必要がありそうだ。
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