第40回
大きな変化は多くの想定外を生む?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA

2025年も残すところあとわずか。今年はいろいろと想定外の出来事が多かった。
特に夏の高温はひどかった。年々暑くなっているように思えるが、夏は涼しめで冬は暖かい静岡でも、夏場には静岡史上最高気温となる41度を超える日があった。温暖化なのだろうか、今後もますます暑くなるとの予想もある。
この高温、温暖化自体は想定もされているのだから想定外ではないかもしれないが、これにともなって想定外のことが起きる。
昨年はコメの不作が話題となったが、今年も細かくみていくと、ナスやキュウリ、さくらんぼ、トマトなどが不作だったといい、中には壊滅的だった産品もある。農産品の不作は気象や気候の影響を受けるケースが多い。
特定の産品が不作で供給不足や価格高騰になると、それらを使う飲食店などにも影響がでる。今年初頭にはキャベツの価格が3倍にもなるほど高騰したが、こうなるとトンカツ店やお好み焼き店などは大変だ。ただでさえガスや電気、油、コメ、肉、その他の食材の価格は上昇傾向にある。
こうした物価高は、消費者の節約志向に拍車をかける。原材料の高騰を価格に転嫁、反映したいのは山々でも、値上げには勇気がいる。一時的なものなら我慢するケースも多いのではないか。気候変動が進むなら、想定外の不作を〝想定〟する必要もでてくる。
そもそも、災害などは結果としてはみな想定外みたいなもんだ。12月に北海道・三陸沖で大きな地震が起きた。この地震に伴う「北海道・三陸沖後発地震注意情報」というものが発令された。昨年夏には日向灘で起きた地震に伴い「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」というのも発令された。いずれも期間は1週間だったが、地震発生のメカニズムからすれば、プレートが動くことによる巨大地震が起きやすい状態は続いている。
そうしたアナウンスもされているのだが、実際に起きれば“想定外”の災害になることだろう。
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想定外といえば、全国の地方自治体を大混乱に陥らせる困った首長もそうだ。
市長の学歴詐称疑惑に端を発した静岡県伊東市の大混乱では、議会が辞職勧告決議をしても市長が辞任しないことから不信任を決議。しかし、市長は失職ではなく議会の解散を選択した。
これに伴って市議選が行われ、その後の議会で二度目の不信任が決議されてようやく市長は失職した。その後市長選が行われ、あらたな市長が決まったのは12月の半ば。この間、半年にわたって市政は停滞し、混乱が続いた。
地方自治法は、こういう混乱をもたらす首長が出てくることを想定していない。つまり“想定外”だ。
地方自治体は二元代表制で、首長も議員も選挙で選ばれる。解散権は両者が政策論争などで対立して議会が不信任を決議した際、その判断について有権者に信を問うために用意されている。
しかし、伊東の場合は市長の学歴詐称疑惑から始まり、その後の対応もお粗末なものだった。不信任決議は市長の資質に向けられたもので、市民に信を問うのは筋違いといえる。
伊東市はこの一連の騒動で、市議選の費用約6300万円、その後の市長選の費用約3700万円を浪費した。問題の市長が選ばれたのは5月の市長選でのことだったので、同市は今年だけで計3回、1億3000万円もの選挙費用を投じている。
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想定外にどう対応すればいいのか。今年は、そういうことを考える機会が多かった。
農産品の現場では、暑さに強い品種への転換などを進めているという。ただ、勝手が変わることもあり、安定するまでには時間もかかるという。
困った首長に対しては、地方自治体を改正して解散権を制限するべきだとする意見がある。が、これもこれから議論が必要で、そう簡単にはいかない。とりあえずできることといえば、有権者がちゃんと選ぶこと、となるが、それもなかなか難しい。地方では立候補者が1人だけで無投票当選というケースも多く、これではそもそも選択の余地がない。
気候も人間社会も変化が続いている。これまでとは違うことが起きやすいということか。来年は、こうした想定外の出来事に振り回されないことを祈りたい。
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