第15回
「ホワイト社会」ってどうなの?
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストA
それにしても、日本語は難しい。というか、日本での言動が難しい。
言葉遣いの悪さが、大きな問題に発展することも多い。今や失言は最大級の不祥事であり、これが原因で誰もが失職したりバッシングの標的になったりもする。真偽はともかく、兵庫県知事をめぐる一連の騒動にもそうした要素が多分にあった。
もちろん、誹謗中傷などはよくないことであり、そうした言動を社会として抑えていくことは必要なことだと認識している。しかし、言動の背景には重要な訴えがあるケースも多い。言葉遣いなどを“ルール化”しすぎるあまり、肝心な部分である“訴え”が聞こえにくくなることが心配だ。
その点、自民党の総裁選や先の衆院選の際に現場で聞いた候補者の言動はいずれも品行方正だった。説明調の演説が多く、それはある意味ではいいことだが、控え目な言動だと熱意や危機感が伝わりにくいとも感じた。そういう(大人しい)候補者が増えている、ということなのかもしれないが…
その点、米大統領選などはだいぶ状況が違う。いくら選挙での演説だからって“そんなことを言っていいのか”という発言が頻繁に飛び出す。それこそ日本では問題になりかねないレベルだ。
学校でのいじめをはじめ、パワハラやセクハラが問題視されるようになって久しい。最近では、マタハラ(マタニティハラスメント)やモラハラ(モラルハラスメント)のほか、リモートハラスメント、テクノロジーハラスメント、スメルハラスメントというのもある。ネット上には、それこそ十数種類ものハラスメントについて解説や対策を紹介するサイトもあった。
いろいろあるハラスメントだが、基本的には「相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為」のことを指す。故意でない場合は悩ましいが、これらは多くの場合、相手の立場や気持ちを正しく想像するとともに、ダメージを及ぼさないよう配慮し、その読みが正しければ起きない。なので、理想的にはみんなが他者の気持ちを慮る想像力をみがき、誰に対してもいたわる気持ちを持てばいい。が、それができないからこうなった。ルール化はなれの果てであり、しょうがないのかも知れない。
対策として、職場や公共の場での言葉遣いを規定しているところも多い。厚生労働省も、職場でのハラスメント根絶に向け、労働施策総合推進法に「(全てのハラスメントが)許されない」との理念を明記する法改正を準備しているという。ハラスメントをなくすことは重要だが、より強力なルールをつくるという対策手法は実に日本的だ。
ちょっと心配なのは、ルールを厳格に守ることが目的化してしまうこと。コロナ禍の頃を思い出す。
コロナ禍のころ、ワクチン接種やマスク着用、飲食店等の営業自粛が行われた。それらの中には、命令ではなくあくまで自粛だったり要請といったものが多々含まれていた。しかし、ワクチンにせよマスクにせよ、拒否するには大変な勇気が要る。マスクをしていないから、ワクチン接種をしていないから、という理由で“ハラスメントを受けた”という話も少なくない。
日本社会は抜け駆けを認めない。人と違うことをしてはならないのだ。そういうムードがいつもある。
今年は地震や大雨などの災害が目立った。静岡でも大雨に伴う避難指示が何回か発出された。自治体の職員が、危険なエリアで住民に避難を呼びかけた時に、最強だったのは「もうみんな避難しています」という声掛けだったとか。
多様性を重視するとの方向性がある一方で、ルールからはみ出ると大変なことになる。何かを訴えたり、奇抜な言動をする際には、細心の注意が必要だ。みんなと一緒じゃないことにはリスクがあるのだ。
ただ、ルールの強化や厳格化でハラスメントのような課題を解決できるものなのか、という疑問が残る。企業の不正解決や証券取引などの分野ではルールの厳格化が続く。コーポレートガバナンスの徹底なども経営者が誤らないようにする手立てとして期待されている。それでも、それらの先頭をゆくトップ企業の不正も後を絶たない。
もっとも、企業(会社=法人)と人は違う。ハラスメントなどは自然人の間の話だけに、ルールの強化で防ごうとすると、いろいろ生きずらくなりそうだ。そのなれの果ては「ホワイト社会」などと呼ばれているが、人間らしさが感じられない。
コロナ禍を経て、コミュニケーションは希薄化しているようにも思う。折しも忘年会シーズンに差し掛かりつつあるが、忘年会のような機会も減った。コミュニケーションが希薄だと、相手の意図や希望、嫌がることが想像できても、実際どうなのかが判断できない。想像の精度が上げられないのだ。
ならば、一定のルールに照らしてコミュニケーションするしかない。問題にならない範囲からはみ出ないように注意してコミュニケーションをとるのだ。
日本はいま、そういう方向に突き進んでいる。やれやれ。
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