第54回
安定か給料か、それとも働きがいか ~手厚い福利厚生を訴え優秀人材を確保 愛社精神高まり企業価値向上に貢献~
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストM
就職戦線は人手不足を反映して学生優位の売り手市場が続く。2027年3月に卒業する大学生の内定率は、採用選考が解禁された6月時点ですでに8割に達しているという。では、Z世代といわれるイマドキの学生はどんな基準で就職先を選んでいるのだろうか。安定か給料か、それとも働きがいか。
選考基準として注目度が高まっているのが福利厚生だ。マイナビが25年卒学生に「大手企業の選考に参加した決め手」を聞いたところ、「福利厚生が厚い」を挙げた学生は半数を超えてトップだった。これまで重視されていた「給料が高い」「知名度が高い」を上回った。
なぜ優先されるのか。学生にとって福利厚生が手厚い企業は、従業員を大事にする、安定している、安心して働けると評価できるからだ。ということは、企業は福利厚生を充実させることで新卒学生をもっと採用できることになる。
ハタラクエールで働きやすい環境アピール
こうした中、福利厚生の充実・活用に力を入れる法人(企業・団体・自治体)を表彰する「ハタラクエール」に関心が集まっている。表彰・認証されることで、働きやすい環境づくりに取り組んでいることを学生はもちろん、従業員にもアピールできるからだ。

5月25日に「ハタラクエール2026」表彰式が開催された(写真)。7回目となる今回から後援に入った厚生労働省の担当課長が冒頭、「働き手の減少で働き方は?稼ぐには?と企業が悩んでいる中、(その解決に)福利厚生が力を発揮する。企業は創造性をもって取り組んでおり、様々な工夫も見られる。行政にも反映したい」と挨拶した。その後、最優秀企業に輝いたホンダに「厚生労働大臣賞」を授与した。
この日はホンダのほか、「優良福利厚生法人」に選ばれた18社のうち14社が登壇。「安心して働ける職場環境づくりに取り組む」「社員が福利厚生を活用することが大事」「定年後に『よかった』と言ってもらえることに注力している」「社員は最重要資源。一人一人が安心して働き続けられる制度づくりで定着につなげる」などと話した。
これを受けて厚労省課長は「人手不足の中、企業は賃上げで採用につなげ、入社後は福利厚生で定着に生かす」と指摘。そのうえで「社員が制度を使うことでモチベーション(意欲・やる気)が上がり、コミュニケーションが取れるようになる。社員の声を聞きながらニーズに沿った制度に見直し、独自性を打ち出すことでエンゲージメント(愛社精神)も高まる」と福利厚生の重要性を強調した。
審査委員長で、福利厚生の第一人者として知られる西久保浩二氏の講演「人材難における福利厚生の有効性」にも聞き入った。
コスパに優れる福利厚生への投資
まずは人材の流動性について話した。「20代は12%に達する。新規採用しても3年後には70%しか残らない。ザル採用で現場は疲弊している。転職による人手不足は経営危機をもたらす」と指摘。さらに「福利厚生が充実している企業に学生は注目し、意識して就職する。アピールすれば採用に有利」と話した。加えて「福利厚生への投資は優秀な人材、適性の高い人材の確保・定着に欠かせない」と訴えた。
そのためにも「自社に必要な制度、従業員が求める施策が重要」と強調した。求めるものは健康・医療、レクリエーション、子育て支援、資産形成、自己啓発などまちまちで、男女で違うし、世代でも異なるからだ。「コストがかかるのでメリハリをつけることも大切」と話しながら「賃上げよりコスパ(費用対効果)はいい」と付け加えることも忘れない。
最後に「P=A×R×C」という方程式で福利厚生の必要性を説いた。福利厚生は労働生産性の向上に有効なことは知られている。そのためには人的パフォーマンス(Performance、従業員の成果・業績)を高める必要があり、採用(Attraction)、定着(Retention)、貢献(Contribution)の掛け算で成り立つという。
欲しい人材を採用できてもすぐに辞められてしまう企業があれば、長く働く従業員は多いが新人がなかなか取れない企業もある。採用も定着もうまくいっているが働く意欲が乏しい従業員が多いところもある。募集しても新人が入らなければ採用はゼロなので掛け算の解はゼロ。さらに従業員が辞めてしまうと定着はマイナスになり解はマイナスだ。当然ながら労働生産性は上がらないどころか、下がってしまう。
確かに労働生産性向上には3要素が必要だ。採用には、欲しい人材に刺さる福利厚生を用意し入社を呼び掛ける。定着には、早期に職場に馴染ませ、長く働きたいと思える環境整備が求められる。さらに従業員が持てる能力を存分に発揮して組織の目標達成に貢献する。こうして働きがいを実感できれば、従業員満足度が高まり、エンゲージメントの向上につながる。
メニューを増やしニーズに応える
福利厚生のメニューが多ければ、それだけ多様な従業員のニーズに応えることができる。「会社が自分を支援してくれている」「自分を見てくれている」との思いが強まり、企業への信頼感が高まる。長く勤める意欲も醸成される。実際、多く利用している従業員ほど企業への満足度、貢献度は高いという。
ハタラクエール事務局を務める労務研究所の可児俊信代表取締役は「手厚い福利厚生は従業員のエンゲージメントを高め、人材の定着につながる、労働生産性が高まり、企業価値の向上をもたらす」と説く。人手不足が深刻化する中、企業の人材戦略として福利厚生の充実が有効なのは間違いない。
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