鳥の目、虫の目、魚の目

第55回

AIを使いこなすリテラシーを磨け 従業員との協働で生産性向上

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストM

 

成長著しい生成AIをどう使いこなすか―。経営者に求められるのはAIリテラシーだ。AIには責任感も倫理観も備わっておらず、寄り添ってもくれないので、適切な扱い方(使い方)を知らないと期待通りの結果は得られないからだ。

そんな中、売れるネット広告社グループの連結子会社、売れるAI マーケティング社(東京都港区)は、従業員ゼロでAIマーケティング・AI活用支援を展開している。代表取締役の福本朋哉氏は「AIは秘書、番頭、実行者と一人で何役もこなせる。プレゼンテーション資料づくりも任せており、私は商談に特化できる」と言い切る。

同社だけでなく、売れるネット広告社グループでもAI導入により生産性向上、事業拡大を果たした。こうした成功体験を生かし、AIを活用できていない企業向けに完全クローズド型の対面研修会「経営者特化型AIブートキャンプ」を開催している(写真)。業務効率化に加え、マーケティング意思決定、組織運営、事業戦略策定など経営領域でAI活用が増えれば稼ぐ力が強まるからだ。現状ではそれだけ成功事例が少ないといえる。

現場が抵抗勢力

「AI導入企業の90%が生産性へのインパクトはゼロ。何となく導入しても成果は出ない」。福本氏はこう指摘したうえで、その理由として「現場が前向きでない」ことを挙げた。ある調査によると、経営者の76%は「社員は前向き」と思っているが、現場は31%にとどまった。2倍の開きというから経営者の読み間違えも甚だしい。「トップによる号令だけ」「現場に丸投げ」では導入効果が生まれるわけがないし、「導入して満足」では定着もしない。

現場はAIを使いたくないのだ。抵抗勢力といっていい。「仕事を奪われる」ことへの不安もあるが、「現場は完璧主義。間違いを許さない文化があり、不確実なものは受け入れられない。AIに任せて失敗した責任を取りたくない」(福本氏)という本音が出てくる。職人としての矜持、顧客への忠誠といった職業倫理を盾に拒むこともある。

とはいえ、AI導入で利益構造が変わってくるのは確かだろう。AI導入コストはかかるが、その代わりに人件費・外注費を減らせる。業務も効率化するので従業員は付加価値の高い仕事に集中でき、利益を得られる。AI投資はコスト削減だけにとどまらないのだ。

成功事例を創り出す

売れるネット広告社グループでもAI導入効果事例が出ている。母体である売れるネット広告社は成果報酬型広告の最適化と収益性向上の加速につなげた。従来はデータの集計・分析に複数スタッフがかかわってきたが、AIに置き換えることでこれまでできていなかった分析も可能になり成果報酬を高めることができた。

システム開発を担う連結子会社のSOBAプロジェクトでは業務委託費が半減し、開発生産性を3.8倍に高めることができた。また非エンジニア向けに「5分」ルールを新設、5分以上かかる作業は自分の手から離してAIに渡すことを徹底している。

生産性向上を狙ってAIを導入するわけだが、そのためには「人を増やさずに、トークンを増やすことが重要」と福本氏は強調する。トークンとはAIの使用量を示す単位で、従量課金制では量が増えると利用コストがかさむ。それでもトークン最大化の価値は大きいという。

福本氏は「給与30万円を払ってデザイナーを雇うより、3人分の100万円を払う覚悟でAIを活用すべき。月5本制作するデザイナーに対し、AIは100本でも1000本でも可能だ。この中から最適なものを選べるので成功確率が上がり、利益を増やせる」と明解だ。従業員を資本ととらえる人的資本と同じように、トークン使用量はコストではなく、利益を生み出す資本と理解すればいい。

with AIで心地よい協働

稼ぐ力を高めるには、人とAIが心地よく協働できる「with AI」の組織をつくることだ。従業員をAIに置き換えるというより、AIを使いこなす従業員を増やすことが重要になる。従業員一人一人がどれだけAIを使いこなせるかが会社全体の収益力を決める。こうなると、AIは従業員が身につけるべき標準スキルといえる。「嫌い」では済まされないのだ。

with AIとは適材適所だ。AIが苦手なことといえば、相手の心をくみ取ったり心を動かしたりする共感、倫理的な判断、ゼロからの創造、イレギュラーな対応など。これらは従業員が担えばいい。どんなにAIが成長しても、人にしか生み出せない価値はある。一方でAIが得意とする大量のデータ処理や規則的な反復作業などは任せればいい。張り合っても勝ち目はないからだ。組織の生産性を引き上げるにはwith AIに尽きる。餅は餅屋だ。

だからこそ、経営者にはAIリテラシーが欠かせない。適材適所の配置がチームパフォーマンスを飛躍的に高められるかもしれないし、組織にはびこる沈滞ムードを一掃する起死回生の一手になるかもしれない。福本氏に何でもこなせるAIの扱い方を聞くと、「『嘘、忖度、本質的ではないことをするな』と指示している」と返ってきた。AIを使いこなすコツだ。

 

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