第52回
シニアはキョウイク、キョウヨウを ~労働力人口の支え手になれる~
イノベーションズアイ編集局 経済ジャーナリストM

多くの企業が人材不足に悩まされている。しかも深刻だ。少子高齢化で生産年齢人口(15~65歳)が減少しているのだから当然といえば当然だが、一方で労働力人口(15歳以上の就業者と完全失業者の合計)は2025年に初めて7000万人を突破した。
総務省が1月30日に発表した労働力調査で分かった。女性や65歳以上の高齢者の労働参加が進んだためだ。この動きをもっと加速させたい。
それから2週間後、人材サービスのスタッフサービス・ホールディングスから「アラウンド古希(65~74歳)」の生きがい、働きがいに関する意識調査」というニュースリリースが送られてきた。見出しには「働く人の7割が今の仕事に満足感・充実感、働く人ほど生きがいを実感」とある。同世代として目を通さないわけにはいかない。
アラウンド古希の男女800人(働いている人400人、働いていない人400人)を対象に調べたところ、働いている人の74.3%が今の仕事に満足感と充実感を得ているという。働いている理由は「生活のメリハリのため」(84.7%)が1位。「生活費を稼ぐため」(81.9%)、「健康・体力維持のため」(79.7%)が続いた。
退職後の居場所をつくる
読み進めていくうちに、こんな記憶が蘇ってきた。取材でお世話になった企業の広報担当者が発した言葉だ。「私にはキョウイクとキョウヨウがある」。
退職のあいさつに来てくれたときだった。いきなり、しかも誇らしげに話すのでカチンときたが、察したのだろう。すかさず「キョウイクとは『今日、行くところがある』、キョウヨウとは『今日、用事がある』。会社を離れると、これが大事になる」と退職後の生き方を教えてくれた。
目的をもって外に出ることが退職後の生きがいになるというわけだ。会社を離れると、「肩書」がものをいう社会とは縁が切れ、スーツを着る機会は減り、慣れ親しんだ名刺も不要になる。毎日顔を合わせていた同僚とも会わなくなり、社会とのつながりが希薄化する。生活は不規則になりがちで、運動不足も懸念される。
リタイア直後は新しい生活を楽しめても、やがて家庭以外の居場所と出番が欲しくなるという。現役時代の生活水準を維持するため働かざるを得ないという人もいるだろう。
70歳過ぎても働き続ける
昨今のアクティブシニアは生き生きとしている。仕事だけでなく、スポーツや旅行、釣りといった趣味、日常生活にも生きがいを見いだしながらポジティブに過ごす人が多い。70歳を過ぎても働き続ける人が増えている。スタッフサービスの調査はまさに、アラウンド古希は働くことでキョウイクとキョウヨウを手に入れられることを明らかにした。
だからなのだろう。働いている人の79.7% が今後も働きたい意向を示した。その理由を聞くと「健康・体力の維持」(87.2%)、「生活にメリハリ」(87.0%)がともに8割を占めた。金銭的な理由も上位に入った。生きがいを感じているのは、働いている人が77.9%で、働いていない人の63.9%を14.0ポイント上回った。生活満足度でも10ポイント程度高かった。
一方で、働きたくない理由の1位は「趣味や自分の時間を大事にしたいから」で80.4%に達した。自分のための時間を大切にしたいということなので、これもキョウイクとキョウヨウといえる。
人材不足が深刻化する中、企業は多様な人材活用の一環として、女性や外国人とともに、キョウイクとキョウヨウに目覚めるシニアを活用しない手はない。働く意欲があり、技術やノウハウ、スキルといった能力も備わっている。人脈も持っている。人生経験が豊富なため、若手や外国人の教育係にも打ってつけだ。
働きやすい環境整備でシニア雇用
こうした優秀人材は引く手あまただろう。「選ばれる企業」にならなければ誘っても断れられるだけだ。そのためには何が必要か。調査では、働くことへの不安や障壁についても尋ねている。「年齢により採用されにくいこと」が71.4%でトップだった。また、働くために必要な条件・環境については「自分に合う働き方(勤務時間・場所)ができること」が63.5%で1位。「自分のペースで働けること」(61.4%)、「体力的に無理のない業務内容や環境であること」(60.4%)と続いた。
働いている人の41.0%が「パート・アルバイト(継続的に勤務)」であることからも明らかだ。確かにフルタイム勤務は体力的に厳しい。健康面でも不安がつきまとう。高齢になれば足腰は弱くなり、転倒リスクは高まる。重いものを持ち運んだり、高いところで作業したりすることも難しくなる。とっさの判断力も鈍くなる。
しかし、企業側が自動化・ロボット化、IT化などに取り組み、安全・安心で働きやすい職場環境を整えれば、不安は解消される。シニアが懸念する「年齢の壁」を取り払うことで、キョウイク、キョウヨウを得られる労働市場への参入はますます増えるはずだ。
シニアは就労機会を得ることで収入という経済的安定に加え、社会参加という生きがいと自己実現を目指す生き方、さらに健康維持・老化防止を手に入れられる。企業は人材不足を解消できるだけでなく、経験豊富な人材を即戦力として確保できる。
社会への影響も大きい。人生100年時代の今、本人の希望に応じて働き続けられる「生涯現役社会」が実現すれば、高齢者は社会保障の受け手から、現役世代の一員として支え手に代わる。税金も払う。
高齢者、企業、社会の三者にそれぞれメリットをもたらす「三方得」を間違いなくもたらす。シニアはキョウイクとキョウヨウを求めて外に出よう。
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