第1回
「着替え」は労働時間? 判断のカギは「形式」ではなく「実態」
サポートプラス社会保険労務士事務所 長橋 知世
「制服への着替え時間は労働時間に含まれるのか」「就業時間後の研修は残業として扱う必要があるのか」「仮眠時間や待機時間は給与を払わなくてよいのか」――。こうした疑問は、人事・労務管理の現場で判断に迷うことが少なくありません。
厚生労働省は、着替え時間や研修・教育訓練、仮眠・待機時間などについて、労働時間に該当するかどうかの考え方を示しています。共通する判断基準は、「形式」ではなく「実態」です。名称やルールだけで判断するのではなく、労働者が実際に使用者の指揮命令下に置かれているかどうかが重要になります。
今回は、実務で迷いやすい代表的なケースを見ていきましょう。
着替え時間は、着用義務の有無や場所の選択がポイント
制服や作業着への着替え時間は、一律に労働時間となるわけではありません。
例えば、制服や作業着の着用が任意であったり、自宅から着用して出勤することが認められていたりする場合には、労働時間には該当しません。着用するかどうかや、どこで着替えるかを労働者自身が選択できることがポイントです。
「自由参加」の研修でも注意が必要
就業時間後に実施する勉強会や研修・教育訓練も、業務上義務付けられていない自由参加であれば、原則として労働時間には当たりません。
例えば、夜間の勉強会で弁当を提供していても、参加を強制せず、不参加によるペナルティーがない場合には、労働時間には含まれません。
ただし、「自由参加」としていても、実態によっては労働時間として取り扱う必要があります。
例えば、研修内容が業務で取り扱う商品の説明を中心としている場合や、後日レポート提出を課される場合、さらに参加できるよう使用者がシフトを調整している場合などは、「事実上参加が強制されている」と判断される可能性があります。
仮眠時間・待機時間も実態で判断
仮眠時間や待機時間についても、考え方は同じです。
電話対応や来客対応の必要がなく、実際に業務を行うことがない場合には、労働時間としなくてよいとされています。
また、夜間の緊急対応当番として社用携帯電話を持ち帰宅した場合でも、自宅で自由に過ごすことが認められていれば、その待機時間は労働時間には該当しません。
呼び出しに備えている状態であっても、行動の自由が実質的に確保されているかどうかが判断の分かれ目となります。
社労士から一言
着替え・研修・待機、いずれについても「任意です」「自由です」という説明だけで終わっている会社をよく見かけます。しかし実際に確認が入ったときに問われるのは、そのルールが実態と合っているか、そしてそれを客観的な証拠で説明できるかどうかです。まずは社内ルールを明文化して周知し、本人が内容を理解・同意したことが分かる記録(署名入りの案内文や同意書など)を残しておくと安心です。そのうえで、現場の運用がルールどおりになっているかを定期的にチェックする仕組みを持っておきましょう。
まとめ
着替え時間、研修・教育訓練、仮眠時間、待機時間は、それぞれ異なる場面のように見えますが、労働時間に該当するかどうかの判断基準は共通しています。
重要なのは、「形式」ではなく「実態」です。実際の運用がルールどおりになっているかを確認し、客観的な記録で説明できるようにしておくことが、適正な労働時間管理につながります。
詳しくは、厚生労働省の「労働時間の考え方:『研修・教育訓練』等の取扱い」を参照してください。
・労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い(厚生労働省)
・「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方(厚生労働省)

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プロフィール

長橋 知世
サポートプラス社会保険労務士事務所
株式会社With us 代表取締役
女性の採用「ララワーク」
女性起業家コミュニティ「ララ・コンシェルジュ」
一般社団法人日本アンコンシャスバイアス協会 代表理事
静岡県立沼津東高校卒
立教大学社会学部観光学科卒
一般企業、商業高校の教員として勤務したのち、出産を機に退職し家庭に入る。
2児の子育てが落ち着いた45歳で社会保険労務士資格を取得。
2018年に横浜で社労士事務所の開業に至る。
女性活躍社会の実現を目指し、女性起業家コミュニティ「ララ・コンシェルジュ」を立ち上げ、一年でメンバーを100名とする。
子育てもキャリアだと認められる社会を目指し、女性に特化した人材紹介事業「ララワーク」を立ち上げ、企業とのマッチングを進めている。
一般社団法人日本アンコンシャスバイアス協会代表理事として、多様性が尊重される社会の実現を目指し、企業向け研修や認定講師養成講座を実施している。
Webサイト:サポートプラス社会保険労務士事務所
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