よどみのうたかた

第52回

静岡でもリニア着工だが、これからが本番

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

JR東海が早期の開業を目指すリニア中央新幹線で、県単位では唯一着工していなかった静岡県内の工事か、年内にも始まりそうだ。静岡県は県内の工事区間「静岡工区」の着工を認めてこなかったが、今年の7月7日に鈴木康友知事が着工を容認。工事向けた許認可などの法的手続きが完了すると、ようやく着工できるようになる。

静岡工区は、静岡市の最北端にある。標高3000メートル級の山々が連なる南アルプスの地下に25キロメートルに及ぶトンネルを掘るのだか、このうちの約9キロメートルが静岡工区となっている。

ちょうどこのあたりは、静岡県中部を流れる大井川の水源地でもある。十数件前にJR東海は「トンネル工事によって大井川の水が最大毎秒2トン減少する」と試算した。これに、当時の知事だった川勝平太氏が猛反発。大井川の水は命の水だとし、「命の水を守る」ために着工に待ったをかけた。

それから約10年。JR東海は2027年としていたリニア開業も途中で断念し、静岡県との交渉を続けてきた。

2024年春、潮目が変わる。リニア着工に立ちはだかった川勝氏が自身の不適切発言で突如辞任。これに伴って行われた知事選で、大井川の水問題や環境問題とのバランスをとりながらのリニア推進を掲げる鈴木氏が当選した。それから2年で着工容認まで漕ぎ着けた。

この流れを見ると、リニア着工に対する知事の意見の違いで状況は変化し、川勝氏はいたずらに着工を遅らせたかのようにも見える。そういう面もある。しかし、実際には川勝氏の役割は大きかった。

JR東海などの事業者が大規模な工事を行う際には地元の自治体と「自然環境保全協定」などの協定を結ぶ。JR東海は静岡県ともそうした協定を結ぶが、この内容は国内でも最も厳しい内容だとされる。JR東海にとっては、ここまでやらなくてはならないのか、といった感じだろう。

そうした対策が実施されることになった原動力で功労者は川勝氏だった。そのまま一般的なレベルでスルッと協定を結んだら、それこそ大井川の水が減少するリスクは今より高かったことだろう。

対策が重厚に講じられることになった今でも、リスクはゼロではないのだが、鈴木氏の着工容認は、補償も含む多くの約束の末のものだったと言える。

リニアの開業に向けた品川ー名古屋間の工事は静岡県を除く1都5県で始まっている。それらの都県の中では、地下水位が低下したり、地番沈下やため池の水が枯れたりといった事例もでている。リニアは地下鉄並みにトンネルが多いので、そういうことが起きがちだ。

スルッと協定を結んだのかどうかはわからないが、沿線では今後もそうした現象は起きるのだろう。

ただ、静岡県を除く1都5県はリニア開通によるメリットも大きい。各県には駅ができ、駅を起点にした経済効果が見込まれる。その点、静岡県には駅はできない。南アルプスの地下を約9キロ程度トンネルで通り抜けるだけだ。川勝氏の「静岡県になんのメリットもない。(水問題などの)デメリットしかない」という発言は、いまも静岡県民に根付いている。

でも、静岡県にメリットがないわけでもない。静岡県内には6つの駅があるもののどこにも停まらない東海道新幹線の「のぞみ」の利用者がリニアに移ることで、満杯状態にある東海道新幹線のダイヤに余裕ができる。その分を静岡県内の駅に停まる「ひかり」や「こだま」に振り向けることができるためだ。

着工容認で、静岡県のリニア問題は大きな節目を迎えた。しかし、静岡県にとってはこれからが本番。スタートでもある。JR東海と約束した水資源や環境の保全を励行してもらうとともに、リニア開業後は東海道新幹線の県内停車増と地域振興をお願いしていかねばならない。

静岡県民はのんびりしているだけに、ちょっと心配ではある。

 

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