よどみのうたかた

第56回

物価の上振れリスクになぜAIが?

イノベーションズアイ編集局  経済ジャーナリストA

 

AIは生産性を高め、将来的には物価を押し下げる、とされてきた。そうした予想は引き続き有力なのだろうと思うが、今年あたりは少し違った現象も起きている。

AIへの大きな投資や急速な普及で半導体や記憶装置、電力、銅などの金属、通信設備などの需要が拡大。それらの価格上昇がパソコンや電子機器、自動車その他の幅広い産業分野のコスト上昇にも波及しているためだ。

日銀も今年7月の「経済・物価情勢の展望」で、AI関連需要の増加に伴う半導体価格の上昇と円安の影響によって、今年度後半以降、消費者物価が2%を上回る可能性を示している。

米国では、アマゾンやマイクロソフト、アルファベット(Googleなど)、メタ(Instagramなど)、オラクルの5社だけで約8000億ドル(約130兆円)規模の設備投資が見込まれ、関連株が世界の株式市場を乱高下させている。そしてそれらの投資の大部分がAI関連に向けられる。この巨額投資が、世界中から半導体や関連部材を吸い上げているということらしい。

日本は、AI向けの高性能半導体の多くを海外からの輸入に頼っている。それら自体やそれらを使う電子機器の価格上昇に、折からの円安が拍車をかける。さらに、AI向けのデータセンター投資となると、半導体やサーバーなどに加え、電力や通信、冷却設備などの需要拡大につながっていく。

AIのコスト上昇は、AIを直接開発している企業だけの問題ではなく、自治体や企業が購入する一般的なIT機器にも及んでいる。

こうした状況に関し、日銀の氷見野良三副総裁は講演の中で「(AIの裾野は)思っていたより広い」と指摘している。

一例として、データセンターを建設するためには大量の銅線が必要となる。銅需要が増えれば銅の価格は上昇するが、一方では海外の銅鉱山が動き、鉱山開発に使われるパワーショベルの需要まで増える。そうした機械類や半導体製造装置、各種部品の世界シェアが高いアジアや日本の地方企業にも注文が入り、地域経済を押し上げる。さらにAI関連の好況で潤った台湾や韓国からの観光客の消費が増える…。

いろいろ辿ると、こういったことが起きているのだという

電力には課題がある。データセンターの増加によって、日本の電力需要は昨年度から2035年度までの10年間に約5%増えるとの予測がある。

増加する電力量は560億キロワット時を超えるとの試算があり、これは人口減少や省エネで減少する電力量を上回る規模だ。こうした分野の投資も増えてゆくことになるかも知れない。

というわけで、日銀がAI関連の動向に注目し「物価の上振れリスクにこれまで以上に注意する必要がある」と言っているわけがよく理解できた。

実感としても物価は上昇しているが、それはイスラエルと米国のイラン攻撃やロシアのウクライナ侵攻などに伴う資源高、穀物高とか、円安の影響が大半かと思っていた。

もちろん、逼迫する半導体需要にAIが拍車を掛けていることは承知していた。そろそろ買い替えたいと考えていたスマートフォンやスマートウォッチが、グズグズしているうちに部品の高騰と円安とかで数万円も値上がりし、困っている。

AIに関連する多様なものの値上がりは特需的な面もありそうだ。ただ、そう簡単には落ち着かないのだろう。数年はこうした状態が続くかも知れない。

収入は増えないが、物価は上がる。買い替えたいスマホは考えているうちに壊れそう。微かな貯金を運用する投資信託は驚くほどの乱高下…

せめて、AI発の世界的なバブル崩壊とかは勘弁してほしいものだ。2000年代の“ITバブル”とその崩壊を経験した世代にとってはちょっと怖い。AI関連の盛り上がりがバブルかどうかはわからないのだが。

 

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