海外駐在員の税務

第2回

海外駐在員に支給する退職金の日本の税務

三河 康治 2019年6月12日
 

近年、多くの日本企業は、海外にビジネスチャンスを求めて、自社の役員や従業員を海外の子会社や支店などに派遣していることもあり、海外で活躍している日本人が著しく増加しています。

そのような状況の中、海外赴任期間中、日本に帰任することなく日本企業を退職する海外駐在員も増えてきています。海外駐在員の退職の原因として、例えば、貴重な海外赴任経験を持つ者を求めて他社が好条件を提示し有能な人材の引き抜きを行ったり、海外赴任期間中に赴任地国で築いた人的ネットワークに基づいて起業したりするケースなどがあります。


多くの日本企業は退職金制度を有しており、海外赴任期間中に退職した海外勤務者に対しても退職金を支払うケースが見受けられます。非居住者に支払う退職金については、日本の所得税法上、特別な取扱いが用意されています。


海外駐在員は、一般的に、日本の所得税法上の非居住者に該当します。このような非居住者に支払う退職金については、日本企業に対して、その支払いの際、国内源泉所得につき20.42%の税率による源泉徴収義務を課しています。国内源泉所得とは、海外駐在員が日本企業の従業員である場合には、その退職金の支給総額うち国内勤務期間に対応する部分の金額です。また、海外駐在員が日本企業の役員である場合には、国内勤務期間や海外勤務期間にかかわらず、原則として、その退職金の支給総額が国内源泉所得とみなされることになります。


一方、日本の所得税法上の居住者に対して退職金(特定役員退職手当等を除く。)を支払う場合には、その居住者から「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けたときに限り、その支払いの際、その支給総額から勤務期間に応じた退職所得控除額を差し引いた後の金額の2分の1に相当する金額につき、居住者の累進税率により源泉徴収をすることになっており、居住者は、非居住者より退職金に関する税負担の面で有利となる場合があります。


このように退職金を受け取る人の居住形態によって、その支払いの時における日本の税負担が異なります。一般的には、長い期間国内勤務をしていた者が海外赴任先で退職するような場合には、居住者として退職金を受ける場合に比して、その支払い時の税負担が重くなる傾向があります。そこで、非居住者と居住者の間のこのような税負担の違いを調整するため、非居住者自身の選択に基づき、居住者と同様の税額計算を行うことが認められています。

これは、非居住者による「退職所得の選択課税」制度と呼ばれているものです。


「退職所得の選択課税」制度は、通常、この制度の適用を受けた場合に算定される税額が非居住者としての源泉徴収税額よりも少ないときに、その差額分の還付を受けるために利用されますが、この制度を利用するか否かについては、納税者の任意です。


「退職所得の選択課税」制度を利用するためには、退職金の支払いを受けた翌年1月1日(又は退職手当等の総額が確定した日)以後に、税務署長に対して所得税の確定申告書を提出し、既に源泉徴収された税額の全部又は一部の還付を受ける必要があります。

なお、「退職所得の選択課税」により税額計算する際は、主に以下の点に留意が必要です。

✔ 扶養控除、配偶者控除、基礎控除等の所得控除は一切適用できないこと

✔ 税額計算の対象となる退職金の金額は国内源泉所得部分ではなく、その支払い総額が対象となること

✔ 非居住者が日本において確定申告をする時は、一般的には、納税管理人を選任して、その納税管理人を通じて申告する必要があること


海外駐在員が海外赴任期間中に退職するような場合には、退職金について源泉徴収された税額を取り戻せる場合がありますので、検討してみてはいかがでしょうか。また、すでに退職された方でも、税法に規定する時効が成立していない限り所得税の還付申告が可能ですので、あきらめる必要はありません。

 
 

プロフィール

朝日税理士法人
税理士、マネージャー 三河 康治(みかわ やすはる)


1988年中央大学商学部卒業後、
1990年大手外資系会計事務所に入所。同年税理士試験合格。
2007年朝日税理士法人に入所、現在に至る。


主として外資系内国法人の法人税務業務および外国人派遣社員・海外駐在員の税務コンサルティング業務を担当。

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