「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第306回

最低賃金引上げに対応する前向き投資

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 




最低賃金引上げに対応する前向き投資

最低賃金が全都道府県で1,000円の大台に乗りました。「労働分配率が既に上限値に近い中小企業には、これ以上の賃上げは難しい」との声も聞こえ、実際にその通りと感じます。しかし原因である諸物価高騰の理由を探ると、このトレンドが収まり諸物価が落ち着くとは考えられません。会社の持続・発展を願うなら賃上げに対応するしかないと考えられます。今回も、このトレンドに中小企業がどのように対応するかについて考えていきます。



「じっと耐える」戦略は通用するか

賃上げトレンドにどう対応するか?中小企業経営者の話を聞くと、大きく2つに意見が分かれていると感じます。1つは「事業環境の変化には対応するしかない」という意見、もう1つは「苦難は過ぎ去るのでじっと耐えるのが一番だ」との意見です。

両者の意見に傾向があるかというと、そうでもなく、成長企業でも安定企業でも、比較的若い企業でも伝統のある企業でも、儲かっている企業でもそうでもない企業でも、それぞれ2つの意見を持っている経営者がいるように感じられます。


一方で、諸物価の高騰が収まり、ひいては元の水準に戻っていくか否かについては、懐疑的にならざるを得ません。原材料やエネルギーなどが供給不足あるいは投機により値上がりした分は沈静化して以前の水準に戻る可能性がありますが、今まで日本では投機の対象とはされていなかった商品等が対象化したことによる高騰は歯止めが効かないのです。

加えて「失われた10年、20年、30年」などにより世界標準価格よりも安価に抑えられている首都圏マンションをはじめとした諸物資・サービスの需要が国際的に急拡大しており、こちらも歯止めが効きません。これらに伴い「我が社は薄利多売がモットーだ」との信念のもと安価に抑えられていた商品・サービスの価格までも高騰せざるを得なくなっているのです。


とすると、全ての企業は賃上げに対応していく、そのために自社が儲かる体質に変わっていく方向に舵を切ることが勧められます。価格転嫁をはじめとして、販路開拓やリピート購買の推進など「儲かる企業」を目指して本腰を入れて取り組んでいくのです。



「儲かりたい」との思いを前向き投資で表現する

「儲かる体質に変われと言われても、中小企業には難しい。理論上は手があっても、それを打つ力がないのだ。」そうでしょうか?構造不況業種でも、あるいは活力が低下している地域にあっても、十分な売上・利益をあげている企業があります。販路を失い退出した同業者顧客の求めに応じて売上・利益を広げる企業さえ、あります。


さりとてそのような企業は「座して待っていたことで」新たな需要が飛び込んできた訳ではありません。新製品や新サービスを提供したり、販売チャネルや課金方法などを工夫して新たな需要を掘り起こしたのです。

「それは資金があるからだ。我が社には資金がなく、借入もできないから無理なのだ。」このような声に稀代の経営者、松下幸之助なら「まず『儲かる企業に生まれ変わりたい』と強く思わなければなりまへんな」と言うでしょう。


収支ぎりぎりの企業が賃上げに対応すると、資金は流出するばかりでしょう。持続化のため資金調達せざるを得なくなる時が訪れます。その時に金融機関は前向きに検討してくれるのか?2重の意味で難しいと考えられます。赤字等による流出の補填という資金使途には応じ難いことに加え、資金枯渇によるデフォルトを見越さざるを得ないタイミングになっているからです。


「儲かる企業に生まれ変わりたい」と強く思う企業は、そのためにできることを前のめりで丹念に検証するでしょう。価格転嫁が可能ならすぐに実施します。「経費削減」はインターネットやAIを含むIT活用により飛躍的な効果が見込める可能性があります。「売上増大」にも威力を発揮するかもしれません。

技術進歩により中小企業にとって使い易い、効果の出し易いITシステムやサービスが増えてきました。積極投資により売上・利益を増やし賃金を引き上げられる可能性があります。


そのような積極投資のための資金を、資金が枯渇するタイミングよりも十分に前に、的確な計画を立てて実行の意欲を見せながら申し込むと、金融機関の支援が得られるかもしれません。金融機関担当者のほか、地域のよろず支援拠点などに相談してください。Stratecutionsでもご相談に応じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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【筆者へのご相談等はこちらから】

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なお、冒頭の写真はChatGPTにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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