「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?

第147回

自己資本増強共済の創設を提案します

落藤 伸夫 2021年2月1日
 



コロナ禍が日本で始まって1年が経ちました。1年前はまだ、中国武漢で起きた地域的な疫病がたまたまクルーズ船によってもたらされたという認識で、このように日本中に広まって経済に大打撃を与えることや、それが世界的に広まって今世紀最大のパンデミックになるとは思いもよりませんでした。しかし1年が経ち、その影響は世界に、そして私たちのビジネスにも生活にも大きな変化をもたらしています。


コロナ禍で苦しむ中小企業への支援制度について、これまでいくつかの提案を行いました。本コラムのテーマが資金調達なので、融資や信用保証に係る特別対応が中心でした。一方で、ここに来て、中小企業が普段から体質強化、すなわち自己資本の強化に努めるべきであると強く思うようになりました。今回は、中小企業が自己資金により資本増強するよう促す「自己資本増強共済」の創設をご提案します。



「他人資金による資本増強策」は用意された

中小企業は総じて財務基盤が脆弱だと言われています。2019年の中小企業白書に掲載された統計によると、中小企業の純資産は平均で1億4663万円だが、中央値は686万円で、債務超過企業も少なくないと指摘されています。コロナ禍で売上が激減するも固定費の流出が止まらない企業の多くが債務超過に陥ってしまったことは、想像に難くありません。


債務超過に陥ると、企業の資金調達は非常に困難になります。今世紀初頭の金融危機で少なからぬ金融機関が破綻したことを受けて金融検査マニュアルが策定されました。そこで金融機関には信用格付による融資判断が求められ、その目的はもちろん不良債権の排除にあったので、債務超過に陥った企業への融資には慎重になるよう促されました。あれから20有余年、金融機関には「債務超過の企業に融資ができない」という感覚が刷り込まれていることでしょう。


このようなメンタリティを持つ金融機関に、企業を支援するよう仕向けるにはどうすれば良いか?一定要件を満たすことで資本金とみなせる「資本性劣後ローン」が用意されました。終期が近づくと資本とみなせる額が減少するなどの制約はありますが、擬似的に自己資本とみなすことができるお金を調達できることで、多くの企業の金融の道が拓けました。他人の資金でもって自己資本増強できる制度が用意されたのです。



自己資金による資本増強はなぜ進まないのか

ここで一つ、疑問が湧きました。「他人資金を自己資本とみなせる資本性ローンが用意されたが、そもそも、自己資金でもって資本増強を促すことはできなかったのだろうか?」という疑問です。毎年の決算で利益が出て、税金を払った後に残った金額が自己資本に計上されます。その中央値が約700万円とは、いかにも少な過ぎます。これを増やすよう促すことが必要です。


全ての企業が利益を出せない状況ので自己資本を積み増せないなら、仕方のないことです(これはこれで、大きな問題ですが)。しかし多くの企業が「節税策」をとっていることで資本金を積み増せないなら、策が打てると考えられます。節税策の一つとして少なからぬ企業が経費を膨らませていますが、これが咎められることはありません。節税意識によって行われたIT導入により生産性が向上するなら、それは企業にとって歓迎すべきことなのだ、という解釈も可能でしょう。



自己資金による自己資本増強を目的とする共済を

これと同様に、自己資本の積み増しを税引き後ではなく経費化できる制度があれば、もっと活用されると考えられます。例えば、企業が資本を取り崩す事情として極めて限られた事由しか認めない金融商品を用意し、それへの出資については経費処理を認めることで実現できます。中小企業基盤整備機構が現在「小規模企業共済」及び「倒産防止共済」を提供しているので、第3の制度として「(仮称)中小企業自己資本増強共済」を準備し、当該共済に積み立てた資金は利益剰余金の一種として自己資本とするのです。際限なく積み立てられるのは妥当性を欠くなら「資本金の10倍まで」などの制約を設けるのが適当ではないかと考えられます。


自己資本強化は、本来は中小企業自身が経営感覚でもって推進してもらいたいところですが、それが今まで進まなかったので、経費化つまり税負担軽減というインセンティブを与えて推進することを提案します。「中小企業に甘いのではないか」という批判もあると思いますが、この制度により財務体質の強化と資金調達の円滑化というメリットがあること、また他人からの資金でも自己資本に換算できる「資本性ローン」がある中、企業自身が積み立てた資金を資本として扱う制度が不当にバランスを欠く制度とは考えられません。中小企業が自力で財務基盤を強化できるよう、「自己資本増強共済」を設けて金融行政上の措置を行うことを、中小企業の財務基盤強化のため、強く提案します。




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本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。

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なお、冒頭の写真は写真ACから Beruta さんご提供によるものです。Beruta さん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


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