「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第31回

中小企業金融の行方

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
先日、あるコンサルタントの友人と、中小企業金融のこれからについて話をする機会がありました。「捨てられる銀行」で説明されていた森長官率いる金融庁の動向や、事業性評価の推進などについてです。


「事業性評価融資」に否定的な意見

そのコンサルタントは、この動きに対して否定的な意見でした。「金融機関に、中小企業の事業性を評価する能力はない」というのが、彼の主張の根拠です。このため、金融庁の取組みは結局は成功しない、信用保証協会を活用して中小企業にあまねく資金を融通させるという今までのやり方を変えるのは現実的ではないという意見でした。

現時点の実態でいうなら、このコンサルタントの意見にはもっともなところがあります。中小企業の事業性(敢て言い換えれば「潜在能力」と表現できるでしょうか)を評価して融資するのは金融機関にとっては難しい仕事だと思います(というか、誰にとっても難しい仕事です)。


否定的になる理由

金融機関は10年以上にわたって「格付け」によって融資判断するよう、促されてきました。端的にいえば、財務諸表を分析して、そこで出た結果でもって融資の可否を決めるのです。企業の実態を見、将来性があると認めて融資(当時はその言葉はありませんでしたが、「事業性評価」の一形態と言えるでしょう)したとしても、結果的に企業がうまくいかなくなった時には、財務諸表をもとにした「格付け」をベースに融資判断しなかったことを厳しく指摘される状況でした。

このようなことが10年以上にわたって続いてきたことで、企業をしっかりと観察して財務諸表に現れていない魅力にも着目して融資判断する能力が金融機関から失われてしまったといっても過言ではないでしょう。


事業性評価融資に備えた方が良い理由(その1)

しかし、だからと言って、「事業性評価融資を推進する金融庁の取組みは頓挫する。信用保証協会を利用した『広くあまねくの融資』が続くので、中小企業としてはこれに対応する必要はない」と考えてしまうのは、危険ではないかと感じています。それがもし、実現してしまった場合に対応できなくなるからです。

このコラムの第3回目記事でもご説明した通り、信用保証協会を利用した『広くあまねくの融資』は、非常に大きなコストがかかっています。国は平成20年度から26年度まで、信用保証制度をバックアップする信用保険制度を運用する日本政策金融公庫に約4兆8千億円の資金を投入しています。一方で、それで中小企業が元気になったかというと、もしかすると難しいかもしれません。赤字企業の割合は改善していないし、企業数も減るばかりだからです。

こういう状況下、中小企業庁が「金融と経営支援の一体的な推進 」を打ち出し、金融庁が事業性評価融資を推進するよう声掛がけすることは、とても理に適っています。「理屈だけではうまくいかないことは多い」とは、おっしゃる通りです。しかし、理屈に合っていることを、成果が出るかどうか分からない前に取り下げるのも難しい話です。という訳で、この政策はしばらく推進されると予想されます。


事業性評価融資に備えた方が良い理由(その2)

事業性評価融資に備えて中小企業の側が対応をとった方が良いと思われるもう一つの理由、そして最大の理由は、それが企業にとってメリットになると考えられるからです。

万が一、金融機関が「事業性評価」でもって融資判断しようとした場合に、中小企業には何が求められるでしょうか?借り入れた資金でもってどんなビジネスをし、どのような成果が得られるか(数値目標)を明確に示した事業計画書が求められると思います。現状が赤字の企業の場合には、なぜ今回の取組みでは収益が見込まれるかをしっかり説明することになるでしょう。単なる希望的観測では金融機関は納得しないでしょうから、取組みと期待できる成果をしっかりと検討し、分かりやすい資料にまとめあげる必要があると思います。

このような取組みの効果は、単に「資金調達できた」にとどまりません。金融機関のお眼鏡にかなう計画を立てれば、自社としてやるべきことがしっかりと分かります。今まで事業改善に「なんとなく」取り組んできた企業も、事業計画書があれば、数値目標に向けて社内の力を一点に集中させることができるでしょう。数値目標に照らして成果を客観的に評価し、取組みにフィードバックすることもできます。事業性評価融資に対応しようとして行った対策は、自社の業績アップという成果につながる可能性が高いのです。

以上の理由から、事業性評価融資には、中小企業としても前向きに、積極的に対応していくのが良いのではないかと思われます。「とはいえ、自分一人で取り組んで行くのは難しいよ」と思われるかもしれません。そう思われるなら、支援者のアシストを受けることも可能です。中小企業金融のトレンドに乗るという意味でも、自社を強く儲かる企業にしていくという意味でも、事業性評価融資に積極的に対応するのが得策です。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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