日本・ASEANだより

第68回

外貨預金の思わぬ落とし穴!為替差益の確定申告リスクとは?

朝日税理士法人  執筆

 

1.外貨建資産の利益は原則として課税対象となる可能性があります

 日本の居住者にとって、外貨建預金は資産運用の一般的な選択肢となりつつあります。しかし、「外貨を円に戻すだけだから、課税対象にはならないだろう」と考える方もいらっしゃるかもしれません。日本の所得税法では、外貨を売却(両替)することによって生じる経済的な利益は、原則として課税の対象となります。

 この為替差益は「雑所得」として課税対象となる可能性があります。これは、外貨を邦貨(日本円)に両替する際、その外貨を「取得した時」の邦貨換算額と、「売却した時」に受け取った邦貨額との間に差額が生じるためです。この考え方は、邦貨で外貨を購入し、それを邦貨に戻す場合だけでなく、外貨を直接邦貨に両替する取引においても、同様の取り扱いが適用されると考えられます。

2. 外貨のまま預け替える場合は原則として課税されません

 重要な例外として、外貨建て預貯金を、同じ外国通貨のまま他の金融機関へ預け替えるなど、実質的に外貨の保有状態に変化がない場合は、その都度為替差損益を認識して課税する必要はないとされています。これは、所得税法が「所得の実現」を重視しており、外貨を円に換えるなどして経済的な価値が確定するまでは課税関係が生じないという考え方に基づいています。

例えば、米ドル預金をA銀行からB銀行へ米ドルのまま移し替える際に、為替レートが変動していても、この時点では為替差益は課税対象になりません。課税対象となるのは、その米ドルを日本円に両替したり、米ドルで資産を購入・売却したりして、実際に所得が実現した時となります。

3.個人の為替差益計算、その困難さと原則

 企業会計では外貨の取得時からの簿価が明確に記録されますが、個人が、その「外貨をいつ」「いくらで」取得したのかを正確に把握するのは、実務上困難な場合が多いかもしれません。しかし、税務上は、為替差損益を計算するために、外貨の取得日付、金額、その時点の為替レートを記録しておくことが求められます。複数回にわたって取得した外貨の取得費の計算には、「総平均法に準ずる方法」が判例でも認められている計算方法の一つです。

 原則として、為替差益が生じた場合には、雑所得として確定申告の義務が生じます。給与所得者で給与所得および退職所得以外の所得が年間20万円以下の場合は申告不要とされていますが、他の雑所得(例えば公的年金等)がある場合は、それらと合算して20万円を超えるかどうかの判断が必要となります。

4.税務当局の監視強化と近時の動向

 近年、個人の海外資産への投資意欲が高まる中で、税務当局の監視体制は一層強化されていると考えられます。特に、「国外財産調書制度」や国際的な情報交換により、税務当局は国外財産状況やそこから生じる為替差損益について、より詳細な情報を把握できるようになっています。

 また、最近の司法判断では、日本円への換金前であっても、海外で異なる通貨間の交換(例:米ドルからユーロへの交換)や、外貨を用いて有価証券を取得した場合にも、その都度為替差損益が発生し課税対象となりうるとの判断が示されています。これは、所得実現のタイミングに関する重要な認識の変化を示唆しています。

対策と推奨事項

この分野は個別の状況に応じた税法解釈が求められる非常に複雑な領域です。

記録の徹底: 外貨建預金を含む外貨建取引を行う際は、外貨の取得日、取得金額、その時点の為替レートなどをできる限り詳細に記録しておくことが重要です。

専門家への相談: 適切な為替差損益の計算と確定申告を行うためには、この分野に詳しい税理士にご相談いただくことを強くお勧めします。個別の状況に応じた的確なアドバイスを得ることが、予期せぬリスクを回避する鍵となります。

出典:

西村あさひ法律事務所・外国法共同事業「居住者に対する為替差損益課税の実務と近時の裁判例〔上・下〕」
国税庁「外貨建預貯金の預入及び払出に係る為替差損益の取扱い」(令和6年8月1日現在)


この記事の提供元:朝日税理士法人グループ


執筆

朝日税理士法人(東京)

 

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