第67回
外国企業との取引で注意すべき「特定納税管理人」制度
朝日税理士法人 執筆
令和4年1月より導入された「特定納税管理人」制度は、外国企業と取引を行う日本企業が知っておくべき重要な制度です。この制度を理解しておかないと、予期せぬ負担や責任を負う可能性があります。
1.PEがなくても申告義務が生じるケース
「日本にPEがなければ、外国企業に日本での納税義務はない」と考えられがちですが、必ずしもそうとは限りません。PEがなくても、以下のような特定の国内源泉所得については、外国企業に日本で法人税の申告義務が生じる場合があります。
・国内不動産の譲渡・賃貸による所得
・日本国内の資産の運用や保有により生じる所得
・日本国内で行われる人的役務の提供事業による所得
・特定の内国法人の株式等の譲渡による所得
また、外国企業が国内で課税資産の譲渡等を行う場合、消費税の課税事業者となるときは、消費税の申告義務も同様に生じます。
2.「納税管理人」の選任義務
日本で申告義務がある外国企業は、国内に住所または居所を有する者を「納税管理人」として選任し、税務署に届け出る必要があります。納税管理人とは、外国企業が日本で税務申告や納税を行う際の代理人です。
3.「特定納税管理人」制度の創設と注意点
納税管理人の選任義務があるにもかかわらず、外国企業がこれを選任しない場合、税務当局が当該外国企業に接触できない可能性があります。
「特定納税管理人」制度は、納税管理人の選任義務を果たさない外国企業がいても、税務当局が納税管理手続きを円滑に行えるようにすることを目的として創設されました。
この制度により、外国企業と取引をする日本企業は、税務当局から、その外国企業(特定納税者)の「特定納税管理人」となることを求められたり、指定されたりする可能性があります。
4.日本企業が特に注意すべき点
①税務当局からの連絡窓口となる義務
特定納税管理人に指定されると、日本企業は、税務当局と外国企業の間で書類の受領・送付を行うなど、「特定事項」と呼ばれる税務に関する事務処理を行う義務を負います。
②指定の拒否は原則困難
特定納税管理人への指定は、税務署長が法令に基づき行うものであるため、原則として拒否することは困難です。
③納税義務は負わないが、協力は不可欠
特定納税管理人は、外国企業に代わって納税申告書の提出や納税に係る義務を負うものではありません。しかし、税務当局との連絡窓口として、外国企業の税務調査等への協力が求められます。
④予期せぬ負担発生の可能性
外国企業の特定納税管理人として指定されることで、本来必要のない事務作業や、税務当局との対応に時間やコストを要する可能性があります。
5.不服申立てについて
税務当局による特定納税管理人の指定は、「国税に関する法律に基づく処分」に該当します 。特定納税管理人の指定に不服がある場合、特定納税者または特定納税管理人は、再調査の請求や審査請求といった不服申立てを行うことができます。また、これらの不服申立てを経た後、行政事件訴訟法等に基づき訴訟を行うことも可能です。
6.今すぐできる対応策
取引先外国企業の税務状況の確認
納税管理人を選任しているかなど、日本の税務コンプライアンス状況を確認する。
契約内容の見直し
外国企業との契約書に、納税管理人の選任義務や税務調査への協力義務に関する条項を盛り込むことを検討する。
税務専門家への相談
国際税務に詳しい専門家に相談し、リスク評価と対策についてアドバイスを受ける。
外国企業との取引はビジネスチャンスを広げますが、同時に税務上のリスクも伴います。予期せぬ形で「特定納税管理人」として指定される事態を避けるためにも、事前の対策と情報収集を怠らないことが大切です。
この記事の提供元:朝日税理士法人グループ
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