「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第304回

経営力と事業力を分けて考える

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


中小企業が持続・発展を目指すアプローチとして本年春に発表の中小企業白書では「経営力」が提案されました。経営力向上計画では「事業力」と同一視されていたと感じますが、本白書では両者を分けた上で経営力に焦点を当てています。今回も中小企業の経営力を考えます。



「経営力」とはどのような力か

筆者も、経営力と事業力を分けて考えています。事業力とは「既に存在する事業の生産性・収益性を向上させる力」で、主に改善(PDCA)を活用して強化します。

一方で経営力とは「社員が集まり、物的資源を集積した会社という存在が、目的や社員の利害、顧客・社会への貢献を高めることで持続・発展を実現する力」で、強化に向けて改善(PDCA)だけでなく革新(OODA)も積極的に活用します。


では、どんな力が経営力に関わるか、白書の指摘も参考に、以下のようにまとめてみました。

① 戦略構想力(Strategic Visioning)

 企業の存在意義・目標・競争優位の方向性を明確にし、実現に向けての道筋を描く力

② 統治・ガバナンス力(Governance & Accountability)

 経営が公正・健全・持続可能に運営されるための統治構造を設計・運用する力

③組織運営・マネジメント力(Organizational Management)

 組織を目的達成に向けて機能させる管理・運営する力

④ 人材・資源活用力(Human & Capital Resource Management)

 企業目的に沿って人・モノ・カネの資源を最適に確保・活用・再配分する力

⑤ ステークホルダー共創力(Stakeholder Co-Creation)

 企業が関わる多様な関係者(社員、顧客、地域、社会)と価値を共創する力

⑤ 革新推進力(Innovation & Change Leadership)

 変化を先取りし、新たな価値を創出する組織的変革を実現する力。人の想い・情念により発揮される力を含む。



「事業力」と区別して考えるメリット

コロナ禍が収束しても今一つ活況を取り戻せない企業あるいは「失われた10年、20年、30年」の影響から抜け出せない企業は「どうしたら我が社は儲かる会社に生まれ変われるのだろうか」と模索していることでしょう。

これを考える上で「事業力」と「経営力」を分けて考えることがポイントになると、筆者は考えています。これまでの取組みが「事業力の向上」にだけ関わる内容で「経営力の向上」は取り組んでいなかった場合、後者も注力することで成果が出るようになるかもしれません。


例えば「我が社には魅力ある製品が揃っているのに売れない。営業力を強化したい」と考えたとしましょう。この時にまず思いつくのは「顧客への訪問回数を増やす」、「顧客面談時に見せるチラシを工夫する」、「インターネットSNSを使った告知策も取り入れる」などでしょう。これらは事業力を向上させるアプローチです。

専門コンサルを導入してこれらの努力を3年継続したにも関わらず成果が出ない場合には、どう考えればよいでしょうか?「コンサルタントを変える」というアプローチがありますが、それも事業力を向上させるアプローチです。


一方で「訪問回数増加、チラシ工夫、SNS活用を全て営業マンに求めると過重負担になってしまう。チラシやSNSは間接部門に担当させよう」と、組織体制を工夫できるかもしれません。営業担当者の離職が激しいなら、恒常的な残業をなくし継続して働ける職場作りを先行させる必要があるでしょう。

どうやって営業マンの勤務時間を短縮して成果を増やすか?例えば顧客を相互紹介する提携契約を取引先と結べるかもしれません。これまでの事業力強化に加えて経営力強化にも取り組むことで、成果に結びつく可能性があります。


白書が経営力に「経営者の成長意欲」を含めたのは卓見と考えています。事業力強化だけでなく経営力強化も目指すパラダイムシフトは、経営者が「この会社をもっと良くし儲けられるようにするには、自分自身が成長するのが一番だ」と覚悟することがスタートとなると考えられるからです。事業力アップだけでなく経営力アップにも想いを馳せてもらいたいと考えています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>




【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/



なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。


 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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