「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第303回

経営力強化に取り組む

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



中小企業はどのようにして持続・発展を目指していけるのか?様々な提案がなされていますが、その一つに中小企業白書が提案するアプローチがあります。白書では毎年第1部で中小企業の動向を概観し、第2部で事例等を紹介しながら時々に即した提案がなされています。2025年の白書は「中小企業の経営力と成長戦略」でした。今回は中小企業の経営力について考えてみます。



「経営力向上計画」で示される経営力の向上策

中小企業の「経営力」とは何か?実は筆者は、この点についてとても興味をもっており、研究しています。そして、そのアプローチは「政府が提唱するアプローチとは異なるのかも」とも感じていました。

政府など公的に「経営力」といった場合に真っ先に思い浮かべるのは「経営力向上計画」でしょう。「経営力向上計画」は人材育成、コスト管理などのマネジメント向上や設備投資など、中小企業が自社の経営力を向上させるベースとなる計画で、認定を受けると税制措置・金融支援・法的支援などを受けることができるとされています。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/pdf/tebiki_keieiryoku.pdf


経営力向上計画の特徴は、「経営力の向上」のため行う策は、政府が予め示した事業分野別指針に則り、それを実現する具体策であることが求められていることです。例えば製造業なら「自社の強みを直接支える項目」として「イ.従業員等に関する事項(例:多能工化及び機械の多台持ちの推進)」、「ロ.製品・製造工程に関する事項(例:実際原価の把握とこれを踏まえた値付けの実行)」、「ハ.標準化、知的財産権等に関する事項」(例:暗黙知の形式知化)」、「二.営業活動に関する事項(例:営業活動から得られた顧客の要望等の製品企画、設計、開発等への反映)」が挙げられています。

従業員20人以下の小規模製造業者なら、以上4事項に列挙される合計11項目のうち1項目以上を選び、その具体策を盛り込んだ計画を策定することで認定が受けられることになっています(中規模製造業なら上記項目から2項目以上プラス「自社の強みをさらに伸ばす項目(詳細は省略)」から1項目以上を盛り込むこととされています)。



2025年中小企業白書で示された、もう一つの「経営力」

このような構成の経営力向上計画を見て筆者は最初に「これは経営力の向上だろうか?事業力の向上ではないだろうか?」と感じました。筆者は、経営力と事業力を分けて考えていて、製造業でシンプルに例えると「工場の製造能力を高めること(工程能力向上)」などが事業力の向上、「何を製造して、誰にどんな価格で売るかについて適切に決定できる能力を高めること(戦略策定能力向上)」などが経営力の向上だと考えていたからです。

一方で、政府の考え方に異論を唱えても全く意味はありません。このため「工場の製造能力向上」も「製造品目、ターゲット顧客、価格等の設定能力向上」も、結局は企業の儲ける力が向上することなので、政府は両者を併せて経営力と考えているのだなと考えていました。


その中で今春の中小企業白書第2部「新たな事態に挑む中小企業の経営力と成長戦略」を読んで「おや」と感じました。そこでは経営力に関わる事項として「経営戦略(例:差別化戦略)」、「経営の透明性・開放性(例:経営理念・ビジョンの共有)」、「カバナンス体制(例:同族企業、パブリック企業、所有と経営の分離企業)」、「人材戦略(例:外国人材採用、副業の容認)」、「経営者の成長意欲(例:経営者のリスキリング)」が挙げられています。

筆者なら以上に「マネジメント」を加えますが、逆に「経営者の成長意欲」が含まれているのは「よくぞここまで踏み込んだな」という感想です。経営支援において「社長が『我が社を儲かる会社にしたい。その能力が我が社にはあるはずなので、それを開花させたい』という気持ちをもっと強く持ってくれると、この会社は大きく変身できるのに」と感じることも少なくなかったので「よくぞこのことを指摘してくれた」と感じました。


儲かる会社にするアプローチとして「事業力の向上」と「経営力の向上」は車の両輪だと考えられます。これまで「生産能力向上に向けた積極投資を行ってきたが、今一つ業績に繋がらなかった(事業力の向上)」という企業は、もしかしたら経営力の向上にも目を向けることで現状打破できるかもしれません。この点で2025年白書は鋭い指摘がなされていると感じています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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