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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第16回

「支援したい」と思わせる事業計画書を作成する(後編)

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
預金という名の借入金を原資とする融資により中小企業を応援している金融機関は、貸出したお金を返済してもらえないという事態はぜひとも避けたいと思っています。このために以前は「格付け」という仕組みで中小企業を選別していました。これは、金融庁の誘導に基づいて導入された制度といえます。しかし、それでは活躍の可能性ある中小企業へ必要な資金が提供されない場合が少なくなかったので、金融庁は今後は「事業性評価」でもって融資判断するよう、金融機関に求めています。


事業性評価の材料となる情報を提供する

事業性評価の時代に、中小企業はどうすれば融資を受けられるようになるのか?評価してもらいたいなら、そのための情報を提供することが必要でしょう。その手段として「事業計画書」があります。自社の長所・短所を踏まえた上で改善に乗り出す戦略・アクションプランを立て、それを実行・実現する決意を事業計画書で表現することにより、事業性評価を行ってもらうことができるのです。

金融機関に事業性評価を行ってもらうためには、事業計画書に企業の「現在の事業内容」と「成長可能性」に関する記載するのが適当でしょう。「当たり前じゃないか。特に指摘してもらうほどの話ではない」そう思われますか?しかし多くの中小企業を支援させて頂いていると、この当たり前のことがきっちりできていないことが少なくありません。というより、とても多いのです。それでは金融機関は、事業性評価を行うことが難しくなります。


情報提供の「あるある」

金融機関との面談に同行した経験からすると、金融機関から「現在の事業状況を教えてください」と質問されると、ここぞとばかり「私は今、(「契約がキャンセルになった」、「取引先からの入金が遅れている」、「多額の支払い期限が目前に迫っている」などの事情で)資金的にとても困っている。融資してもらわなければ大変なことになりそうだ」と熱弁する中小企業経営者が多いと感じています。そして「将来の見込みはどうですか」と質問されると、「貴金融機関からの融資が得られれば、我が社は安泰です。逆に得られないと、大変なことになります」と仰います。


金融機関の受け取り方

もちろん、どの程度の切迫度で資金を必要としているか、伝えてもらうことも大切です。しかし金融機関が本当に聞きたいのは、そういう状況だけではありません。そうなってしまった本質的な問題点はどこにあるのか、それは将来、改善される見込みがあるか、ということです。

例えば「取引先からの入金が遅れている」中で「多額の支払い期限が目前に迫っている」ために融資を得たいと思っている場合で考えてみましょう。経営者は、融資を得なけばならない理由は「取引先からの入金が遅れている」ことや、「多額の支払い期限が目前に迫っている」ことだと考えていることでしょう。だから、融資を受けられたら当社は安泰だというロジックです。

しかし金融機関は、多くの場合、そうは思っていません。「取引先からの入金が遅れている」という状況は、よく起こり得るリスクです。「多額の支払い期限が目前に迫っている」ことは、以前からわかっていることでした。と考えると、本質的問題は、たまたま入金が遅れてもビクともしない財務体質を作り上げることができなかったことだと金融機関は考えています。そしてその原因は、収益性の低さにあることが、ほとんどでしょう。

「預金」という名の「借金」を原資に企業へ融資する金融機関は、収益性の低さが原因で財務体質が弱い企業にお金を用立てるのはとてもハードルが高いと感じるであろうと想像できます。では、そういう高いハードルをどうやってクリアして「この企業なら融資できる」と判断するのでしょうか?以前は、その方法は「保全をつける」ことでした。担保や保証人、もしくは信用保証協会の保証を付けることによって、融資可能と判断していたのです。


事業性とは「儲かりそうか」

しかし今、金融庁は金融機関に対して「事業性評価」を行って融資判断するように求めています。「事業性評価」とは、シンプルに言えば「稼げる可能性が高いかどうかの評価」とでも言えるでしょうか?「この企業は、今は低い収益性に甘んじ、しっかりとした財務体質を作り上げられていない。しかし今、改革を計画してしっかりと実行してくれそうなので、今後は収益も改善し、財務体質も強化されるだろう。返済には問題なさそうだ」と評価できるということを意味しています。そう判断できれば、金融機関としては融資可能だと判断するでしょう。

「そうか、では、我が社が収益があがり、財務体質も改善できることを説得できれば良いのだな。」たぶん、それは違うと思われます。ご自身が、借金を原資に支援しなければならない先の判断をする時に、説得されたいと思うでしょうか?そうではなく、しっかりとした計画書を見せてもらい、自分で判断したいと思うでしょう。


事業計画書に盛り込む内容

そういう気持ちを満足できる事業計画書は、金融機関の判断材料として、「現在の事業内容」と「成長可能性」についてしっかりと情報提供するものです。「現在の事業内容」には、例えば以下の項目が含まれるでしょう。
・今、行なっている事業の概要と、その結果(決算上のパフォーマンス)
・自社・市場・顧客・競合企業の状況などから導き出した、収益が上がらない理由
・現状、取り組んでいる改善策と、それを選んだ理由。その効果

また「成長可能性」には、例えば以下の項目が含まれるでしょう。
・成長のための対応策(戦略・実行計画)と、それを選んだ理由。
・当該対応策を行うための費用と、効果見込み。最終的に当社の財務状況に与える影響
・戦略・アクションプランを実施するための準備状況
・戦略・アクションプランの実行(進捗)状況
・リスク発生時の対処策(当社が諦めずに取り組みを続けるための事前対策)

中小企業金融の新時代において金融機関に提出すべき事業計画書は、金融機関がしっかり「事業性評価」を行うにあたって必要な情報が不足なく記載されている事業計画書です。「自社は、そんなに危ない会社ではありませんよ」と説得する口調であったり、ましてや決算数値を美化するような操作がされている計画書ではありません。「現在の事業内容」と「成長可能性」という二つの観点から、現状から原因分析、対策の立案、実行体制、その成果などをフェアに表現した、金融機関に「事業性評価」の判断材料をきちんと提供している計画書なのです。

 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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