「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?

第143回

社会視点での中小企業論を望む

落藤 伸夫 2020年12月21日
 



大波乱だった令和2年も、あと10日を残すばかりとなりました。新型コロナウイルス感染症対策として中小企業向け支援に莫大な国家予算が投入されたことや、首相が交代して中小企業を含めた産業政策に新たな方向性が示されたことなどを受けて、中小企業向け支援の是非が再び問われている状況です。「ゾンビ企業を延命させる結果になるのではないか」との、ストレートな批判もあるようです。一方で中小企業自身や、中小企業の近くで支援している人材からは、そのような方向性での議論に懸念が示されています。今日は、長年にわたって政策実行の最前線にいた後に、今は中小企業支援の側に回った者として、日頃感じていることをお話しさせて頂きます。


中小企業支援が「よくぞ続いている」との思い

私は1985年から約30年間にわたり日本政策金融公庫(入庫から数度の組織変更がありました)において中小企業信用保険の保険金審査を担当していました。信用保証協会が代位弁済した案件についての保険金請求書の審査、端的に言えば倒産審査です。担当者は100人近く、毎月の審査件数は1人で100件前後、多い時には300件、最高では500件に迫る状況でした。平成21年には保険金支払による保険収支赤字が1兆円、事業を健全に遂行する準備金として1兆円、合わせて2兆円が補正予算から支出され「この制度は持続可能だろうか」と不安に思ったこともあります。一方、中小企業の減少にも歯止めがかからない状況で、平成23年、中小企業政策審議会において企業力強化部会が設置された時、「今後は企業の自助努力に任せ、金融支援は最小限に止める」との結論が出されるのではないかと、固唾を飲んで見守っていました。

その予想は良い方向性で裏切られました。企業力強化部会は平成23年7月に「金融と経営支援の一体的推進(本資料は現在ネット上からは閲覧不能。国会図書館で閲覧可能)」では、地域関係者がネットワークを形成して経営支援して、金融支援の効果を増強していくことが提案されていました。その後「経営力向上計画」や認定支援機関などの制度が創設され、金融庁は「事業性評価」を打ち出すなど、中小企業の体質強化に向けた環境が整備されていると感じられます。今回のコロナ禍において、これまでにない厚い支援により、今のところ中小企業の倒産等は有意に防止されているとの統計結果があります。


中小企業との連携で日本の産業が回っていく

「そうか、政府も中小企業の脆弱性を踏まえて、保護しなければならないとの認識を持っているのだな。」私は、その方向性での認識は、結局は中小企業のためにならず、日本のためにもならないのではないかと感じています。その感覚だと「国家財政が苦しいので、もう弱者救済の金融支援策はできなくなった。中小企業には泣いてもらおう」との結論が出る可能性があるからです。「中小企業は社会に必要不可欠な存在なので、守る必要がある」という認識がベースでなければなりません。「どのように、必要な存在なのか?」令和元年末~2年初頭、中小企業庁で行われた「価値創造企業に関する賢人会議」で、特に「価値創造」場面で大企業と中小企業の連携が効果的だと示されました。中間報告を以下URLからご覧下さい。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kenjinkaigi/2020/200228kenjinkaigi02.pdf


中小企業がいるから社会が成立している

「分かった、大企業と連携できる中小企業を選んで支援すれば良いのだな」それは片手落ちと言うべきでしょう。中小企業はもう一つ、社会を成立させる役割を果たしています。大企業は直接に人々と触れ合う、細々とした取引が不得手なので、その役割を中小企業が果たして社会が成立しているのです。大企業の工場が立地する「企業城下町」でも大企業だけが存在すれば良いのではなく、無数の中小企業が存在して人々の生活を支えており、これで地域が成り立っていたのです。

これは「そんなに儲けなくても良い」存在がいるから地域が成立するとの意味でもあります。大企業は規模の経済が働きますが、市場規模の小さな地方都市では大勢の働き手をマネジメントする間接費用がかさみ、成立しなくなります。「経営者と数人の従業員が人並みに暮らせたら良い」という中小企業が地域を成立させてきました。これら企業がいなくなると、地域自体が消失します。

もちろん、これら企業の生産性向上も大切です。「経営者と数人の従業員」企業がITなどを利用して生産性を高めれば持続可能レベルを上回る儲けが出せるようになり、経営が、労働が、そして生活がより楽しくなるでしょう。社会が、より豊かになります。「社会には中小企業が必要不可欠」との意識をもとに中小企業施策を進めて頂きたいとの意見を、今年最後のコラムとさせて頂きます。



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なお、冒頭の写真は写真ACから 海風 さんご提供によるものです。海風 さん、どうもありがとうございました。


 
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


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