第197回
企業のチャレンジを計画として形にする
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

毎日のニュースを見ると新型コロナウイルス感染症の新規感染者数は2月第1週をピークに減少に転じているように見えますが、その水準は依然として高く、油断できません。コロナ禍が引き続いて「ウイズコロナ」が常態となることも織り込んでおいた方が良さそうで、経営者には今までとは異なる「新たな取組」が求められていると言えそうです。
このような状況下、前々回・前回で「新たな取組」の模範を探すことについて考えました。今回は、チャレンジを計画に昇華することを考えます。
計画が実行への踏み台になる
コロナ禍が猛威をふるう中、あるいはウイズコロナの中で生き残りと再発展を目指すなら、多くの企業には「新たな取組」が求められます。「それは分かるが、他社事例を模範にするとは如何なものか?それで良いなら、持続化や発展を遂げる企業が数多くいて良さそうだが、そんなに多くはない。このアプローチでは不足なのではないか?」と感じる方もおられるかもしれません。
実はご指摘の通りで、模範を見習って行動する企業・経営者はそんなに多くないというのが実態です。いや、「ほとんどいない」と言っても過言ではないでしょう。模範は、新たな取組を格段に容易にする条件ではありますが、行動に至る十分条件ではないからです。新しい取組への行動は、それほどハードルが高いものです。
高いハードルを飛び越すには、どうすれば良いか?ジャンプ力を鍛えるアプローチもありますが、もう一つ、踏み台を置くという方法があります。ビジネスにおける新しい取組において模範は踏み台の役割を果たしますが、ハードルは非常に高いので、模範だけでは飛び越えられません。では、どうすれば良いのか?もう一つ階段を設けるアプローチがあります。計画を立てるのです。
「全ては2度作られる」という格言があります。例えば新製品を作ろうとする時、設計図なしに取り組むことはありません。紙やコンピューターの中でバーチャルに(知的に)製作し出来栄えをシミュレーションして「これなら大丈夫だ」との確信を得た後に製作することで、リアルな製品作りの成功確率を格段に向上できます。新たな取組においても行動に先んじて計画を策定することは、とても有効な踏み台になります。
「言語化」によるメリット
いくら良い模範を見つけられても、そこでストップしたのでは行動は起こせず、成果を生むことはできません。行動を起こすには計画の策定が有効なのです。なぜ、そう言えるか。第1に計画は「見える化」であることが挙げられます。
心理学に「人は目で見たものが欲しくなる」という格言があるそうです。模範と同様の成果を目指しても、その成果が「儲かっているのだろうな」とのイメージに留まるなら行動する強い動機にはなりません。しかし計画書を策定して「○年後には窮地を脱せられる、□年後にはピカピカの会社になれる!」と目で見ることで、「よし!絶対に達成できるよう、取り組んでみよう」という決意に繋がるのです。
言語化にはまた、周囲の関係者の理解を得られるとのメリットがあります。企業が取組を行おうとする時の1番の関係者は従業員ですが、彼らも「××社(模範とする会社)を見習って頑張ろう」と言われただけでは動機は生まれず行動も起こせません。計画を見て、それを行えば会社が良くなること、それはとりも直さず自分たちにとってメリットになることを知ることで、行動する強い動機となるのです。また有力な関係者として金融機関も挙げられます。コロナ禍で事業が思うようにいかず財務体質が弱った企業への支援は、金融機関にとって非常に難しい判断ですが、しっかりとした計画書を受け取ることで前向きに検討できるかもしれません。
チャレンジを確実化するシミュレーション
計画のメリットの第2は先に述べた通りシミュレーションとなることです。計画段階で「準備が足りない、フォローもした方が良い」と気付いてブラッシュアップしたことで、必然の失敗を回避できるかもしれません。
「計画通りに進展することはないから計画策定は面倒なだけ」との声もありそうですが、「計画していない行動が執られる可能性はほとんどない。計画している以上の成果が上がることは稀」とも言えます。計画する面倒より、計画するメリットの方がはるかに大きいのです。
以上から「我が社でも真似できそうな模範を見付けた」という企業が多くとも、成功に至る企業は少ない理由が理解できると思います。実行と成果に繋がる計画を立て、是非とも企業のチャレンジを形にしてみてください。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は 写真AC から keisuke3 さんご提供によるものです。keisuke3 さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions