第269回
コロナ資金繰り支援の延長を活用する
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

3月8日に政府(経済産業省・金融庁・財務省)はコロナ資金繰り支援(コロナセーフティネット保証4号・コロナ借換保証・日本公庫等のコロナ特別貸付・コロナ資本性劣後ローン)を本年6月末まで延長する旨を含む「再生支援の総合的対策を策定しました」を発表しました。物価高騰対策等として実施する日本公庫等のセーフティネット貸付の利下げも6月末まで延長、能登半島地震被災地については配慮しつつも本年7月以降はコロナ前の支援水準に戻すと共に、経営改善・再生支援に重点を置いた資金繰り支援を基本とする方向としました。
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240308005/20240308005.html
今回は、この措置をどのように活用できるかを考えます。
何がどのように延長されたのか
今回措置は、コロナ禍時代に実施されたゼロゼロ融資に設けられた据置期間が満了して返済が開始する最後のピークが本年4月に到来することを受け「万全を期す」ために設けられたとされています。事業環境の変化や事業・財務基盤の減退などで十分なキャッシュフローが得られず返済の見込みが立たない企業がもう一度、債務を借り直して据置期間を設定、一息つけることを目的としているようです。
具体策の第1は信用保証協会の信用保証を得ながら金融機関が行う融資に係る措置として、コロナセーフティネット保証4号(売上▲20%減少を要件とする、責任共有のない100%保証の制度)の延長です。コロナセーフティネット保証4号は2023年9月に新規融資のみでの利用は終了していましたが、借換目的での利用は2024年3月まで継続されていたところ、これが6月末まで延長されたのです。
第2はコロナ借換保証の延長です。ゼロゼロ融資が責任共有のない100%保証だった場合には当該保証も100%保証で借換られ、保証料の引下げや保証期間の延長(10年)などの特典があります。これも2024年3月を期限としていたところ、6月末まで延長されました。
第3は、日本公庫等によるコロナ特別貸付及びコロナ資本性劣後ローンの延長で、2023年3月末期限が9月末に延長後、今回再び2024年6月末まで延長されました。
制度趣旨を踏まえた企業だけがメリットを受けられる
コロナ資金繰り支援が延長されたことで、企業の資金繰りが目覚ましく改善されるか?信用保証の利用状況を見ると、ゼロゼロ融資などを含むコロナ特別保証が始まった令和2年には前年の約4倍となる約35兆円の利用があり、利用残高も前年度末の約2倍となる42兆円に迫りましたが、その後はコロナ禍前の水準に戻り、利用残高は減少を続けています。
現在も売上・利益を回復させられないので返済が始まると資金繰りが苦しくなる企業の全てが、現在続けられているコロナ借換保証などのコロナ資金繰り支援を利用して資金繰りを円滑化できた訳ではなさそうです。中小企業経営者や金融機関担当者からも、その様な例が現実にあるとの話をお聞きします。
据置期間を再設定できるコロナ借換保証が準備されているのに活用が進まないのはなぜか?ある金融機関担当者は理由の一つとして、コロナ借換保証では「経営行動計画書」が要件になっていることを挙げました。慣れていないので計画を立てられないと言うのです。すると金融機関としては伴走支援するとの判断を下せないので、信用保証の申込みを出すことさえできません。このため従前借入の返済にゼロゼロ融資の返済も加わって、以前よりも速いペースで資金が流出する事態を見守るしかない状況になっているそうです。
では経営行動計画書の策定要件を廃止すれば良いのか?先ほどの金融機関担当者に問うたところ、それで支援できるとは思えないとのことでした。金融機関は再起する可能性を自ら切り拓こうとせず「お金さえ借りれたら、我が社は安泰だ」という姿勢の企業を支援するのは、難しいのです。計画書を策定して「自ら立ち直りに向けて舵を切った」との宣言があってこそ、検討を始めることができます。
以上から、コロナ借換保証などコロナ資金繰り支援が6月末まで延長された趣旨を理解できるでしょう。資金繰りに窮しているものの経営行動計画書の策定を決心できなかった企業経営者に改めて「計画を策定して我が社を立て直す」との決意を固める時間を再設定する趣旨だと考えられます。
コロナ借換保証には信用保証料が減額される優遇措置があるので、これを利用しない手はありません。この機会を是非、活用してもらいたいと思います。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。
なお、冒頭の写真は 写真AC から craftbeermania さんご提供によるものです。 craftbeermania さん、どうもありがとうございました。
プロフィール
落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。
平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。
現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。
【落藤伸夫 著書】
『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions