「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第299回

中小企業白書のメッセージを読み取る

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 



4月25日に中小企業白書が閣議決定され、公表されました。今回は、今年の中小企業白書(以下「本書」といいます)から何を読み取っていけるか、考えてみます。



第1部 令和6年度の動向パートから読み取る

中小企業白書は例年2部構成となっており、第1部は前年度(今年であれば2024年度)の中小企業の動向がまとめられています。業況(第1章)や金利や物価等を中心とした事業環境(第2章)、雇用環境(第3章)などが定点観測され、加えて本書では生産性(労働生産性や設備投資、デジタル化、DXなど。第4章)や価格転嫁(第5章)、賃金・賃上げ(第6章)、倒産・廃業・事業継承(第7章)など最近よく耳にする話題について触れられていました。第8章「中小企業・小規模事業者に求められる共通価値」では、脱炭素化、サーキュラーエコノミー、経済安全保障、人権尊重について触れられました。

第9章では13の事例が掲載されています。AIやDX、省力化投資等による生産性向上等に係る事例が4件、研究開発や強みの活用等による価格設定・決定力に係る事例が2件、体質強化による賃上げに係る事例が1件掲載されており、生産性向上や適正価格の実現などにより持続・発展を目指すよう勧めていると感じられました。


筆者も顧問先中小企業で値上げについてご支援しています。ある企業は立ち直りを目指して事業改善計画を実行中で、昨年度は売上目標はクリアできましたが、利益目標は達成できませんでした。材料費等の高騰で利益率が低下しているのです。それでも経営者は最初「値上げを打診すると『他業者と取引する』と言われてしまいそうで怖く、申し出できない」と言っていました。しかし原価を検証して「値上げしかない」と踏み切ったのです。それでも当社の技術力に信頼を置く顧客が離れないことが分かると、だんだんと値上げに前向きになってきました。原価計算において以前は価格競争力をつけるため正味稼働時間だけを計上していましたが、今では相手方に起因する修正等を行う停止時間も含めて請求、応じてもらっています。今後は段取り時間も含めて請求、適正価格を実現できるよう説明力を高めることとしています。



第2部 特集パートから読み取る

第2部は年度ごとにテーマを定める特集パートです。今年度は「新たな時代に挑む中小企業の経営力と成長戦略」というタイトルでした。「経営力という言葉には多面的な意味合いがあるが、どんな意味合いで使っているのだろうか?」と思って章立てを見ると、経営戦略(第1節)、経営の透明性・開放性(第2節)、ガバナンス体制(第3節)、人材戦略(第4節)とある中、第5節「経営者の成長意欲」に目が留まりました。ウォルト・ディズニーの名言“If you can dream it, you can do it.”にもあるように、意欲が実現の出発点になるとの勧めと感じました。

一方で「売上・利益を増やしたい」と念じさえすれば実現する訳ではないでしょう。行動への反映がポイントです。本書では「経営者のリスキリング」という行動に注目していました。全体の約1/3、34.8%の経営者がリスキリングに取り組んでいる中(本書P.146)、経営方針として売上拡大あるいは利益拡大を明確に挙げる企業では平均を上回る経営者がリスキリングに励んでいると示されていました(売上拡大では35.6%、利益拡大では39.0%。本書P.148)。そして売上高、付加価値額の変化率もリスキリングに取り組む企業の方が高くなっていることから、経営者がリスキリングに取り組むことで自社の成長に繋がる可能性があると示唆されていました(本書P.152)。


この現象は、筆者も顧問先などを見て痛感するところです。筆者はコンサルタント、つまり経営に資するアドバイスの提供を仕事としていますが、いくら提案しても経営者が行動に移さなければ(これは「リスキリングしていない状況」と言えるでしょう)成果があがるはずもありません。行動に移す(これが「リスキリングに該当する」と考えられます)ことで、成果に繋がるのです。その行動も「売上・利益を増やすよう社員に指示した」ではあまり大きな効果は期待できませんが、例えば「売上・利益の増加を目指す戦略を自分で考えて、社員とアクションを練った」場合には効果が増大する傾向があります。経営者としても、自分の勉強や発言が成果に繋がっていくので面白くなり、良いスパイラルが発生しています。今年度の中小企業白書は、企業・経営者がこの境地に到達できるよう、勧めていると感じられました。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、資金調達する方法をしっかりと学んでみてください。


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【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真はCopilot デザイナーにより作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた後、事業改善手法を身に付け業務・経営側面から支える専門家となる。現在は顧問として継続的に企業・経営者の伴走支援を行っている。顧問企業には財務改善・資金調達も支援する。

平成27年に「事業性評価」が金融庁により提唱されて以来、企業にも「事業を評価してもらいたい。現在の状況のみならず将来の可能性も見越して支援してもらいたい」との意識を持ち、アピールしてもらいたいと考えて『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?』コラムを連載(2017年1月スタート)。当初は読者として企業経営者・支援者を対象していたが、金融機関担当者にも中小企業の事業性評価を支援してもらいたいと考え、2024年1月からは『「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus』として連載を再スタートさせた。

現在は金融機関職員研修も行うなど、事業改善と金融システム整備の両面からの中小企業支援態勢作りに尽力している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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