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「事業性評価」が到来!あなたは資金調達できますか?plus

第35回

事業性評価融資を依頼するための事業計画書

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 
新聞やテレビなどで「金融庁の森長官が異例の3期目に突入する」というニュースを耳目にします。金融庁の長官人事が一般のニュースになるのは、これまでからすると異例です。この現象は、大ヒットとなった『捨てられる銀行』で明らかになった森長官・金融庁の考えや、ここ数年間に発表された政策などをみて「これは本気だ。何かが変わるのかもしれない」という期待を反映したものと言えるでしょう。

一方で、中小企業が資金調達しようとする場合、事業性評価融資を行なってくれる金融機関を探すのは容易ではありません。「当行で受け付けています」と宣伝している金融機関はないようです。探しても、見つかりません。そもそも金融機関によっては支店によって温度差があるように見受けられます。という訳で、中小企業が自ら「事業性評価融資を依頼するための事業計画書」を作成し、それでもって金融機関・支店に打診してみることをお勧めしています。


どのような事業計画書か?

では、どのような事業計画書を作成すれば良いのか?「我が社の事業性を、評価してもらえる計画書だろう。我が社の技術力は優秀なので、それをアピールすれば良い」という声が聞こえそうですが、それでは、事業性評価融資を金融機関に検討してもらうことはできないでしょう。それは「事業性」ではなく「将来性」について、「計画」ではなく「アピール」する書類に過ぎないからです。将来性のアピール書に、事業性評価融資を引き出す力はありません。

なぜアピール書に、事業性評価融資を引き出す力がないのか?それは、日本の中小企業がなかなか苦境から脱出できない事情を考えると理解できると思います。中小企業の苦境は、大きく分けると、国内での過当競争と、海外勢の進出が原因だと言えます。国内の競合企業は、我が社と同じく高い技術を誇っているでしょう。技術が差別化にはなりにくいのです。一方で海外勢は、技術を武器に日本で台頭している訳ではありません。彼らは価格など、技術とは違う土俵で勝負しているのです。いずれにせよ、技術をアピールすれば即、優位性につながるという状況ではないと言えます。


計画書で表現するストーリー

それゆえ、必要なのは「アピール書」ではなくて「計画書」なのです。計画書とは「これからやろうとすること」を説明して、その妥当性や効果を訴えて、納得してもらおうとする書類です。

事業性評価融資を引き出す計画書は、それゆえ、以下の事情や計画を説明するものとなるでしょう(以下は、技術力が売りだが自社製品がなかったことによる収益性の低さに悩まされていた企業を例に、ストーリーを組み立てました。「カッコ」内は、各企業の事情を踏まえて適切な語を検討して下さい)。

・当社には「技術力(強み)」がある

・しかし当社は「自社製品がない(弱み)」ため低収益に甘んじている

・それを克服するため当社は、長年にわたって「自社製品開発」に努力してきた。現在、今までの努力が花開きつつあり「自社製品実現」にもう一歩のところに来ている(伝えなければ金融機関が知り得ない現状)。

・自社製品が実現すれば順調に売れて当社の利益に繋がると確信し得る材料として「顧客の要望や市場の動向など(機会)」がある。

・一方で、成果が得られない材料として「競合他社の動向や顧客の好みの変化など(脅威)」がある。

・当社としては「自社製品開発」が、機会を生かしながら脅威に備え、強みを生かすことで弱みを打ち消していくことになると考えている(経営戦略)。

・それを「自社製品開発」を実現するために行うべき内容を時系列を踏まえて計画として表現した(事業計画書)

・以上から、当社には、自社製品開発・実現によって収益性を高め、社会に貢献していく「将来性」があり、それを実現していく「事業性」がある。その事業性を評価して、必要資金の融資という形で、我が社を支援して頂きたい。


事業性の表現方法:二面性を表現する

「事業性評価融資を依頼するための事業計画書」には、もう一つ、「将来性」だけでなく「事業性」を説明することが求められています。では、どうすれば「事業性」を説明できるのか?一つの方法として「二面性」を意識するというアプローチがあります。以下で示すさまざまな「二面性」を織り込むことで、「将来性」だけでなく「事業性」を説明する事業計画書にすることができます。逆に言えば、以下の二面性を織り込んでいない事業計画書は、金融機関から「薄っぺらい」、つまり内容が乏しかったり、説得力が不足していると判断される可能性があります。


強み・弱み

例えば技術面に強みがあるとしても、そればかり強調したのでは「なぜ、資金調達が必要なのか」の説明はつきません(強みしかないのなら、それを発揮して、資金調達せずとも事業を回していける資金が潤沢にあるはずです)。「自社製品を持っていない」という弱みがあり、それを克服するため(自社製品開発を行うため)に資金が必要だと説明することで、金融機関に前向きな姿勢を引き出すことができます(一方で、「弱みがあり、だから資金が必要(自社製品のない下請け企業では利益率が低くても止むを得ない)」という説明では、金融機関の前向きな姿勢を引き出すことは難しいでしょう)。

機会・脅威

例えば「中小企業が共同で自社製品を開発していこうという機運がある」という機会があるとしても、そればかり強調したのでは「本当に、大丈夫なのか?落とし穴にはまるのではないか?」という疑問に答えることはできません。リスクをきちんと認識してこそ、それへの備えができます。そういう慎重な取組みが見て取れると、ポイントを加えても良いと金融機関は判断するかもしれません。

会社の外部・内部

例えば自社製品を開発しようとする場合、その特徴などに目が向きがちですが、それを実現するための能力は、備えているのでしょうか?今までに十分な技術を蓄えてきたとしても、新製品となると新しい技術が必要になるかもしれません。当面はキャッシュに貢献しない仕事に従事する必要もあります。人的資源や物的資源、金銭的資源に余裕が必要があるということです。それを社内で賄える体制になっているのでしょうか?社外に、協力企業を確保しているでしょうか?会社の内外に目を向け、しっかりと体制を築いていることを確認できると、金融機関は安心することでしょう。

今・過去を前提にした将来

「今を一生懸命に走る」のは、とても大切なことです。今を一生懸命に頑張っていない企業を応援したいと思う関係者は、一つもないでしょう。一方で、金融機関が判断する場合に最も重視するのは決算書です。なぜならそれが、最も客観的な書類だからです。決算書が最も客観的な書類であることは、事業性評価を行う時であっても変わることがありません。金融機関は事業性を評価して融資判断するにしても決算書、つまり過去の実績をベースした計画を提示されなければ、現在や将来を評価することは難しいと考えることでしょう。

それゆえ事業性評価を求める事業計画を策定する場合には、将来に目指す状況を計画として描くにしても、それは過去(決算書)をベースにしたものでなければなりません。スタート時点は直前期、もしくは前々期(決算書のある期)として、課題の抽出を行います。現時点については、現在に行なっている取組みと期待する成果を表現した上で、今後について「支援を受けずに手堅く取り組んでいく場合に予想される成果」と「支援を受けて事業性を花開かせながら取り組んでいく場合に予想される成果」を比較します。もし支援を受けられた場合に、強みと弱み、機械と脅威を前提に何に取り組んでいくかを丁寧に説明することにより、「事業性評価融資を依頼するための事業計画書」となります。


このように、事業性評価を求める計画書では、企業の「将来性」を納得してもらうことを目指しているとはいえ、その将来は過去や現在と無関係に描かれるものではありません。「良い計画を持っている」というだけでなく、「今までの実績からすると、弱みを克服しながら強みを発揮していくという、必然性の高い計画である」ことと、「現在の状況からすると、機会を活用しながら脅威への対策も怠りない、実現性の高い計画である」こと、つまり「事業性が高いことを説明した計画」なのです。

今は事業性評価について決まったルールなどを持たないため積極的には推進しにくいと思っている金融機関であっても、このような事業計画書を策定して打診すれば、前向きに検討してくれると思われます。もちろん、全てではないかもしれません。しかし、全てが消極的だとも思えません。自らの活路を切り開いていくため、まず、事業性評価融資を依頼する事業計画書を作成するよう、お勧めする次第です。
 

プロフィール

StrateCutions
代表 落藤 伸夫


中小企業診断士・MBA
日本政策金融公庫に約30年勤めた後、中小企業診断士として独立。 企業を強くする戦略策定の支援と実行段階におけるマネジメント支援を得意とすると共に、前向きに努力する中小企業の資金調達も支援する。 「儲ける力」を身に付けたい企業を応援する現在の中小企業金融支援政策に共感し、事業計画・経営改善計画の立案・実行の支援にも力を入れている。


Webサイト:StrateCutions

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