第79回
未掴入口の捉え方
StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ 落藤 伸夫

日経株価が最高値を更新していますが「K字回復」と言われているようにトレンドのメリットを受けられない企業も少なくありません。「業種や地域などの構造的要因はどうしようもない」と考えられそうな中、前回は事業環境変化に注目することで今までは壁だと認識していた現象に潜む未掴の入口を見つけられる可能性を考えました。今回はどのような入り口があるか、考えてみます。
デジタル化という未掴の入り口
事業環境変化のうち最もポジティブに捉えられるのはITやAIの進歩でしょう。企業にとってどうしても超えられない壁だと思われていた現象を、デジタルの利用により超えられたという、「デジタル跳躍型」の未掴の入り口を探し当てた企業が少なくありません。
ある製造業企業は、激しい価格競争の中でやっと受注できてもほとんど利益が出ない状況について「この業態で仕事しているうちは仕方ない」とあきらめていました。しかし設計図面を電子化して簡単に類似案件を検索、再利用できるようにしたことで儲かる企業に変身することができました。
設計図面のデータベース化と再利用によって設計時間を飛躍的に短縮できたとは、工数を減らすことによる原価削減を実現できただけでなく、納期短縮により受注件数を増加させることも可能になったのです。加えて、短納期を求める顧客からは高価格案件を受注できるようになったこともあって、利益体質への変貌を遂げました。「同様のサービスを行う競合が多い中で差別化ができた」というメリットもありました。
デジタル化は、製造業や物流業・サービス業、小売業・卸売業などの人手不足や業務の非効率さ、あるいは特定個人への業務・技能等依存が強いことなどが効率性や収益性の制約条件となっている幅広い業種で成果に繋がると考えられます。
もちろん「導入すればすぐに効果が出る、必ず効果が出る」と約束される訳ではありませんが、デジタル化に併せた業務プロセス見直しなどの工夫を加えることで、未掴の入り口に立てるでしょう。
価値観の変化という未掴の入り口
もう一つ広く認識されている事業環境変化は「価値観の変化」です。モノは本来「利用から得られるメリット」を目指して必要とされますが、いつの間にかモノ自体に注目が集まり、高度成長期やバブル時代には「所有欲・顕示欲を満たす」側面が強調されるようになりました。
それが今「体験・快感」側面が注目されるようになり、価値観の再定義が未掴の入り口となっています。
例えばある和菓子屋は「お土産として喜ばれる」から「文化体験できる」にシフト、「最も美味しい食べ方ができる、日本文化の神髄に触れる話が聞ける」店頭に改装しました。加えて積極的に動画配信することで、従来を大幅に超える顧客に来店してもらうことができました。
またある商店街は閉店した店舗を「地域コミュニティ拠点」に改装、様々なイベントを行うほか、週に何度かミュージシャンに音楽教室を開いてもらうなどしました。こうして商店街は「便利に買い回りできる場所」から「楽しいこと・有意義なことが開催されるので集う場所」に変化を遂げ、地域活性のエネルギー源となりました。
BtoB企業の事例もあります。それまでは性能や耐久性、生涯コストパフォーマンスなどが選ばれる要因だと考えられている中で、IOTの搭載により可能になった稼働状況・生産性の向上支援、あるいはメンテナンス必要性を伝える等の管理サポート等に価値を見出して選んでもらっている建機メーカーが知られています。
その他事業環境変化から未掴の入り口を探る
2020年からのコロナ禍(疾病)や、ゲリラ豪雨などの自然災害、キャッシュレスの普及、あるいは地方創生政策による地域分権化トレンドなど、これまでになかった(少なかった)事業環境の変化が生じていると感じます。
例えば人口減少地域の高齢者の足確保について、自動車・運転者のシェアや自動運転などが切り札になると考えられますが、交通機関の事業化には免許制など様々な規定があり阻害要因となっています。
しかし大都市で生じる不都合の防止を目的とした規制を地域に適用する必要はないのかもしれません。シェアや自動運転などを可能にする民間の工夫に加えて行政も知恵と汗を出すことで今までなかったビジネスが実現、未掴の入り口となる可能性があります。
「選択肢が広がった、どんどん試してみよう。」確かに選択肢は増えており、これからもますます増えると考えられます。但し新しい選択肢に飛び乗れば成功できるとは限りません。自社にマッチするかの慎重な検討が必要です。
「自社の活躍は今まで、何に阻まれていたのだろう?その要因は今、存在するのだろうか?障害要因を乗り越えたり無効化できる変化は起きていないだろうか?」と問い、探ってことがポイントになります。自社を再定義できた企業に未掴が訪れると考えられます。
本コラムの印刷版を用意しています
本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。
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なお、冒頭の写真は ChatGPT により作成したものです。
プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)
中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA
日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。
独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。
現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。
【落藤伸夫 著書】

『日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル』
さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。
Webサイト:StrateCutions
- 第79回 未掴入口の捉え方
- 第78回 壁とするか、未掴への入り口とするか
- 第77回 生成AIを活用しながら人間力を発揮する
- 第76回 生成AIがもたらす革命的変化に対応する
- 第75回 100億宣言を実のあるものにする
- 第74回 100億宣言企業が募集されています
- 第73回 あいまいさを創造性に繋げる方法
- 第72回 あいまいさに耐えられない危険性
- 第71回 イノベーションの量産でジレンマ回避
- 第70回 イノベーションのジレンマは不可避か
- 第69回 激動の時代に「どのように」始めるか
- 第68回 激動時代に起業家の発想を取り入れる
- 第67回 トランプ関税を乗り越える産業・政策
- 第66回 トランプ関税を考えて今後を見通す
- 第65回 企業が描きたい大戦略
- 第64回 大戦略を描いていくことの大切さ
- 第63回 技術か経営かではなく、技術も経営も
- 第62回 ニッサン・ホンダの破談をどう捉えるか
- 第61回 社会システム変化の軸となる主体性
- 第60回 社会システム視座の必要性
- 第59回 再構築が望まれるエコシステムの姿
- 第58回 突きつけられる課題と、その対応方法
- 第57回 「好ましいインフレ」を目指す取組
- 第56回 「好ましいインフレ」を目指す
- 第55回 地域の未掴をエコシステムとして描く
- 第54回 地域の未掴はどのようにして探すのか
- 第53回 日本の未来を拓く構想と新しい機関
- 第52回 新政権に期待すること
- 第51回 日本ならではの外貨獲得力案
- 第50回 未掴を掴む原動力を歴史的に探る
- 第49回 明治時代の未掴、今の未掴
- 第48回 オリンピック会場から想起した日本の出発点
- 第47回 都知事選ポスターから考える日本の方向性
- 第46回 都知事選ポスター問題で見えたこと
- 第45回 閉塞感を打ち破る原動力となる「気概」
- 第44回 競争力低下を憂いて発展戦略を探る
- 第43回 中小企業の生産性を向上させる方法
- 第42回 中小企業の生産性問題を考える
- 第41回 資本主義が新しくなるのか別の主義が出現するのか
- 第40回 「新しい資本主義」をどのように捉えるか
- 第39回 日本GDPを改善する2つのアプローチ
- 第38回 イノベーションで何を目指すのか?
- 第37回 日本で「失われた〇年」が続く理由
- 第36回 イノベーションは思考法で実現する?!
- 第35回 高付加価値化へのイノベーション
- 第34回 2024年スタートに高付加価値化を誓う
- 第33回 生成AIで新価値を創造できる人になる
- 第32回 生成AIで価値を付け加える
- 第31回 価値を付け足していく方法
- 第30回 新しい資本主義の付加価値付けとは?
- 第29回 新しい資本主義でのマーケティング
- 第28回 新しい資本主義での付加価値生産
- 第27回 新しい資本主義で目指すべき方向性
- 第26回 新しい資本主義に乗じ、対処する
- 第25回 「新しい資本主義」を考える
- 第24回 ChatGPTから5.0社会の「肝」を探る
- 第23回 ChatGPTから垣間見る5.0社会
- 第22回 中小企業がイノベーションのタネを生める「時」
- 第21回 中小企業がイノベーションのタネを生む
- 第20回 イノベーションにおける中小企業の新たな役割
- 第19回 中小企業もイノベーションの主体になれる
- 第18回 横階層がイノベーションを実現する訳
- 第17回 イノベーションが実現する産業構造
- 第16回 ビジネスモデルを戦略的に発展させる
- 第15回 熟したイノベーションを高度利用する
- 第14回 イノベーションを総合力で実現する
- 第13回 日本のイノベーションが低調な一因
- 第12回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(2)
- 第11回 ミスコンから学んだ将来の掴み方(1)
- 第10回 Futureを掴む人になる!
- 第9回 新しい世界を掴む年にしましょう
- 第8回 Society5.0・中小企業5.0実践企業
- 第7回 なぜ、中小企業も5.0なのか?
- 第6回 中小企業5.0
- 第5回 第5世代を担う「ティール組織」
- 第4回 「望めば叶う」の破壊力
- 第3回 5次元社会が未掴であること
- 第2回 目の前にある5次元社会
- 第1回 Future は来るものではない、掴むものだ。取り逃がすな!