Catch the Future<未掴>!

第69回

激動の時代に「どのように」始めるか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


波風の立たない時期はありませんが、コロナ禍が通り過ぎた後に一旦は収まっていた波が再び高くなったと感じます。数多くの要因が複雑に絡み合って襲ってきたことで「激動」と言える状況に入りつつあると感じます。

先回は、この環境下で「耐える」選択肢が取れない場合、どのように変化を起こすかを考えました。今回は、それをもとにどんな取組を始められるかを考えます。



「じっと耐える」戦略が採れない企業の方向性

激動時代の対処法として「じっと耐える」と答える経営者がいます。実は前回記事の発行後にも、そういう製造業社長にお会いしました。国内では製造業の空洞化が叫ばれる中でも増収増益を続け、コロナ禍はじっと耐えることで乗り越えた企業です。

コロナ後はいち早く立ち直って増収増益基調に戻りました。今は激動の時代であるとは認識しつつも「リーマン・ショックやコロナ禍ほどの影響があるかどうかもよく分からない」と、計画していた設備投資を実行、激動が当社に影響を及ぼしたら「すぐに耐える経営に切り替える」と笑顔で答えていました。

このような企業の場合には、平時(と認識している期間)に思い切った経営行動を取るので、激動期には「耐える」が最善の方法なのかもしれません。


一方で、コロナ禍以降もそれ以前の活況を取り戻せず近々キャッシュが尽きてくると予想される企業は、対策を打つ必要があるでしょう。本当は「じっと耐える」戦略を取りたかったとしても状況が許さず「会社を存続させるため、売上・利益のかさ上げに向けて新たな行動を起こさなければならない」という企業です。

この場合に動くにあたっては工夫が必要です。余裕がある時のように、あるいは最大限の成果を目指してリスクを取ることはできません。逆に、リスクを最小限に抑えながらも成功確率を高めるのが原則です。


これを行う体系的な考え方として、以下の5つの原則からなる「エフェクチュエーション」が提案されています。

① Bird in Hand(手元にある材料を使う)

② Affordable Loss(失っても耐えられるリスクを取る)

③ Crazy Quilt(代えがたいパートナーを見つける)

④ Lemonade(逆境をレモネードに変える)

⑤ Pilot-in-the-Plane(自分が運命を変えると信じる)



「逆境をレモネードに変える」とは

今回は5原則の第4「逆境をレモネードに変える」について、どのようなパターンで変えられるかを考えます。


第1は「ビジネスの修正」です。以前の事業環境下では需要があったのに逆境により需要が細ってしまった場合に、ビジネスの基本は大きく変更しないが修正することで需要を獲得できるかもしれません。今までの商品がリーマン・ショックで売れなくなったので、高機能商品を今までの常識を破る低価格で提供して大きな市場を獲得したユニクロなどの例があります。


第2は「経験によるノウハウ獲得」です。逆境に耐え、乗り越えるための努力が実った場合、そのノウハウを生かして新たな事業等を始められるかもしれません。インターネットを使ったマーケティング事業を行う会社には、自社商品が売れないため新たにネットを使った広告を実施、長じて転業したものがあります。


第3は「資源活用方法の切り替え」です。従前の資源がビジネス低調により不要になったため、逆境でも需要のあるビジネスに転用することができるかもしれません。以前は多数の従業員を都心にキープする必要があるビジネスだったが、低調になったので家賃の低い地方に移転、都心の拠点を他に貸し出したり、保育施設や貸会議室等の都心で求められるビジネスに進出する企業があります。


第4は「イノベーション」です。これまでは従来品を生産・売るのに忙しかったが売れなくなったので対策を幅広に検討、これまでになかった製品・サービスを発案できるかもしれません。Apple社はパソコン事業が低調だったので起死回生を図る中、iPhoneやiPadを開発して新市場を創造しました。


第5は「意味付の切り替え」です。従来品を従来の方法で売ったのでは新業態の進出等で逆境に陥った場合、ビジネス要素の意味付を変えることで新たな需要を引き出せるかもしれません。EC販売の普及で淘汰が進んでいた中、店舗をくつろぎや交流等の場所に変えることで元気を盛り返している書店があります。


第6は「組織文化変革」です。逆境を乗り越える中で組織文化を切り替え、会社の存立基盤にできるかもしれません。JALは倒産を回避すべく会社一丸となる社内文化を醸成、それを守ることで存立基盤を維持しています。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


<印刷版のダウンロードはこちらから>





【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

Catch the Future<未掴>!

同じカテゴリのコラム

おすすめコンテンツ

商品・サービスのビジネスデータベース

bizDB

あなたのビジネスを「円滑にする・強化する・飛躍させる」商品・サービスが見つかるコンテンツ

新聞社が教える

プレスリリースの書き方

記者はどのような視点でプレスリリースに目を通し、新聞に掲載するまでに至るのでしょうか? 新聞社の目線で、プレスリリースの書き方をお教えします。

広報機能を強化しませんか?

広報(Public Relations)とは?

広報は、企業と社会の良好な関係を築くための継続的なコミュニケーション活動です。広報の役割や位置づけ、広報部門の設置から強化まで、幅広く解説します。