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第67回

トランプ関税を乗り越える産業・政策

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 

前回、トランプ大統領による関税政策の本意について考えてみました。その意図として「大票田になる自動車や金属等で働く労働者の人気取り」が挙げられていますが、そればかりではなく、産業構造についての深刻な危機感によるものかもしれません。

今回は、日本もアメリカと同様の問題意識が必要だとすると、今後の日本はどんな産業・政策を目指すべきかについて考えます。



「国の維持には労働集約型産業も必要」との気付き

トランプ大統領が輸入品に高い関税をかけ国内の自動車や金属等産業の保護を目指していることについて「票集めの人気取り」と批判するのは簡単ですが、それではアメリカの慧眼を見失ってしまうかもしれません。

その奥には「人口の多い国は知識集約型産業だけでは国が成り立たない可能性」への危惧があると考えられます。

輸入関税により名門民間航空機メーカーが窮地に立たされるとの事実が明らかになったことで、関税政策は一部、見直される可能性があるでしょう。そこは国益を守るとして、もう一つの「労働集約型産業の温存が必要」との気付きは、無視すると大きな代償に繋がるかもしれません。

人口1億を抱える日本も、同様の危機に陥る可能性があると考え、検討する必要があると考えられます。


幸い今、問題提起してもらったので、アメリカほど「駆け込みで」対処する必要はありません。

トランプ大統領は任期中に政策を完遂して一部なりとも成果を出さなければならないので性急の極みで「自動車や金属等の産業を保護する、この分野で国内生産の阻害となる輸入には高率の関税を課す」という(いわば)大雑把な政策をとり、諸所に軋轢と矛盾を引き起こすことになりました。日本はそれも教訓に、計画したいと思います。



労働集約型産業を2つに分類

では、日本はどのような方向性を目指すべきか。労働集約型産業を成り立たせると言っても、それを1つに考えると問題が顕在化している(喫緊の問題意識を持たれている)「今や人手不足だ。海外人材をどんどん受け入れる必要がある」という結論で終わりそうです。一方で「労働集約型産業を国富の原動力とし、分配メカニズムとして機能させる」方向性を検討するためには、労働集約型産業を分けて考える必要があると考えられます。

ここでは労働集約型産業を「海外に製品・サービスを売って外貨を稼げる産業」と「顧客は主に国内という産業」に分けます。建設・運輸あるいは介護などの産業は、国富を浸透させるためにはとても重要ですが、海外に製品・サービスを売って外貨を稼ぐことがGDP増大の原動力となります。


概念的ですが「GDP算出式」として、

GDP=富の源泉×倍率 を想定すると、

国内を顧客とする産業の生産性を高めることは、この式の「倍率」を高めることになる一方、海外に製品・サービスを売って外貨を稼ぐことが「富の源泉」となるのです。



知識集約と労働集約のハイブリッド

このように考えると「知識集約型産業」と「労働集約型産業のうち外貨を稼げる産業」を掛け算(ハイブリッド)することが、今後日本の方向性と言えそうです。


それは、知識集約型企業は

・ 現場が高度な能力を持っている日本でなければ製造し得ない事業を開発する

・ 当該事業を海外に売れるよう、プロジェクト販売など高度な販売手法を取る

・ 当該事業による生産を、下請け中小企業も活用しながら日本で行う生産集合体を形成する

一方で、


労働集約型企業(中小企業を含む)は

・ 高い生産性を実現して高い付加価値を実現する

・ 現場レベルの技術革新などを行い、当該事業の差別化(海外の模倣困難)を実現する

を担います。


加えて国としては

・ 以上のような事業を複数(国を支えられるほど)出現させられるよう政策する

・ 低技術で模倣可能な事業については海外に任せ、その製品等は輸入することで、収支バランスを妥当範囲(海外の保守的政策の攻撃を受けない)の黒字となるよう誘導する

・ 農業など第一次産業を戦略的に温存・拡大していく

などの役割を担います。


ここでポイントはもちろん「日本でなければ不可能な価値の創出(知識集約型)」と「それを支える生産基盤の内在化・持続可能化(労働集約型)」の緊密な連携です。

「摺り合わせ技術か?しかし自動車さえモジュール化しつつある。」その通りですが、例えば自動車なら、それをインフラとして取り込む社会システムの構築は未だモジュール化されていません(どころか考えられていません)。それを日本得意の摺り合わせ技術を生かして創造していくのです。


日本が最も得意とする土俵で勝負ができるよう、自ら舞台を整えていくことがポイントです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。

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【筆者へのご相談等はこちらから】

https://stratecutions.jp/index.php/contacts/




なお、冒頭の写真は Copilot デザイナー により作成したものです。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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