Catch the Future<未掴>!

第40回

「新しい資本主義」をどのように捉えるか

StrateCutions (ストラテキューションズ)グループ  落藤 伸夫

 


今後を明るいものにできるのかどうかは、今をどのように捉えるかによるところ大だと思われます。世の中が今、本当は従来とは違った道を進んでいるのに、従来と同じ道を進んでいると信じ込むと、上手くいかないことは確実です。今回は今がどんな時代なのか、考えてみます。



安定的に発展してきた資本主義の政治的側面

しばらく前から「新しい資本主義」という言葉を耳にするのですが、何かしっくりこない気持ちがしています。「今はまだ資本主義の時代なのだろうか?今や『何か他の主義』の時代なのではないだろうか?」と感じてしまうのです。「ある観点からすると資本主義だと言えるが、別の観点からすると『何か他の主義』と言える」状況なのかもしれません。それを考える必要がありそうです。


資本主義はWikipediaで「国政によってよりも営利目的の個人的所有者たちによって貿易と産業が制御されている、経済的・政治的システム」と定義されています。

https://ja.wikipedia.org/wiki/資本主義


それ以前は封建主義で、産業革命やアメリカ独立革命、フランス革命等の市民革命によって資本主義に切り替わりました。政治に関与できるのは、それまでは封建君主あるいは封建君主から任命された者に限られていましたが、広く一般市民も関与できるようになったのです。


歴史的には「一般市民」がもともと裕福な男性に限られていたところ女性にも開放され、今では一定年齢以上の市民には参政権が与えられています。この観点からすると、現在も資本主義だと考えられます。市民革命以降、安定的に同方向に拡大してきたと言えるでしょう。



安定的ではない資本主義の経済的側面

一方で「貿易と産業が、国政よりも営利目的の個人的所有者たちに制御される」との表現の経済的側面は、それほど安定していないと感じられます。


市民革命が起きる前、政治体制は封建主義だった時代でさえ貿易や産業分野では手広く商売する事業者が大きな影響力を有していたでしょう。その矛盾を打破すべく事業者たちが封建君主を追い落としたのです。


彼らは政治に「経済行動の自由」を約束させた上で儲かる商売を行い、富が富を生む構図を作り出して経済力(資本力)を高めました。「お金がモノを言う」資本主義(資本主義1.0)が実現したのです。時代としては1700年代後半、自由放任主義から産業革命あたりまでが該当します。


そのうち大量生産時代になり、それも製品が鍋や釜など軽工業品から自動車などの重工業品になるにつけ、富を蓄えた事業者でも必要資金を集めることが困難になったので「株式会社」が発展しました。大金はないが小金がある一般市民からお金を集める仕組みができたのです。


そこではビジネスな上手な経営者が運営する会社の株式が好まれ、調達がより容易になり、発展できるという構図が生まれました。「不足しがちなお金を集めるのが上手な者が勝利者になる」資本主義(資本主義2.0)の台頭と言えるでしょう。時代としては1800年代後半、鉄鋼や自動車産業等の興隆から20世紀末頃までです。



最近生まれた新たな展開

西暦2000年を超えた頃から、これとは異なる構図が生まれました。ITなど新たに生まれたツール等に係る機器やシステム、インフラ等をゼロから想起して企画・実現・量産して提供するイノベーターが生じたのです。


ビル・ゲイツ(マイクロソフト)や、故スティーブ・ジョブズ(アップル)、ジェフ・ボゾス(Amazon)などのイノベーターたちは、人々の生活やビジネスを根本から変える製品やサービスを提供することで、それまで誰もイメージしたことのない(国家を超えるほどの)富を集め蓄積するようになりました。


彼らはもう、ビジネスを開始・推進するために周囲に頭を下げてお金を集める必要はありません。自らのお金の活用方法を幅広に考え、失敗はもろともせず投資し、新たな世界を切り拓いています。「新しいビジネスをイノベーションできるリーダーが主導する」資本主義(資本主義3.0)が生まれたのです。


資本主義の変化を簡単にまとめました。現在、つい20年前は夢想だにしなかった構図が出現・発展しています。このようにまとめた時に「新しい資本主義」は何を意味しているのだろうかと、考えてしまいます。


資本主義3.0を目指すのか?但し発表された文書等を読むとそうではなく資本主義2.0の増強を目指しているように感じられます。大勢にマッチしてはいるだろうけれど、これからを乗りこなしていけるのだろうか?そう危惧しまうのです。




本コラムの印刷版を用意しています

本コラムでは、印刷版を用意しています。印刷版はA4用紙一枚にまとまっているのでとても読みやすくなっています。印刷版を利用して、是非、未来を掴んでみてください。


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冒頭の写真は写真ACから fujiwara さんご提供によるものです。fujiwara さん、どうもありがとうございました。

 

プロフィール

落藤伸夫(おちふじ のぶお)

中小企業診断士事務所StrateCutions代表
合同会社StrateCutionsHRD代表
事業性評価支援士協会代表
中小企業診断士、MBA

日本政策金融公庫(中小企業金融公庫~中小企業信用保険公庫)に約30年勤務、金融機関として中小企業を支えた。総合研究所では先進的取組から地道な取組まで様ざまな中小企業を研究した。一方で日本経済を中小企業・大企業そして金融機関、行政などによる相互作用の産物であり、それが環境として中小企業・大企業、金融機関、行政などに影響を与えるエコシステムとして捉え、失われた10年・20年・30年の突破口とする研究を続けてきた。

独立後は中小企業を支える専門家としての一面の他、日本企業をモデルにアメリカで開発されたMCS(マネジメント・コントロール・システム論)をもとにしたマネジメント研修を、大企業も含めた企業向けに実施している。またイノベーションを量産する手法として「イノベーション創造式®」及び「イノベーション創造マップ®」をベースとした研修も実施中。

現在は、中小企業によるイノベーション創造と地域金融機関のコラボレーション形成について研究・支援態勢の形成を目指している。

【落藤伸夫 著書】

日常営業や事業性評価でやりがいを感じる!企業支援のバイブル

さまざまな融資制度や金融商品等や金融ルール、コンプライアンス、営業方法など多岐にわたって学びを続けながらノルマを達成するよう求められる地域金融機関渉外担当者が、仕事に意義を感じながら楽しく、自信とプライドを持って仕事ができることを目指した本。渉外担当者の成長を「日常営業」、「元気な企業への対応」、「不調な企業への対応(事業性評価)」、「伴走支援・経営支援」の5段階に分ける「渉外成熟度モデル」を縦軸に、各々の段階を前向きに捉え、成果を出せる考え方やノウハウを説明する。

Webサイト:StrateCutions

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