第1回
事業承継の成否を分ける「配偶者資本」の視点 —— 事業と家族を守るための「ファミリービルディング」とは
FORTUNA GROUP株式会社 村田 弘子
多くの経営者が、事業承継を「自社株の移転」や「後継者の育成」といった実務的な課題として捉えています。しかし、ファミリービジネスが数世代にわたり持続的成長を遂げるために、決して避けて通れないもう一つの本質的な課題があります。
それは、経営者や後継者を支えるパートナー、すなわち「配偶者の存在」をどう経営戦略に組み込むか、という点です。
今回は、単なる「結婚」や「家族の情愛」という枠組みを超え、事業の永続性を左右する「配偶者資本(Spousal Capital)」という概念と、それを最大化する「ファミリービルディング」について、経営者(親)が持つべき視点をお伝えします。
1. 「内助の功」を「資本(Capital)」として再定義する
これまで日本のファミリービジネスでは、妻の役割は「内助の功」という美徳で語られ、あくまで家庭内のこととして、経営の文脈からは切り離されてきました。
しかし、欧米の研究や実際のコンサルティング現場では、この認識は変わりつつあります。
経営者の精神的な安定(メンタルヘルス)、創業理念の次世代への伝承、そして親族や従業員との潤滑油としての機能。これらは、企業がコストをかけても容易に手に入らない、代替不可能な「配偶者資本(Spousal Capital)」です。
経営者である親御様自身が、まず奥様の長年の貢献を「家庭のこと」と矮小化せず、事業存続に不可欠な「無形資産」であったと再認識すること。これが、次世代の承継を成功させるための第一歩となります。
2. 次世代に必要なのは「監視」ではなく「ファミリービルディング」
後継者の結婚相手に対し、漠然とした不安や懸念を抱く経営者は少なくありません。しかし、その不安を「相手の品定め」という形で解消しようとすると、家族間の溝は深まるばかりです。
ここで必要なのは、管理的な発想ではなく、「ファミリービルディング(強い家族の構築)」という視点です。「誰とならば、この事業の重圧を分かち合い、共にファミリービルディングを行っていけるか」という視座を持たせることが、現代の帝王学として重要です。
3. 「戦略的パートナーシップ」としての結婚へ
一般家庭の結婚と異なり、ファミリービジネスにおける結婚は、事業(ビジネス)、家族(ファミリー)、所有(オーナーシップ)の3つの円が重なり合う、複雑なシステムの中への参入を意味します。
だからこそ、後継者のパートナー選びや夫婦関係の構築は、個人の自由任せにするのではなく、「事業の持続可能性(サステナビリティ)を高めるための戦略」として捉える必要があります。
これを「不自由」と捉えるのではなく、「事業と家族を共に繁栄させるための最強のチーム作り」と捉え直すことができるか。
親である現経営者がその視点(配偶者資本の重要性)を示せるかどうかが、円滑な事業承継の鍵を握っています。
事業承継において、財務や法務のチェックは万全でも、「家族と事業の関係性」は見過ごされがちです。
将来の結婚や承継について、本人はどう考えているのか。親子だからこそ聞けない本音や、遠慮して踏み込めない領域が、実は事業リスクになり得ます。
時間が経過し、選択肢が狭まってしまうその前に。
「対話のきっかけ」をどう作るか、まずはそこからご一緒に考えてみませんか?
少しでもお悩みでしたらご連絡ください。些細なご相談でもお気軽にどうぞ!
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プロフィール

村田 弘子(むらた ひろこ)
FORTUNA GROUP株式会社 代表取締役
一般社団法人事業承継結婚推進機構 代表理事
創業70年の会計事務所に2代目妻として入社。その現場にて、財務内容は健全でありながら、ご子女の未婚や後継者不在が原因で黒字廃業に向かう現実を目の当たりにする。
現在はファミリービジネスアドバイザーとして、事業承継学会やAsia Pacific Family Business Symposium等での研究発表を行い、海外研究者とも連携を持ちながら最新の知見を深めている。その知見を活かし、後継者育成・配偶者選び(ファミリー構築)の現場にて、「ファミリーマネジメント」の視点からオーナー家に深く寄り添い、持続的成長を支援している。
<強み・実績>
ファミリービジネスの事業承継の鍵を握る「家族の問題」解決に特化。ビジネス・オーナーシップの実務専門家と協力し、事業承継全体を視野に入れながら、「個人の幸せと事業承継の成功の両立」を目指す支援を行う。「積極的なファミリー構築」から、後継者が新しい役割になじみ次の承継準備に至るまで、子女教育や結婚相談を含めた包括的なライフステージ支援でオーナー家に寄り添い、支え続ける。著書に『事業承継結婚という家族戦略』ほか。
Webサイト:FORTUNA GROUP株式会社
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